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京都は日本史の宝箱である――著者のライフワークというべき好評のシリーズ、待望の続刊!

京都発見(三)―洛北の夢―

梅原猛/著 、井上隆雄/写真

2,750円(税込)

本の仕様

発売日:2001/05/31

読み仮名 キョウトハッケン3ラクホクノユメ
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-303015-7
C-CODE 0095
ジャンル 日本史
定価 2,750円

天皇家との深い関わりで知られる八瀬、悲運の皇子・惟喬親王の足跡を遺す洛北の里々、小野妹子に始まり小野道風らを輩出した小野氏の根拠地、三千院や寂光院を擁する大原、天狗が義経を育んだ鞍馬や貴船など、洛北を中心に“冷凍された日本史”の解凍を試みる好評のシリーズ、カラー写真や新史料も満載した待望の続刊!

著者プロフィール

梅原猛 ウメハラ・タケシ

(1925-2019)1925年宮城県生まれ、哲学者。国際日本文化研究センター顧問。京都大学文学部哲学科卒業。立命館大学教授、京都市立芸術大学学長、国際日本文化研究センター所長などを歴任。縄文時代から近代までを視野におさめ、文学・歴史・宗教等を包括して日本文化の深層を解明する幾多の論考は〈梅原日本学〉と呼ばれる。著書に『隠された十字架一法隆寺論』、『葬られた王朝一古代出雲の謎を解く』、『親鸞「四つの謎」を解く』(以上すべて新潮社)など多数。

書評

波 2001年3月号より 洛北の里の物語  梅原猛『京都発見(三)洛北の夢』に寄せて

橋爪紳也

■新世紀の炎

 二千年の大晦日。国内でもっとも多く人出があったのは、東京ディズニーランドだったそうだ。かつてディズニーランドをアメリカ人が群れ集う「聖地」であると、その構造を読みとく人がいた。同様に東京湾岸に出現した複製の楽園もまた、日本人がしばしば参拝するメッカとなった観がある。

 世紀を越えるその瞬間、二番目に多くの人が集った場所が、わが京都であったという。呼び物は新世紀を記念する大文字の送り火、そして都心での鞍馬の火祭りの演出である。京都を代表する祭礼を、通常とは異なる真冬の夜に眺めることができたのだ。歴史が重なっている都市であるがゆえに可能となる、新しき祝祭の演出である。

 私自身は、衛星放送のテレビ「京都チャンネル」の特番に出演、ライトアップされた平安神宮にあって薪で照らされた舞台を眺めつつ年を越した。モニターには、市役所が面する御池通りをはじめ、都心一帯で繰りひろげられる祭典の様子が映しだされていた。群衆が、都の外に目を向け、山々に浮かびあがる炎の記号を見つめている。また洛北、鞍馬の山中から届けられた大松明の雄壮なゆらぎに、多くの人が魂を奪われた。

 アメリカから伝来した脳天気な遊園地では、ハリボテの西洋の城をかきわりとして、このうえなく華麗な花火が東京湾を明るく照らし世紀の末を祝った。その同じ宵、ふるき都では、世代を越えて伝えられた炎が街を照らしだしていた。等しく都市的な出来事の場であっても、その光景の対比は印象的である。

■里の物語

 京都で暮らす私たちにとっては、いまだ洛中と洛外という空間の概念は息づいている。とりわけ、まちなかで暮らす人にとっては、幾重にも重なる北方の山々には、そして洛北の里に対しては一種独特の想いがある。

 鴨川の橋上から見通す北山の風景は、都人の原風景に数えられる。また大文字をはじめとする五山の送り火の際には、おのずと人々のまなざしは北に向かう。ただ私たちは単に山なみや送り火を眺めているだけではない。時を同じくして、網膜に写る風光のはるか彼方にある、得体の知れない「何か」と向き合っているのではないか。

 都市と自然、人と自然という単純な二項対立で、生活空間を区切り把握することの意義は無効になっているのだろう。しかし京都にあっては洛外、とりわけ洛北の里は、人が開いた洛中とはあざやかな対比をなす。そこは自然の力、神秘的な存在で充たされているように思える。先に述べた大晦日の祝祭にあっても、人智を超えた光、都市を浄める炎が北方から都にもたらされたように思えてならなかった。

 現代の都市にも、対となる山里が必要なのではないか。そんなことを考えている時、『京都発見』第三巻の原稿を読む機会を得た。一連の書は、想像力のただなかに現身を泳がし、時に史料をひもときつつ、過去と現在を自在に往還する梅原流「京都論」である。三巻にあって著者は、まさに洛北の地、八瀬・大原・鞍馬・貴船などの山里を遊歩しながら、さまざまな異形の者、また都市を捨てて里に身を隠した者たちと時空を越えた対話をなしてゆく。面白く一気に読み抜けた。

■辺境の魅力

 著者は里をめぐり社寺を訪ねつつ、残された謎をたどり、持論を展開する。ざんばら髪の八瀬童子たちは縄文の遺民であるのか。寂光院は真に聖徳太子の建立した寺なのか。菅原道真の鎮魂のために、まず設けられたとされる「矢背天神宮」の伝承の真意。山王様から天神への氏神の変更と埋められた御輿の謎解きはいかに、といった具合だ。また争いに敗れ、希望を無くし都を捨てた高官や僧侶が隠棲した小野郷、すなわち大原では、声明を教養から切り捨てた近代における選択を批判する。鞍馬では魔王尊と天狗談から、中世の物語にある残酷さへと想いをはせる。

 土地勘のある私にしてみれば、どの物語もこのうえなく興味深い。実は私の前の職場は、岩倉から鞍馬に向かう途中、北山の懐に抱かれた谷筋にあった。高みに昇れば、西に愛宕山を、東に比叡山を望むことができる美しい場所だ。十年ほど、都心と四季折々に美しき山里を往復する日々が続いた。実際、なかば洛北の里に棲んでいたといっても良いだろう。

 私には、この書に書かれている、かつて世を捨てて隠遁した者たちの想い、この地を徘徊したであろう妖しのものどもの気持ちが判るような気がする。都市の喧噪からわずかに離れているだけなのだが、あきらかに都市にはない魅力、妖しさ、あやうさ、そして諦めなどが漂っている。人の手が入っていない大自然のなかでは知覚できない、その種の感覚の総体こそ、私は「自然」と呼ぶにふさわしいのではないかと密かに思っている。そして辺境の魅力は、複雑な感性が混合した結果もたらされる、微妙な多様性のなかにこそ見いだされるのだろう。

(はしづめ・しんや 建築史、都市文化論 大阪市立大学文学部助教授)

▼梅原猛(写真・井上隆雄)『京都発見(三)洛北の夢』は、四月刊

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