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画家とモデル―宿命の出会い―

中野京子/著

1,925円(税込)

発売日:2020/03/25

  • 書籍

密かに紡がれた愛情、過酷な運命の少女への温かな眼差し。名画に刻印された知られざる関係と画家の想いを読み解く!

生涯独身を貫いた画家サージェントによる黒人青年のヌード。身分違いの女公爵への愛のメッセージを絵のなかに潜ませたゴヤ。遺伝的疾患のために「半人半獣」と呼ばれ差別された少女を情愛をもって描いたフォンターナ。リアリズムの巨匠ワイエスが15年にわたり密会し描いた近隣の人妻。絵に画家が刻み込んだ、モデルとの深淵なる関係。

目次
晩年に得た真のミューズ
サージェントと《トーマス・E・マッケラーのヌード習作》
「飛んでいってしまった」
ゴヤと《黒衣のアルバ女公爵》
母として画家として
ベルト・モリゾと《夢みるジュリー》
守りぬいた秘密
ベラスケスと《バリェーカスの少年》《道化セバスティアン・デ・モーラ》
レンピッカ色に染める
タマラ・ド・レンピッカと《美しきラファエラ》
愛する母をマリアに
ギュスターヴ・モローと《ピエタ》
大王と「ちびの閣下」
メンツェルと《フリードリヒ大王のフルート・コンサート》
伯爵の御曹司とダンサー
ロートレックと《ムーラン・ルージュ、ラ・グリュ》
野蛮な時代の絶対君主に仕えて
ホルバインと《デンマークのクリスティーナの肖像》
愛のテーマ
シャガールと《誕生日》
過酷な運命の少女を見つめて
フォンターナと《アントニエッタ・ゴンザレスの肖像》
真横から捉えた武人の鼻
ピエロ・デラ・フランチェスカと《ウルビーノ公夫妻の肖像》
破滅型の芸術家に全てを捧げて
モディリアーニと《ジャンヌ・エビュテルヌ》
妹の顔のオイディプス
クノップフと《愛撫》
宗教改革家との共闘関係
クラーナハと《マルティン・ルター》
画家の悲しみを照り返す
レンブラントと《バテシバ》
呪われた三位一体
ヴァラドンと《網を打つ人》
「世紀の密会」
ワイエスと〈ヘルガ・シリーズ〉
あとがき
主要参考文献

書誌情報

読み仮名 ガカトモデルシュクメイノデアイ
装幀 アンドリュー・ワイエス《編んだ髪》(C)Pacific Sun Trading Company courtesy Frank E. Fowler and Warren Adelson/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-353231-6
C-CODE 0095
ジャンル アート・建築・デザイン
定価 1,925円

書評

画家もモデルも僕らも、にんげんだもの

とに〜

「眠れる才能がいつどんなきっかけで発芽するかは、運命の女神の廻す車輪次第だ。」

 そんな書き出しから、「芸術新潮」での中野京子さんの画家とモデルを巡る連載はスタートしました。この一文はアール・デコを代表する女流画家タマラ・ド・レンピッカの人生に対してのものですが、中野さん自身の作家人生もまさにこれ。もともとは美術の専門家ではなかったそうですが、2007年に発表した『怖い絵』をきっかけに、美術の世界に鮮烈デビュー! 以降トップランナーとして多くの人に美術の魅力を啓蒙し続け、美術界にとっては無くてはならない存在となっています。どれだけの人が、車輪を廻してくれた運命の女神に感謝していることでしょう。
 ちなみに、専門家ではない立場から美術の魅力を伝えるという点では、似たような活動をしている僕。デビューした年も2008年と中野さんとほぼ同期ではあるのですが、中野さんの連載が始まった「芸術新潮」の同号では、「都内にある美術館を一日で何館巡れるか?」という身体を張る企画「美術館トライアスロン」にチャレンジさせられていました(結果は19館)。一体この違いは何? 運命の女神には、早いところ僕の車輪を廻して欲しいものです。
 と、余談はさておきまして。毎回楽しみにしていた連載が、このたび『画家とモデル―宿命の出会い―』という一冊の本にまとまったのは、大変喜ばしい限り。というのも、この本は、美術に興味がある人にはもちろんのこと、むしろ美術に興味が無い人にこそ読んでもらいたいから。「芸術新潮」は美術に興味がない人はほぼ手に取らない雑誌ですからね……(この書評を「芸術新潮」の編集部の皆さまが読まないことを願っています!)。どんな人でも美術への興味がむくむくと湧く魔法のようなこの文章が、多くの人の目に触れるのをずっと願っていました。
 美術に興味がない人の多くは、“美術は美しいもの”“美術は高貴なもの”“美術はお上品なもの”と思い込んでいて、自分には理解できないものと線を引きがちです。確かに、美術作品には、美しいもの、高貴なもの、お上品なものも存在しています。でも、それらも含めて、美術作品は、すべて人間が作ったもの。僕らと同じ人間が作り出したものなのです。そして、美術作品に登場する人物、すなわちモデルもまた僕らと同じ人間。理解できないわけがないのです。そんな当たり前ですが見落としがちな事実を、中野さんは教えてくれます。
 しかも、有難いことに、この本に登場する人物の多くは、こちらが引け目を感じるような立派な人間ではありません(笑)。「情熱大陸」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」というよりは、中野さんの淡々とした語り口もあいまって、まるで「ザ・ノンフィクション」を見ているかのよう。生真面目すぎて男社会で生きづらさを感じる女性画家の葛藤続きの生涯や、絶対君主の顔色を窺いながら心の休まらない日々を過ごす宮廷(サラリーマン)画家の人生など、涙と同情なしには読めないエピソードが次々と語られます。それらを読み終えるごとに、頭の中に「サンサーラ」が流れてくることでしょう。
「♪生きてる 生きている その現だけが ここにある~」
 今すぐ美術館に行って、彼らを応援したくなること請け合いです。
 なお、個人的に一番オススメの回は、「レンブラントの老後~意外な素顔~」(←本の中では「画家の悲しみを照り返す」というタイトルです)。《夜警》でお馴染みのオランダの巨匠レンブラント。その後半生は実に悲惨なものでした。まさに絵にかいたような転落人生。しかし、それでも絵は描き続ける老齢のレンブラント。控えめに言っても泣けますよ。
 さらに、この本では、皆さまの大好物である(?)不倫や愛人といった恋愛スキャンダルのトピックも多く登場します。それらの中には、画家が何十年もひた隠しにしていた衝撃的な事実も。中野さんは何でもお見通しなのです。まだターゲットになっていない画家やモデルの皆さんは草葉の陰で怯えているかもしれませんね。
 とはいえ、中野さんは決して“怖い人”ではありません。美術界の知られざる心温まるエピソードの数々もちゃんと取り上げています。
 きっとこの本に登場する誰かを好きになるはず。“宿命の出会い”が待っていますよ。

(とにー アートテラー)
波 2020年4月号より
単行本刊行時掲載

担当編集者のひとこと

「怖い絵」シリーズで大人気となった中野京子さんの『画家とモデル―宿命の出会い―』が発売されました。月刊誌「芸術新潮」で一年半にわたって続けられた人気連載をまとめたものです。
 中野さんの作品の魅力は、画家の人間性や歴史的背景に鋭く切り込む描写にあります。
 17世紀のスペインで、ベラスケスが威厳たっぷりに描いた小人症の人々の肖像。中野さんは「苛烈な時代に差別され笑われ奴隷として生きる彼らを、ベラスケスは個々の人生の主役として描く」と記し、頼まれて描いた王家の人々より迫力があるとしています。差別される彼らへの深い共感はなぜ生じたのか。中野さんはその答えをベラスケス自身が抱えた、決して知られてはならぬ「宿命」に結びつけます。
 本書カバーに掲載した米リアリズムの巨匠ワイエスが描いた人妻・ヘルガの肖像。15年に渡り密会を重ね、ワイエスが240点以上もの絵を描いたとされるヘルガとワイエスの関係はいったいどんなものだったのか。人知れずワイエスに描かれるごとに変化を遂げるヘルガを中野さんはスリリングに描写します。「やがてヘルガは少しずつ変貌してゆく。ワイエスがその独特の嗅覚で発掘した原石は、磨かれて水晶のごとく透明になる」。
 そのほか、ゴヤ、シャガール、モロー、レンピッカ、モディリアーニなどの画家とモデルの驚きの人間ドラマと名画誕生秘話、ぜひお読みください。カラー図版37点を収録しています。(出版部・K)

2020/04/30

著者プロフィール

中野京子

ナカノ・キョウコ

北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に関する雑誌連載、書籍などの執筆のほか、講演、テレビ出演など幅広く活躍。著書に『画家とモデル』(新潮文庫)、『愛の絵』(PHP新書)、『名画と建造物』(KADOKAWA)、『名画の中で働く人々』(集英社)、『クリムトと黄昏のハプスブルク』(文藝春秋)、『怖い絵』シリーズ(角川文庫)、『名画の謎』シリーズ(文藝春秋)、『名画で読み解く王家12の物語』シリーズ(光文社新書)、『美貌のひと』シリーズ(PHP新書)、『「怖い絵」で人間を読む』(NHK出版生活人新書)、『欲望の名画』(文春新書)など多数。2017年「怖い絵展」監修。

ブログ「花つむひとの部屋」 (外部リンク)

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