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郵便配達は二度ベルを鳴らす

ジェームズ・M・ケイン/著 、田口俊樹/訳

539円(税込)

発売日:2014/09/01

書誌情報

読み仮名 ユウビンハイタツハニドベルヲナラス
シリーズ名 Star Classics 名作新訳コレクション
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-214203-5
C-CODE 0197
整理番号 ケ-3-1
ジャンル 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、評論・文学研究
定価 539円

フランクは豊満な人妻と組んで亭主殺害を計画するが……。不朽の名作が新訳で登場。

何度も警察のお世話になっている風来坊フランク。そんな彼がふらりと飛び込んだ道路脇の安食堂は、ギリシャ人のオヤジと豊満な人妻が経営していた。ひょんなことから、そこで働くことになった彼は、人妻といい仲になる。やがて二人は結託して亭主を殺害する完全犯罪を計画。一度は失敗するものの、二度目には見事に成功するが……。映画化7回、邦訳6回のベストセラーが新訳で。

書評

罪つくりな新潮文庫

林家正蔵

 この原稿の御依頼を頂いた時は、嬉しくもあり、有難くもあり、戸惑いもあり、とはいえ少々面倒なので、困ってしまった。そりゃそうでしょう。新潮文庫の中から好きな本を三冊だけ選ぶだなんて。
 一冊なら、儘よ、これだ、で決めてしまうし、十冊となればダラダラと、いろんなジャンルからチョイスもできる。三冊とはなんとも選者泣かせだし、読者諸氏には、きっとどの本を並べたかで、こいつはどんなセンスをしているのか、お里が知れてしまう。
 かくいう私も実際他の人が選んだものには、本に限らず、映画・ジャズのCD・旨いラーメンに至るまで、つい茶々を入れてしまう。ひねくれ者だ。しかし、待てよと留まったのは、今まで私は新潮文庫を通してどんな本に出会い、心揺れ、ときめき、知的快楽や感動を貰ったことか、改めて確かめたくなったからだ。そこでこうして筆をとった。
 それでも多い。気が遠くなるほどのタイトルを前にして、ふと思いついたのだが、以前より仲良くして頂いている担当のT氏にチョイスしてもらい、まず二十冊に絞ってもらった。氏曰く、私の読書傾向を探っての勘を頼りの作業とのことだったが、見事に的中。あら懐かしや、そうそうコレコレ。記憶の中に埋もれてしまった名作を見事に掘り出して頂きました。少々枕が長くなりましたが、本題に入ることに致します。
 宮部作品との出会いは、山本周五郎賞受賞作『火車』からだ。やられました、ガツーンと。おいおい犯人が来るぞ! ハイ、おしまい。エーッ。お見事。こんなミステリー読んだことがない、凄い作家に出会った、という胸のざわつきは未だに忘れがたい。それ以来宮部ワールドの虜となる。ミステリーでも、いわゆる時代物は、江戸噺を飯の種としている商売柄、お勉強のつもりで己の腹に、お江戸の街・人・風俗・食べものを納めてみようと本を手にするのだが、ついつい作者のおりなす物語にひきこまれ、気がつけばお勉強の間もなく、満足して読了してしまっている。『本所深川ふしぎ草紙』は吉川英治文学新人賞の受賞作でもあり、噺家の本好きの間では、ゆるぎない名作といわれているが、愛しさでは本作『初ものがたり』が上回ってしまった。
 稲荷寿司屋台の親父の正体は? 梶屋の勝蔵との因縁は? 日道坊やはどうなるのか? 霊視の力は本物か?――等々のモヤモヤが山積しているのだが、それをさっぴいても、おもしろい。また登場する江戸の味覚の数々。食いしん坊にはたまらず、また香り立つ江戸言葉に舌鼓ならぬ“目鼓・耳鼓”を打ちたくなる。
 宮部作品は、長編もよいが、短編における小股の切れあがった仕上がりも素晴らしく、感に堪えない。そして本編を読み終えてからのお楽しみが「新潮文庫版のためのあとがき」である。“このたび……”からはじまる、まるで口上口調の文体には、筆者ならではの気持ちとユーモアが混在しており、後味まことによし。
 このようなおまけは、文庫ならではである。宮部先生におかれましては是非に続編をお願いしたい。

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 年間いくつもの新訳ミステリーを読んでいると、次から次へと世の中に出版される新刊にふりまわされ、名作をふたたび手にする機会がなかなかなかった。久し振りに本作(『郵便配達は二度ベルを鳴らす』)を読み、さすが永遠のベストセラーという帯のキャッチにいつわりはなかった。おもしろい! 色褪せないそのストーリー展開。そしてなにより田口俊樹氏による満を持しての訳の妙。
 先日、『日々翻訳ざんげ』という田口氏の著書を読んだばかりで、その中で巻頭の頁に本作品の歴代翻訳の違いが列記されていた。いずれも訳者の味わいが異なっている処にとても興をそそられた。
 田口氏の訳でこの不朽の名作が世に出るのはまことに嬉しく、またしばらくしてから今一度楽しみたいと思わずにはいられない。もちろん訳者あとがきは必読である。

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さよならバードランド』はジャズマンの回想録であり、先年亡くなられた和田誠氏によるミュージシャンのイラストも素晴らしい。画から音が聴こえてくるようだ。巻末の訳者(村上春樹)による「私的レコード・ガイド」にジャズファンは感涙する。

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 もう三冊あげてしまった。『羊たちの沈黙』、『絶対音感』、『チャイルド44』と他にも……あー、この頁は罪つくりだ。

(はやしや・しょうぞう 落語家)
波 2021年8月号より

著者プロフィール

米国メリーランド州アナポリス生れ。父親は大学の学長、母親はオペラ歌手というインテリ家庭に育ち、少年時代にはオペラ歌手をめざした。ワシントン・カレッジで修士号を取得し、第一次世界大戦従軍をはさんでジャーナリストとして活躍。1931年にハリウッドに移って映画脚本を手がけつつ、小説を執筆。1934年『郵便配達は二度ベルを鳴らす』で長編デビューを果たし世界的大ベストセラーに。他に『殺人保険』(1943年)など著書多数。

田口俊樹

タグチ・トシキ

1950年、奈良市生れ。早稲田大学卒業。“マット・スカダー・シリーズ”をはじめ、『チャイルド44』『パナマの仕立屋』『神は銃弾』『卵をめぐる祖父の戦争』『ABC殺人事件』『偽りの楽園』など訳書多数。著書に『おやじの細腕まくり』『ミステリ翻訳入門』。さらにフェロー・アカデミー講師として後進の育成にあたっている。

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