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きらきらし

宮田愛萌/著

1,980円(税込)

発売日:2023/02/28

  • 書籍

「卒業制作」としてお気に入りを詰め込んだ、初の小説集。

誰もが、切なくて愛おしい、きらきらした欠片を持っている──。日向坂46からの卒業を発表した宮田愛萌による、大好きな万葉集から想像を膨らませて執筆した5つの物語とそれを元に撮影した万葉の都・奈良への旅。全開の笑顔からドレスをまとう大人びた表情、本人こだわりの袴姿まで、アイドルとして最後の姿を収めた一冊。

目次
ハピネス
坂道の約束
紅梅色
好きになること
つなぐ

書誌情報

読み仮名 キラキラシ
装幀 ニマユマ/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-354941-3
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,980円

インタビュー/対談/エッセイ

ルールを破るかわいい不良に

千早茜宮田愛萌

先日直木賞を受賞された千早さんと、高校生の頃にその著書と出会ってからずっと愛読しているという宮田さん。大好きな千早さんの作品について、そして創作について語り合いました!

『しろがねの葉』の推しは誰?

宮田 はじめまして。今日はかなり緊張しています。こんなファンに会うって気が重くないかなと。『しろがねの葉』の直木賞受賞、おめでとうございます。本当に嬉しかったです。

千早 ありがとうございます。こちらこそがっかりされないかなって思いながら来ました。よくツイッターでフォロワーの方が「宮田愛萌さんが千早さんの本を紹介していますよ」って教えてくれるんです。

宮田 勝手にブログなどで千早さんのご本について書かせていただいて。『しろがね』も何回も読みました。男性キャラクターの中では誰推しかを編集さんと話していたのですが、私は断然、ヨキ(主人公ウメを引き取った天才山師・喜兵衛に従う影)が好きです。

千早 ヨキ派が一番多いんですよ。

宮田 やっぱり、そうですよね! 千早さんは誰推しなんですか。

千早 私は龍(赤ちゃんの頃からウメが面倒を見ていた年下の青年)派です。花とかくれる穏やかな人が好きです。隼人(ウメとともに育った幼馴染の銀掘)派は意外と少なくて。でも男性からの人気は高いですね。まっすぐな男! みたいなところがいいのかなと。

宮田 隼人も好きなんですけど、推しにするには違うんです。物語の主軸として出てくるキャラとしては最っ高の最高なんですけど、推しではなくて。推しがいがあるほうが好きです。

千早 推しがい……。やっぱりアイドルがお仕事だったから、推す気持ちがわかるのでしょうか。昨日ちょうど、アイドルの方はファンの方の気持ちが想像できるんだろうかという話をしていて。

宮田 私はオタクだったので、どちらかというとファンの方の気持ちのほうがわかります。元々アイドルが好きでなりたいと思ってアイドルになる人が多いのではないかと思います。

千早 そうなんですか。私は人生で生身の人間を推すことがなかったので、推しの気持ちがあまりわからなくて。

宮田 いつでも推しが欲しいタイプと、そうでないタイプとに分かれますよね。

“ブックガイド”宮田愛萌

宮田 『しろがね』はなんで石見銀山を舞台にされたんですか。

千早 偶然旅行で訪れたとき、現地のガイドさんに聞いた、石見の女性は三人の夫を持ったという話に興味をひかれたんです。人生で三人も好きな人を看取るのはどんな感じだろうと思って書きました。今までと異色な作品なので、『しろがね』から入った人が他の作品をどう捉えるか不安はあります。

宮田 でもやっぱり表現とかは千早さんのカラーなので、この雰囲気が好きになったら、全部めっちゃ好きになると思います。

千早 そうですか? これを読んだあとに『男ともだち』とかの現代ものを読んだら「えっ」となりそうで。

宮田 確かにびっくりするかもしれませんね。『しろがね』の次は現代ものにいきなり行くより、『魚神』とかを読むのがいいかもしれないです。

千早 すごい、ブックガイドみたいになってる!

宮田 はい(笑)。ファンの方に、これを読んだんだけど次は何がいい? と聞かれるので、その次はこれかな、みたいな話をいつもしていました。

千早 ありがたいし、心強い(笑)。宮田さんはどの作品が一番お好きなんですか。

宮田 うーん、どれも大好きだから悩みますね……。でも、千早さんのナンバーワンをあえてあげるなら『魚神』です。以前「ダ・ヴィンチ」さんの好きな本を語るというテーマでインタビューを受けた時にも好き勝手に語らせていただきました。

千早 アイドルが勧めるにはなかなかハードですね。娼婦の話ですし。

宮田 そうですね、事務所にもちゃんと確認しました(笑)。あと、初めて読んだ千早さんのご本、『桜の首飾り』は思い入れがあります。

千早 『桜の首飾り』はデビュー前に書いた短編もいくつか入っています。バイトで疲れて帰ってきたときに家でノートに書いたものとか。今回、宮田さんの『きらきらし』を拝読して、この作品を書いていた頃のことをふっと思いだしたんですよね。

宮田 そうなんですか! 手に取ったのは本当に偶然だったんですけど、千早さんに出会った運命の一冊になりました。あの話たちが連作短編として一冊の中に連なっていることが幸せなんです。儚くて、美しくて、気高くて。

千早 嬉しいです。宮田さんは書くのと読むのはどっちが好きですか?

宮田 読む方が好きです。

千早 直木賞の授賞式で、小川哲さんが、最期の瞬間も多分自分は読者でいるだろうとおっしゃっていて、浅田次郎先生もそうだと。でも、私は書きたいんですよね。死ぬ前の視界がどんな感じかとか、息が絶えるその瞬間も可能なら文字にしたい。同じ物書きでも分かれるんだなと思いました。

宮田 読むことによって自分がどういう感情になるかが気になるんです。読み終わった後に、読む前と比べてどう自分が変わったかみたいなことも気になって、いつでも読んでいたいです。

千早 私は書いているときは文体が引きずられてしまうことが怖くて絶対読めない。読めるのは漫画くらいです。

通常帯と候補帯と受賞帯が欲しい!

宮田 『しろがね』の直木賞受賞の帯は持っていなかったので、そちらを今日編集さんにいただけたのが嬉しかったです。通常帯のかかった本は3冊持っていますが、候補帯の本は書店でもすぐ品切れになってしまって。

千早 え、帯が欲しいんですか?

宮田 やっぱりファンとしては、記念なので欲しいなと……。この本を一回目に読んだとき、この本を帯が変わってからまた読んだとき、と思い出せるのも嬉しい。装幀もすごく好きです。

千早茜

千早 ありがとうございます。本当に本が好きなんですね。装幀に口を出さない作家さんもいますけど、私はわいわいみんなで作るのが好きで、編集さんやデザイナーさんと相談して考えますね。

宮田 これ(カバーを外した表紙の絵)がめっちゃいいですよね。

千早 ここは気づかない人が多いから嬉しいです。装幀担当の方が石見の古地図を元に描いてくれました。

宮田 そうなんですか! カバーを外したらまた別の本みたいで良くて。

千早 『西洋菓子店プティ・フール』の文庫も、題字は挿画の西淑さんに書いてもらいました。友人なのですが、既存のフォントがどうしても作品に合わないと相談したら、「やってみるけん」と。ありがたかった。

宮田 めちゃめちゃかわいいです!

千早 装幀にも色々思い出があるから、そう言ってもらえて嬉しいです。

宮田 装幀が凝った本って、手に取った感じも全然違うじゃないですか。手触りとか。そこがいいんですよね。

千早 尾崎世界観さんは匂いが違うと言っていました。あと、小説家になる前から好きだった川上弘美さんの装幀をよく手がけていたデザイナーさんに本を作ってもらえるようになったのが嬉しかったです。『透明な夜の香り』もそうで。今度続編が出るんですよ。

宮田 はい、それを聞いたとき、踊りました! リビングで一人喜びの舞を踊って愛犬に吠えられました(笑)。

執筆は文字数との戦いの連続!

千早 『きらきらし』の中の五篇は、どれくらいの時間でどういう順番で書かれたんですか。

宮田 かつかつのスケジュールで、三ヶ月ぐらいで書きました。「坂道の約束」は本当に一日で書いて。「紅梅色」は元の原稿がすっごい長くて、今の二倍半ぐらいありました。書いた順番は、「ハピネス」「紅梅色」「坂道の約束」「好きになること」「つなぐ」です。

千早 ありがとうございます。上から目線のようで本当に申し訳ないのですが、読んでいてだんだん上手くなっていると思ったので、書いた順番が気になっていました。納得です。「紅梅色」はなぜ短くしたんですか?

宮田 ページの関係で……(笑)。事前に文字数はいただいてたんですけど、終わらなくて、どんどん長くなっていってしまいました。一番大変だったのは文字数を削ることでした。千早さんはどうされているのですか。

千早 私は文字数によって物語の構成を考えるので、短編を途中から大きく削るのは結構難しいですね。二〇~三〇枚だったらそれに見合った切り口からスタートするし、五〇~六〇枚だったらこういうスタートと変えるので、短くするなら全部書き換えないといけなくなります。「短くしてください」と言われたら「書き直します」って言うと思う。

宮田 これ実は、全部登場人物がちゃんと繋がる予定だったんですが、文字数の関係でなくなっちゃったんです。本当はもう一篇プロットもあったんですけど、入らなくて。

千早 えっ! もったいない! でも、宮田さんはちゃんと相手の要望に応えようとするんですね。

宮田愛萌

宮田 そうですね、中高の頃は校則を破ったこともなかったです。でも少しずつ好きなことをできるようにチャレンジしていくようになって。

千早 ルールを少しずつ超えていくという強かさがいいですね。

宮田 大学時代、日向坂46の活動で休みも多くて、出席がちょっと足りない授業もあって、教授に直談判したんです。その時に教授から、その分追加で二〇〇〇字以上の読んで面白いものを書いてきてと言われて、レポートに小説をつけて出したりもしました。

千早 そうか、大学に行きながら仕事されてたんですよね。万葉集を学んでいたと。

宮田 そうなんです、専攻が万葉集で。

千早 『きらきらし』の和歌の訳がとても素直で。和歌は二重の意味があったり、時代背景や人物関係を考えると違う意味が出てきたりとすごく思わせぶりな世界のイメージなんですけど、この作品は若くて瑞々しくてまっすぐできらきらしていて、それが訳にも現れているなと思いました。

宮田 ありがとうございます。

千早 写真の方も登場人物になりきっているように感じました。

宮田 今回、小説+写真という構成にしたので、写真は登場人物をちょっとイメージしています。私の写真集、みたいな感じにはあんまりしたくなかった。物語の世界観を崩したくないから、その作品をイメージして撮っていただきました。

千早 写真の中ではネイルが好きな子とかもいて、演じ分けているのかなと楽しく拝見しました。ぶりっ子キャラとよく言われると聞きましたが、ぶりっ子も演じているんですか。

宮田 いえ、ぶりっ子は元々中学生のときからずっと「ぶりっ子」「あざとい」と言われていました。私は褒められていると思っていたので、あとから親に、それってあんまりいい言葉じゃないよ、と言われて、そうなんだ、と。

千早 すごい、素直ですね。清らか。そこで全然悪い気持ちにならない健やかさや強さがまぶしい!

宮田 そうですね。私を形容するのに一番ふさわしかったのかなと(笑)。

千早 「あざとい」はお仕事的には最高だったのでは。

宮田 はい、そうですね。「あざとい」や「ぶりっ子」の様子は、褒めていただくことが多かったです(笑)。

アイドルっぽくない渋い和歌

千早 最後の「つなぐ」の和歌は、この世の虚しさみたいな和歌ですよね。選んだ五首の中で一番アイドルっぽくない、渋い歌だと思いました。今回、小説を書くときは先に万葉集から和歌を選んだんですか。

宮田 先に和歌から選んで、お話を考えました。「つなぐ」が一番思い入れのある話です。読んでくださった方が万葉集を好きになってくれたらいいなと思って、登場人物の書いた日記の部分に、私が普段思っている万葉集の魅力を詰め込みました。万葉集は相聞歌(恋愛の情などを伝える歌)が多いけど、魅力はそこだけじゃないと主張したくて和歌も挽歌(人の死を悼む歌)を選びました。

千早 日本の和歌はぜんぶ恋愛、みたいに言われがちですもんね。和歌が好きだとずっと公言していたんですか?

宮田 はい、私のファンなら万葉集は読んでね、ぐらいの感じで(笑)。

千早 四五〇〇首ありますもんね。そこからピックアップするのですら大変。実は、私の名前は万葉集からの命名なんです。母親が「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」の歌が好きで。大人になってからどういう歌だったのか調べたら、結構曰くありげな一首で、なんでこれにしたんだろうと考えちゃいました。

宮田 本当ですね(笑)。

千早 「つなぐ」は最後まで書ききってない感じが良かったです。主人公がこの日記を読んで自分の道を見つけるとか、日記を読んだから万葉集が好きになったとかだと、すっきり終わるけどあんまりニュアンスが残らない。自転車を漕いで終わるという感じがすごい好きでしたね。

宮田 本を読んでいて結末が決まっちゃうと、そこから先の道が一本しか見えないと思うので、他の道があったかもしれないという読者の想像に委ねるのが和歌を読み解くのと似ているような気がして、そういう話がいいなと思っていました。

千早 私は好きな感覚でした。例えばエンタメの作家さんだとバシッと伏線を回収して終わらせることも多いし、それはカタルシスがあるけど、「つなぐ」のように読み手の自由が残っているセンスはとてもいいなと感じました。これからも小説を書いていこうと思いますか。

宮田 書けたらいいなと思っています。出版に至るかは別ですが、いつでも物語を書くのが好きなので、生涯続けていけたらいいなと。

千早 一番早く書けたのは「坂道の約束」なんですよね。これに私の作品が出てきて、「わあ」と思って(笑)。

宮田 はい。実際に私が図書館に行って手に取る感覚をそのまま入れました。中学生のときに、図書館で本を手に取っていたのを再現する感じで。

千早 宮田さん自身の感覚がいっぱい入った作品集なんですね。

宮田 そうですね。この本を読んでくださるのはファンの方も多いと思うので、みんなが喜ぶようなところがあるといいなと思いました。

ルールを超えて自由に書いてみる

千早 気になっていたんですが、五篇の主人公は全員若い女性ですよね。男性主人公を書いてみたいとかはないんですか?

宮田 男性と話したことがあまりないので、男の人の感覚がわからないんです。見ている世界が違うんだろうなと。書いてみたいけど、難しい。

千早 たとえば男性とか老人とか子供とかを書いて、そんな子供はいないと誰かに言われても、別にその人が全世界の子供を知っているわけではないので気にしなくていい。宮田さんはすごく文章が綺麗で、透明感もありますよね。きらきらしていて、澄んでいて。描写が瑞々しいので、悪い気持ちや人に言えないこと、こんなこと書いちゃうんだ! と読者を裏切るようなことをしても破綻しないと思います。あとは、自分とは離れた人間を主人公にして書いてもいいかも。おじいちゃんとか、自分より三〇センチ背が高い人ならどんな世界なのかとか、想像するのは楽しいですよ。

宮田 やってみたいです!

千早 『きらきらし』の中の少女の外見の描写など、空気感が伝わってきます。季節感、肌触りが書けていると感じました。さっきも言いましたが、基本的に文章はすごく綺麗なので、本当に長いものを書いた方がいい。主人公の性格とかを一行で書いてしまうのではなくて、描写を重ねて書くほうが、良さが出る気がします。

宮田 千早さんにそう言っていただけてすごく嬉しいです。

千早 でも今回は枚数がそんなに限られていたなんて、大変でしたね。今度は自由に書いてみてほしい、書かせてあげてほしい、本当に。自分のイメージの世界を、好きな枚数で書いてみたらいいと思います。

宮田 はい! 「あと何文字削らないといけない」とか、文字数のルールの中で、パズルのように削っていました(笑)。でも逆に最初にこれを経験したから、今後何かあっても大丈夫だなと思えます。

千早 タフ!(笑) 宮田さんならルールを軽やかに破る、かわいい不良になれるはず。今日はありがとうございました。

宮田 こちらこそ、本当にありがとうございました。

(ちはや・あかね 作家)
(みやた・まなも 作家/タレント)
波 2023年4月号より
単行本刊行時掲載

万葉集を愛する二人の多すぎる共通点

宮田愛萌三宅香帆

万葉集』への造詣が深い三宅さんと、あの日本最古の和歌集をモチーフにした初小説集『きらきらし』を上梓した宮田さん。ともに古典を愛する「文学オタク」のお二人に、とことん趣味に走って語り尽くしていただきました。

日向坂46で実写化するなら

三宅 お久しぶりです。『きらきらし』読ませていただきました。初めて書いた小説と思えなくてびっくりしました。書き慣れている感じがして。

宮田 お久しぶりです、ありがとうございます。仕事などで休んで大学の出席日数が足りないときに、小説をレポートにつけて出したりしていたからかもしれません。

三宅 すごい、教授は愛萌ちゃんの小説をすでに読んでいたんですね。

宮田 「私が読んで面白い話を書いてきてください」と言われたけれど、日常で面白い話がなかったので、小説を書いたんです。

三宅 そうだったんだ! 万葉集から着想を得た小説集ということですが、現代物で読みやすくて、いろんな方が読めそうだと思いました。小説の中の恋も様々な形があって、男女もあるし、同性同士もあるし、恋愛未満のような感情もあって、関係性がいろんな形で描かれているのが面白かったです。

宮田 嬉しいです。日向坂46にいた時に、三宅さんに影ちゃん(影山優佳さん)と二人でインタビューしていただいて、私と三宅さんが万葉集や源氏の話でめちゃめちゃ盛り上がっちゃって、影ちゃんが置いてきぼりになっていましたよね。二人が話してるのが面白いと言ってくれて。

三宅 ありがたい。優しいですね……。今回、「万葉集からこの歌を持ってくるんだ!」という驚きが楽しくて。モチーフにした五首で短編を書くのは最初から決めていたんですか。

宮田 全然決めてなくて、パラパラ読みながら決めた感じです。

三宅 例えば「ハピネス」も、モチーフの歌は別に女性同士の恋愛をうたっているわけじゃないですよね。それをああいう形で膨らませるのはどう考えたんですか? 発想がすごい!

宮田 妄想をするときには、ある情景とかを考えて、なんとなくこういう感じかなって。あと私、高校生のときは百合文化に理解のある子たちの中で過ごしてきたので、それも影響していると思います。

三宅 女子校ですもんね。私は日向坂46で実写化するなら誰だろうと妄想しながら読んでいました。愛萌ちゃんのイメージはありますか?

宮田 そうですね。ビジュアルと中身は違っていて、見た目だと「ハピネス」のカレンはひな(河田陽菜さん)ですかね。華奢で、かわいくって……みたいな。中身はカレンと全然違いますけど。

三宅 確かにかわいい! 私はカレンを丹生ちゃん(丹生明里さん)かなと思いながら読んでいました。

宮田 確かに。お兄ちゃんいるし!

三宅 希南は愛萌ちゃんに近いと思いました。この中で、愛萌ちゃんが自分っぽいと思うキャラはいますか?

宮田 一番私っぽいなと思うのは「好きになること」の瑞葉です。本当はだらしないくせに外では見栄を張る感じとか(笑)。

三宅 えー! 見えない。

宮田 普段はちゃんとしてると思うんですけど、中高の友達の前とかだと。

三宅 意外です。「つなぐ」には、万葉集の挽歌(他人の死を悼む歌)が出てきましたよね。私は相聞歌(恋愛の情などを伝える歌)も好きですが、挽歌も染みるものがあるなと思います。

宮田 私は挽歌をがっつり勉強していたわけじゃなくて、相聞の方をメインに歌垣(古代、男女が求愛のために歌を詠み合う風習)とかを授業で取っていて。でも深みを感じるのは挽歌の方で、切実感があってそこが面白いと思っていました。もう少し時間があれば学びたかったなという後悔もあって。

三宅 私は挽歌なら、万葉集の中でも前半の時代の柿本人麻呂が好きです。「和歌はこういうふうに詠む」というルールが決まっていなかった時代に、現代人にも染みる歌を作ったのがすごいと思っていて。平安時代の歌よりも、むしろ現代っぽい感じがします。

宮田 昔も今も、感情って変わらないんだと思いますよね。形式が決まってないからこそリアリティがあるというか、生々しさが伝わる感じがして。

三宅 めっちゃわかります。例えば「景色を詠む歌」みたいにジャンルもあんまりはっきり決まってない感じがすごく現代っぽい。

宮田 現代短歌とかも結構そんな感じですもんね。万葉集は、見たものを本当に詠みたいから詠んでいる感じ。

三宅 あと、男女の関係性も、結構男女平等っぽかったり。女性もこれだけいっぱい和歌を詠んでいるって世界的に見てすごい。

生々しい大学生活の描写!?

三宅 愛萌ちゃんは万葉集で好きな歌人とかいますか?

宮田 私は作者未詳の歌が好きなんです。作者がいる歌はその特色まで考えたくなるけど、作者未詳だと歌の方だけに集中できる気がして。この作者はあの歌も詠んでるから……と情報過多になっちゃって。レポートを書く上では絶対作者がいた方がいいんですけど、きちんと読むならいない方がおもしろいな、と。

三宅 なるほど。レポートといえば、「紅梅色」の語釈(語句の意味の説明)をつけるシーンがすごいリアルで。こうするとちゃんとして見える、みたいな。あれはやっぱり実体験に基づいているんですか。

宮田 はい。生々しい私の大学生活です(笑)。私の習っていた先生が、資料はあればあるほどいいという方で。語釈を参考にするのはいいけど、訳は自分の解釈を考えてほしいという感じだったので、一文字ずつ漢字の意味を調べたりしていました。

三宅 それってめっちゃ大変ですよね! 私は漢字の知識がなくて苦労しました。万葉集は、中国の漢籍から影響を受けていたりもしますよね。

宮田 そうなんです、だから漢詩を調べて「漢文読めん!」となって。

三宅 めっちゃわかります! 私も国文学専攻なのにうっかり中国語取らないでフランス語取ってたんです。

宮田 うわー、私もフランス語です!

三宅 中国語にしとけばよかったと。

宮田 思いました!

三宅 漢籍調べたら中国語のページにいった! とかありますよね。

宮田 すっごいわかります!

三宅 修士論文で万葉集の巻二の石川郎女が詠んだ歌を扱ったんですが、解釈に「文選」とか「遊仙窟」とかの漢籍を使わなきゃいけなくて。本当に最後まで、やばい、自信がないと思っていました。しかも「遊仙窟」は下ネタが割と多くて、引用に困る。

宮田 あるあるですよね。直接的すぎて、これ発表で使いたくないんだけど! と。オブラートって存在しないの? っていう気持ちになります。

三宅 中国の漢詩は表現がどぎつくて、万葉集の方が全然オブラート。

宮田 確かに、そういうときも平安時代いいな、って思いました。源氏物語とか、全て結構厚めのオブラートに包んでくれる。

三宅 わかります! 逆に源氏は何があった? くらい厚い。平安時代のものとかも読んだりされるんですか。

宮田 普通に読むぐらいです。青い鳥文庫の『あさきゆめみし』を小学生の頃に読んで、そこから源氏物語や枕草子はとりあえず読みました。

三宅 私、いまだに「ひらがな推し」の源氏物語回を覚えていて。私も国文の友達と一番盛り上がるのって、源氏物語を実写化したら、なので。

宮田 絶対に、人間だれでも妄想しますよね。

三宅 やっぱりそうですよね。私も『あさきゆめみし』から入って、原文読もうとして、むずい! 主語、誰? と。万葉集の和歌の方がシンプル。先生方も自由な解釈してるし。

宮田 そうなんですよね。大学の授業で、万葉集の七夕歌の、上の句と下の句で視点が変わる歌を説明するときに、「実は主人公は巫女で、織姫が取り憑いていて、二つ視点があるんです」と説明をして、拍手をもらったことがあります。

三宅 ありそう! 自由な発想がきく世界ですよね。そもそも、愛萌ちゃんが万葉集に興味を持ったきっかけって何なんですか?

宮田 元々は枕草子か妖怪について勉強したいと思ってたんですけど、うちの大学のオープンキャンパスで、土佐秀里先生の万葉集の授業がめちゃめちゃ面白くて、この先生の授業を受けようと思いました。もうこれしかないと思って、AO入試だったんですけど、面接でも万葉集がやりたいんですと言って入りました。

三宅 すごくわかります。私も大学に入る前は伊勢物語がすごく好きでやりたいと思っていたけど、先生の話を聞いて、和歌の方がやれること多そうだなと。読んでいて面白いものと研究したいものは違うんだなと思いました。

源氏物語は元祖アイドルグループ!?

三宅 さっき出てきましたけど、源氏物語で好きなヒロインはいますか?

宮田 私、圧倒的に夕顔なんですよね。ちょっとあざといところとかが好きで。儚く見えて、意外としたたかなところが見え隠れする感じがめちゃめちゃかわいいと思って。光源氏を引き止める場面とか、逆にそっと送り出すとか。

三宅 夕顔、私の中で解釈一致! 源氏物語のヒロインたちはしたたかですよね。光源氏がメソメソしている間に女性は立ち直っている。空蝉とか夕顔とか、意外とあざといっていう。

宮田 儚げなイメージは、名前に引っ張られてますよね。三宅さんがお好きなヒロインは誰ですか?

三宅 私は雲居の雁が好きで。夕霧と喧嘩ばっかりしてるけど結局好き、みたいな感じがかわいい。

宮田 かわいいですよね! 私も小学生の頃から雲居の雁ちゃんってずっと呼んでました。

三宅 庶民的な感じもあって親しみが持てて、夕霧はもっと雲居の雁を大事にしてよ! こんなかわいい彼女がいるのにお前! と。源氏物語で好きなヒロインにその人の価値観が出ますよね。藤壺とか紫の上とか好きな人は、王道ヒロインが好き。

宮田 すごくわかります。王道感があるのが好きだから、アイドルグループでも正統派の清楚系の子が好きで、絶対センターを推すでしょと。

三宅 色白くて美少女が好き、とか。アイドルの推しの解釈と大体一緒ですよね。明石の君が好きな人は後から入ってきた新人ちゃんを好きになるとか。源氏物語って、あの時代にアイドルグループ作ってたようなもんじゃないですか。

宮田 本当にそれなんですよね。あんなバラエティ豊かないろんなタイプの子を揃えているの、最強ですよね。

三宅 今の女の子のキャラクター造形みたいなものの原型が源氏物語にありますよね。

宮田 いや本当、そう思います。だから中高生は絶対源氏物語が好きだと思うんですよね。古典という理由であまり読まれないのが不思議で。もっと軽い気持ちで読んでくれたらいいのに。

三宅 源氏物語回を見て、「こんなこと考えてる人が他にもいたんだ」と嬉しかったです。

宮田 番組のスタッフさんに「このキャラは誰だと思いますか」と相談したら、「いやちょっとわからないですね」と言われました。

「アイドル」と「バレエ」の共通点

三宅 『きらきらし』の五話の中では、「ハピネス」がすごく好きでした。私の友達がバレエをやっていて、バレエをする女の子に憧れがあって。「ハピネス」には、女の子による女の子への憧れっていうのがすごく詰まっている感じがしました。お話の中ではもう少し恋愛に近い感じだと思うんですけど、女の子が女の子をいいなって思う感情って、メジャーな割に適切に言語化されているものって意外とないので、そういう意味でわかる! と思いながら読みました。

宮田 「アイカツ!」っていうアニメで主人公の女の子が先輩の女の子に憧れているのを、「それって恋みたいな気持ちだね」と言われるシーンがあって、憧れって恋みたいな気持ちなんだ、と思っていたのが元になっていて。

三宅 それこそ女の子のアイドルを見ていても、世間でよく言われるような女の子同士がバチバチするだけじゃない気持ちって絶対あると思います。恋みたいな感覚、いい言葉ですね。

宮田 それから自分の体を使って高めていくところが、アイドルとバレエとで似ているなと思います。

三宅 あとこれは「ハピネス」だけでなく、全体的に愛萌ちゃんの人としての真面目さみたいなものがちりばめられている印象を受けました。どのキャラも真摯というか、あんまり外に出さずに内側で周りの人のことをいろいろ考えてる感じが、愛萌ちゃんぽいと感じました。「ハピネス」の希南は欲しいものを手に入れるけど、全て手に入れてハッピーなわけでもない。そういう真面目さと切なさのバランスが愛萌ちゃんの世界観ぽかったです。

宮田 小学生の頃からの親友が、「ハピネス」を読んで「めっちゃ愛萌じゃん」って言ってました。

三宅 最後の「つなぐ」では万葉集の故地を巡るところがありましたけど、実際に回られたんですか。

宮田 元々プライベートで奈良の万葉文化館とかに行こうとしていたら、写真の撮影が奈良でちょうどいい! と。撮影では時間の関係でゆっくり巡ることはできなかったので、グーグルマップを参考に書きました。

三宅 私、日記の話を読むのが好きなんで、すごくよかったです。万葉集自体も歌日誌の部分があるから、最後が日記で終わるのが万葉集っぽさもあるしいいなと。

宮田 日記って自分しか読まないものだから、余計に思いが詰まっている気がします。日記の文章の中でどこをひらがなにしてどこを漢字にするのかとかで、その人の性格が出る。

三宅 あとは「坂道の約束」で近現代の文学も少し出てきて、近現代までカバーしている! と思いました。

宮田 近現代はあんまり得意じゃないんですけど、高校生のときに文豪の肖像画のものまねとかして遊んでいました。他にも、高校の体育祭で友達四人と四天王像のポーズで集合写真を撮って、私は多聞天で。そんな仏像のものまねもずっとしていて、今回の撮影でもしました(笑)。安倍文殊院でこの子(善財童子、左頁下の写真)をまねて一緒に撮ったんです。仏像雑誌の表紙にもなっている、仏像界のアイドルらしいんですよ。

三宅 かわいい! 奈良で撮影した写真も、小説とリンクしていていいなと思いました。私は友達とLINEの絵文字二つで文学作品を表すって遊びをしていました。人が走る絵文字と麦の絵文字で、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とか。あとは友達と自転車で二列で走っていて、前から人が来て二手に分かれなきゃいけない時に「瀬を早み~」って言いながら漕ぐとか。

宮田 友達とのその感じ、すごくわかります。

三宅 どんどん文学に日常が侵食されていきますよね。でも、万葉集はそれこそ現代的な日常の感覚とすごく近しいところがあると思います。『きらきらし』の話はどれも身近なんだけど、遠くにも思いを馳せられるところがすごくよかったです。友達から聞く話ぐらいのテンションで読めるけど、実はすごく普遍的な感情が描かれている。短編集だから、最近小説を読んでないなという人も読みやすいと思うし、読んでみてほしいなって思いますね。

宮田 ありがとうございます。万葉集もそうですし、日本文学に興味がある人が読んだら「あっ」と思うところを今回たくさん入れていて、日本文学って面白いんだというのを少しでも伝えられたらいいなと。その一歩としてこの本を軽い気持ちで読んでほしいです。ひとつひとつは短いので、普段読書しない方でも読めると思います。読書の入門編としてぜひ!

三宅 本を出してくれるのは、いちファンとしても嬉しいです。

宮田 私も実は、三宅さんのnoteを読んでいて。面白いです!

三宅 えっ! めっちゃびっくりしました。変なこと書いてないといいな。

(写真上)念願の万葉文化館にて
(写真上)念願の万葉文化館にて
(写真下)安倍文殊院の善財童子(右)と
(写真下)安倍文殊院の善財童子(右)と

(みやた・まなも 作家/タレント)
(みやけ・かほ 書評家/作家)
波 2023年3月号より
単行本刊行時掲載

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宮田愛萌さんコメント

ごきげんよう。宮田愛萌です。大学で学んだ大好きな万葉集をテーマに小説を書かせていただきました。これをきっかけに、そんなに万葉集が面白いなら読んでみようかな……? と思っていただけたら嬉しいです。また、撮影では憧れの奈良に行かせていただきました。神社やお寺などの歴史をあびたり、古書店や万葉文化館を楽しんだり、お仕事だということを忘れてすごく満喫しました。御朱印をいただけたのがすごく嬉しくて思い出に残っています。それから、万葉文化館の図書室では面白そうな本をたくさん見つけたのですが、ゆっくり読む時間はなかったので、またプライベートでもお邪魔したいなと思っています!
秋ごろから少しずつ進めていた執筆が終わってしまうのはさみしいですが、卒業制作だと思って、ところどころに私のお気に入りのものたちのエッセンスを詰め込んで書かせていただきました。普段読書をしないというような皆さまにも手に取っていただけたらなと思っています。アイドル宮田愛萌が、ただの宮田愛萌になるはじめの一歩の一冊を、どうかよろしくお願いいたします。

封入特典ポストカードの絵柄を先行公開!

封入特典のポストカード全3種はすべて書籍未掲載のカットになっており、1冊につき1種がランダム封入されます。残りの絵柄は順次公開していく予定です。ポストカードの裏面にはそれぞれの絵柄で異なる手書きメッセージが書かれており、宮田さんならではのユニークな着眼点が光ります。
こちらは、万葉集の時代にあった都のひとつ、奈良・藤原宮跡のコスモス畑での写真です。コスモスにそっと触れる宮田さんの、やわらかな笑顔が魅力的な一枚。ご本人も「コスモス畑で撮影したのが初めてで、はしゃいでしまいました」と語ってくれました。
「母とこれがいい!と即決して、父に買ってもらった思い出の振袖です。成人式でも、大学の卒業式でも着ました。色も、柄もすごくお気に入りで、今回の撮影で着たいと自分から希望しました」と教えてくれた、レアな袴姿の一枚です。
旅先の宿でリラックスする姿が公開。宮田さんのお気に入りからセレクトしたネイルは、執筆した小説にも同じものが登場します。ご本人も「こういう濃い色のネイルを塗ることがあまりなかったので、ワクワクしました。表情や服装なども大人っぽい写真になったと思うので、見ていただくのが楽しみです」とのこと。

封入特典リーフレットの表紙を公開!

封入特典の和歌リーフレットは、1冊につき1つ必ず封入されます。リーフレットには、万葉集にちなみ、日向坂46で苦楽をともにした同期の二期生メンバーを詠んだ和歌を8首掲載。それぞれへ贈る想いを込めました。
学生時代から和歌に慣れ親しむ宮田さんですが、「同期について詠むのはとっても難しかったです。それぞれのメンバーに伝えたいことや私が持つイメージをノートに箇条書きにして、歌を詠んでみました。和歌を通じて私がみんなに抱く思いが伝わると嬉しいです。」と語ってくれました。

書籍発売を記念し、「波」2023年3月号の表紙に!

」2023年3月号表紙には、書籍未収録の奈良の古書店で撮影した写真が使用され、宮田さん本人の手書きメッセージとサインが印刷されています。中面には、万葉集に造詣の深い三宅香帆氏(書評家・作家)との対談も掲載。宮田さんは「同席してくれた編集者の方々を置いてきぼりにするくらい盛り上がり、万葉集はもちろん、源氏物語などについても、三宅さんと心ゆくまでたっぷり語らせていただきました。“日文専攻なのに中国語を取り損ねた”“源氏物語を実写化するなら”など、文学部出身ならではの話をたくさんできたのも楽しかったです。二人の興奮度合いが伝わる対談になったのではないかと思います。ぜひお読みください。」と語っています。

「波」2023年4月号で、大好きな作家・千早茜さんと対談!

宮田さんが高校生の頃から大好きだという、先日直木賞を受賞した作家・千早茜さんとの対談が、「波」2023年4月号(2023年3月28日発売)に掲載されています。作家として大先輩である千早さんから「すごく文章が綺麗で、透明感もありますよね。きらきらしていて、澄んでいて」「少女の外見の描写など、空気感が伝わってきます。季節感、肌触りが書けていると感じました」とエールをいただきました。宮田さん本人も「大好きな千早茜さんと初めてお会いして、お話しできて幸せでした。同じ作品の単行本と文庫をそれぞれ買うほど好きな千早さんが目の前にいて、信じられない気持ちでした。創作についていただいたアドバイスは、とても勉強になりました。これからも書き続けていきたいです」と語りました。

著者プロフィール

宮田愛萌

ミヤタ・マナモ

1998年4月28日生まれ、東京都出身。2017年、けやき坂46追加メンバー募集オーディションに合格し、けやき坂46の二期生としてデビュー。2019年2月の日向坂46へのグループ改名後も精力的に活動を続ける。2022年9月にグループから卒業することを発表し、2023年1月いっぱいで活動を終了した。『きらきらし』が小説デビュー作となる。

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