
これはいつかのあなたとわたし
1,815円(税込)
発売日:2025/09/25
- 書籍
- 電子書籍あり
笑って、怒れなかった、あの日のあなたがここにいる。大人気エッセイ集。
「原稿、泣きながら拝んで読みました」と持ち上げながら必ず直しを命じる編集者。BE:FIRSTのLEOさんが涙ながらに語った決意、初ラブホでの醜態、母の口癖、J-WAVEに届くブラックなお悩み相談。日常と非日常の忘れられない/忘れかけたことを綴り、あるあると哀愁に満ち満ちた随想、これぞ日本のオアシス。
バディ
人生は、ぬか喜びの連続な気がする
「燃え殻、推薦!」
人も、街も、夢も変わっていく
ズバリ! 幕の内弁当ー食分
精一杯のお手
美しい鼻歌と、セブンスターの香り
思っていたまんまの印象
住んでる世界が違う
人はとかく大掴みだ
テイクばかりの人
「絶対に出るな、かけるな」
自意識感知レーダー
プロの「すみません使い」に出会った
咄嵯に取りつくろってしまう
底辺は存在しない
あの日のことをまた書いてしまった
大橋裕之 マンガ「連載200回を超えて」
第二回錦糸町プチ同窓会
ピンクパンティー事件
未来を怖がらないように
「ほら見て、まだあの頃のサイン書ける」
「÷」という記号はUFOに似ている
おはようおじさん
大部屋で終わるか、個室で終わるか
『愛』
トボトボ、ボソボソ、ヒソヒソと
大橋裕之 マンガ「弾き語りライブのこと」
今日三度目の「ビックリしてます!」
「後方腕組み彼氏面」的な女性
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている
褒めそやされ注意報
すべては、いつかのなにかに似ている
大橋裕之 マンガ「燃え殻さんのラジオに出た時のこと」
LIFE IS COMIN’ BACK
その日、日比谷野外音楽堂は雨が降っていた
運命は過去形がよく似合う
ファッション落伍者とファッション黒帯
スマートフォンからの卒業
馬面は成人したらある程度治る
「一番近くの海まで」とだけ告げる
「まだ頑張っているか?」
年齢からくるコクとキレ
初ラブホが初介護と化してしまった夜
餃子ひと皿の気苦労
突き抜けた常連には定年がない
ギリギリ過ぎるのは、祖母ゆずりかもしれない
僕たちはみんなで生きている
僕はこんなことを考えて生きてきた
良いことも悪いことも、そんなに長くつづかないから
アメリカ、シカゴのバスルームより
気づくと夕暮れになっている
うたた寝の人
書誌情報
| 読み仮名 | コレハイツカノアナタトワタシ |
|---|---|
| 装幀 | 大橋裕之/装画、熊谷菜生/装幀・題字・ブックデザイン |
| 雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
| 発行形態 | 書籍、電子書籍 |
| 判型 | 四六判変型 |
| 頁数 | 216ページ |
| ISBN | 978-4-10-351016-1 |
| C-CODE | 0095 |
| ジャンル | エッセー・随筆、ノンフィクション |
| 定価 | 1,815円 |
| 電子書籍 価格 | 1,815円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2025/09/25 |
書評
なんだか救われていくような気がしてくる
日常は面倒なことばかりだ。その原因は、ほとんどが人間だ。人間は人間同士で人間に疲れきっている。こんな調子だから人間は救いを求める。自然、芸術、笑い、映画、書物、音楽、燃え殻さん。そう、私は、燃え殻さんのエッセイを読むと、なんだか救われていくような気がしてくる。
社会のささいなところ、辺鄙なところに目を向ける。燃え殻さんの視線は優しい。この優しさが救われる所以だ。本書は、燃え殻さんが出会ってきた多くの人が登場する。教室でキャッチボールをしている体育会系の同級生、頓着ない学校の先生、不思議な魅力の漫画家大橋裕之さん、ちょっと得体の知れないファン、己のイチモツに声をかけているおじいさん、まだまだ色んな人が登場する。変な奴、面白そうな奴、良い奴もいるが嫌な奴もいる、失礼な奴も出てくる。しかし、ユーモアを交えて書いてあるので楽しい。そして燃え殻さんは、とにかくダメな人間に優しい。これは、彼自身が粗忽者だからというのもあるのだろう。本書を読めば、燃え殻さんが子供の頃から筋金入りの粗忽者だというのがわかる。妹のパンティーを穿いて小学校に行ってしまったエピソードは強烈だ。笑い過ぎて、申し訳ない気持ちにすらなった。
さらに、燃え殻さんの目を通して世間をのぞくと、街、人、色、空、風がからみ合い、郷愁が湧きたってくる。まさに詩人のなせる技だ。だが当人は詩人だなんて意識していない。そこが良い。「美しい鼻歌と、セブンスターの香り」というエッセイが収録されている。そこから引用してみる。「知らない土地で迷子になるのは怖くなかった。両親の田舎に帰ったときも、ひとりでテキトーに町を散歩して、路地を曲がって、三叉路の真ん中で佇み、もう家族に二度と会えないんじゃないか、と思う瞬間も怖くなく、嫌いじゃなかった。あの感情はなんだったのだろう」。ここに魅力が詰まっている。やはり詩人だ。不安定だが不思議に落ち着いた感じ、夢見心地の心地よさとひりひりとしたリアリティ、現実逃避ではないが、読んでいると、現実からストンと抜け落ちることができる、そこには、ほうけたような心地よさがある。
詩人で救い主。こんな風に書くと、「あたしゃ教祖である!」と宗教団体を始めるか自己啓発本みたいだが、そんなことは断じてない。誰かが、そのように祭りあげても辞退するだろう。むしろ、カリスマ視されることは嫌いだと思う。それでも、燃え殻さんは、救ってくれそうな、話を聞いてくれそうな雰囲気がある。なんというか、隣の兄ちゃん的な親しみやすさを醸し出している。本書でも、掃除のおばちゃんや公園の子供など、いろいろな人が話しかけてくる。このようなことを書いていたら思い出した。あれは、燃え殻さんと初めて会ったときのこと、正月の東京ドーム、新日本プロレスの興行だった。知人に誘われて、そこに行くと、燃え殻さんがいた。まだ作家デビューする前で、テレビの美術制作会社で働いていると話していた。知人からは「Twitterで凄いことになっている人」と紹介されたが、正直、何者かわからなかった。笑顔が気を緩めてくれ、第一印象がとても良かった。プロレスを観戦していたら、後ろから「きゃっきゃ」と女性の楽しそうな声が聞こえてきた。見ると燃え殻さんは、隣にいた二人組、ちょっとヤンキーっぽい女子と話していた。一応、燃え殻さんの名誉のために言っておくが、燃え殻さんがナンパしたとか色目を使っていたわけではない。あくまで女子の方から話しかけてきた。そして、いつの間にか盛りあがって、一緒に応援をしていた。帰り際、「飲みにいこう、あとで合流しよう」と女子が言った。その後、飲んでいる最中、「どこで飲んでるの~」と燃え殻さんに電話がかかってきた。結局、会うことはなかったが、その話を数年後、再会したときに話したら、燃え殻さんはすっかり忘れていた。今にして思うと、あの女子たちも隣で燃え殻さんの雰囲気を感じ取り、どうしても話したくなったのだと思う。
穏やかな笑顔、なにか聞いてくれそうな雰囲気。この救い主たる所以を探っていくと、本書にも出てくる、一杯飲み屋をやっていた燃え殻さんのお祖母さんに行き着く。優しくて、気っ風がよく、ユーモア満載のお祖母さん。入院しているのに、ベッドを抜け出し、タバコを吸いながら笑顔のお祖母さん。燃え殻さんが、なにがあっても最終的にはへこたれずにやってこれたのは、このお祖母さんの影響が大きいのではないか。そして私たちは、燃え殻さんの本を読みながら、己の現状を見つめ直し、こんくらいでへこたれなくていいと思えてくる。
(いぬい・あきと 作家)
波 2025年10月号より
単行本刊行時掲載
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著者プロフィール
燃え殻
モエガラ
1973年生まれ。2017年『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビュー。同作はNetflixで映画化、エッセイ集『すべて忘れてしまうから』はDisney+でドラマ化、『湯布院奇行』が朗読劇化(原作)、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』がコミック化とHuluでドラマ化(原作と脚本)された。著書に小説『これはただの夏』、エッセイ集『それでも日々はつづくから』『ブルー ハワイ』『愛と忘却の日々』ほか。




































