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多動脳─ADHDの真実─

アンデシュ・ハンセン/著 、久山葉子/訳

1,320円(税込)

発売日:2025/04/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

世界的ベストセラー! 注意力散漫、移り気、そそっかしい…… その「弱点」が「能力」になる! なぜ人類にADHD(注意欠如・多動症)という「能力」が残ったのか?

注意力散漫で移り気で、そそっかしくて人の話を聞かない。なのにクリエイティブで粘り強く、探究心旺盛でハイパーフォーカス能力があったりする……心当たりがありますか? あってもおかしくない、誰でもADHDの傾向はあるのだから、と精神科医の著者は言います。ではなぜ人類の進化において、そんな「普通とはちょっと違った」脳が生き残ったのか? 読めば生きづらさが強みに変わる、世界的ベストセラー!

目次

日本の読者の皆さんへ
まえがき――ADHDには〈強み〉がある

第1章 ADHDって何?
ADHDは広いグレーゾーン/診断名と理解の変遷/人間の本質は複雑なもの/診断は1つなのに複数の要因
コラム ADHDは成長すると消える?/男子に多い?/ADHDとADD

第2章 この世界は退屈すぎる!
集中できないのはわけがある/少し違ったドーパミン受容体/しつけや食生活のせい?/ADHDと遺伝子/依存症とADHD/世界が面白くない/SNSがドラッグになるわけ/ドーパミンの真の役割/脳が乗っ取られる!/自己治療の表と裏
コラム ADHDの他の要因

第3章 人類の放浪と〈ADHD遺伝子〉
人類の長い放浪/「探検家遺伝子」の分布の違い/〈ADHD遺伝子〉と農耕の始まり/農耕民vs狩猟民/主張と証明の線引き/生き延びたから子孫がいる/失敗と進化/突然変異から生まれた性格/人類みなADHD?

第4章 遺伝子と好奇心
政治と白鳥と遺伝子/新奇探索傾向/群れの中で際立つ特質

第5章 ぼんやり脳はクリエイティブ
ブレインストーミングの能力/〈ぼんやり脳〉には意味がある/すぐ気が散る人はクリエイティブ?/意識の門番「視床」/「創造性」とは「正しい方向に向かった衝動」/グループ内でのADHDの役割/ADHDと創造性/集中を「オフにする」/アイデアを思いつきやすい脳/まとめ
コラム 薬で創造性が下がる?

第6章 ハイパーフォーカス脳
集中力マックスorゼロ/ADHDに向く仕事/常にごほうびが必要/中間がない/まとめ

第7章 起業家脳
起業家の遺伝子/刺激的な仕事に燃える性質/スーパー起業家/まとめ

第8章 運動は天然の治療薬
ゲームがうまくなるには/薬か運動か/〈弱み〉を治し、〈強み〉を維持するには/ドーパミン工場を脳内に作る/前頭葉強化法/運動vsADHD治療薬50種類/ドーパミンを上げる運動以外の方法/究極のライフハック/まとめ
コラム 運動で心配や不安を吹き飛ばす

第9章 人間は学校に不向き?
フリークライミングとノーベル賞/ADHDに「完璧な」学校?/運動を増やし、スマホを減らす/まとめ
コラム 問題児を大人しくさせた薬/ADHDの薬の仕組み

第10章 ADHDが増加するわけ
「正常」とADHDのスペクトラム/増えるADHD/全員に薬を出す?/ADHD薬の奇跡/人は本当に白紙で生まれてくる?/遺伝子と性格/医師が間違うことはないのか/神経多様性と「病気」/変わるべき社会/ADHDの〈強み〉

あとがき
用語集
参考文献
謝辞
訳者あとがき

書誌情報

読み仮名 タドウノウエーディーエイチディーノシンジツ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-611085-6
C-CODE 0247
整理番号 1085
定価 1,320円
電子書籍 価格 1,320円
電子書籍 配信開始日 2025/04/17

書評

ADHDも個性の一つ

柳沢幸雄

 本書はADHD、注意欠如・多動症を脳科学から解説した一冊だ。ADHDなんて他人事、とも言っていられない。精神科医の著者は「誰でも多かれ少なかれADHDの傾向がある」と言っているし、ADHDに問題しかないなら、なぜ人類の進化の過程でそんな脳の傾向が残ったのか。環境ホルモンという要素も無視し得ないようにも思うが、診断数は世界的にも増えているそうだ。日本では学童期で3~7%、35人学級ならクラスに2人いてもおかしくない。
 私が校長を務めていた開成は多様性を大切にしているので、個性的な生徒が多数在籍している。入試の合否は、在学校での欠席日数の条件をクリアーさえしていれば、試験の点だけで決まる。合格者にはADHDやアスペルガー症候群と診断された生徒も当然含まれていて、そうした子供の親から開成は有名だったそうだ。学校側にしてみれば特に意識することのない、多様性の中の普通の存在だった。
 私たち教師が気にかけていたのは別のことだった。地元の小学校、中学校でトップクラスの成績を取っていたって、入学すれば下から数えた方が早い子ももちろん出てくる。定期テストで1番だ3番だを取ったらいい気分だろうが、学年で300番だ400番だとなればどうか。
 だから特に中学、高校に入学して最初の4月、5月がクリティカルな時期だった。子供たちの価値観を変えてやる必要がある。勉強ができることだけが唯一の価値なんじゃない。そう信じさせてやる必要がある。とはいえ自我が芽生える時期、親の言うことも教師の言うこともろくに聞きはしない。
 ところが先輩の言うことは聞く。
 開成は5月に運動会がある。中1から高3まで縦割りに8チームが団体競技で得点を競う。普段と違う生徒集団ができて、先輩の指導を受けて、勝ちたいから頑張る。そういう中で先輩たちから教わるいろんな価値観に触れる。ここでは自分の得意を伸ばせば生きていける、そう思えればしめたものだ。
 その後で中間試験をやる。いいんだよ順位なんて、と言う先輩もいる。そんな先輩に惹かれて部活を選ぶ子もいる。後に藝大を出て指揮者になった生徒は、ずっと頭の中で音楽が鳴っていたんだろう、音楽部に入って休み時間になると廊下で棒を振っていたけれど、そんな風になってくれたら教師陣は内心(一丁上がり)と思っている。なぜなら居場所を作ってやることが大事だからだ。多様な人間がいる中で、自分なりの得意が活かせると思えれば、後は自分で自分を伸ばせばいい。
 ADHDは飽きっぽいという。人の話もよく聞かない。脳のドーパミン受容体の構造が少々特殊で、大量のドーパミンを必要とするからだ。注意があちこちに分散するのは人類がサバンナで暮らしていた頃、外敵から身を守るために必要な能力だったろうが、学校で座って興味のない授業を聞いているのは苦手だと著者は言う。だが興味のあることにはこの上ない集中力を発揮するし、発想も自由。だから歴史上、天才と呼ばれる人たちも「ADHDだったのでは」と推測されたりするわけだが、彼らも自分の得意を伸ばせなければ、天才と呼ばれることもなかったろう。『窓ぎわのトットちゃん』を読んだらいい。当時そんな言葉はなかったが、今だったらADHDの一例と言えるだろう。その黒柳徹子さんは90を過ぎて今も活躍を続けている。
 本書でも触れているが、人は脳を含め、DNAで基本的骨格が出来ている。設計のスタートはそこで、ゴールはわからない。脳の神経回路網の発達は性格や環境によって決まっていく。開成の教師たちが見ているのもそこだ。
 毎年1月に進級判定会議というのをやる。休みや遅刻が多かったり、成績が揮わなかった生徒が一定数、会議にかけられる。そこで生徒の応援演説をやるのが担任だ。遅刻をさせませんとかレポートを書かせますとか校長に弁舌を揮って、1月末に再審査をお願いできませんかと言う。
 この会議に毎年のようにかかる常連がいる。友人や後輩が「卒業させる会」を結成したり、教師が補講してやったりして力を貸し、なんとか卒業する。面白いことに、そういうやつに限って後年、社会で活躍する。
 功利主義がすべてではなくなった。人間とはこうなんだ、という時代でもない。人の興味は多様化し、精神の自由度は広がった。ADHDという存在もまたそんな社会の一部なのだ、とする本の存在は貴重だと思う。

(やなぎさわ・ゆきお 工学博士、東京大学名誉教授、元開成中学校・高等学校校長、北鎌倉女子学園学園長)

波 2025年5月号より

著者プロフィール

1974年生まれ。精神科医。スウェーデン・ストックホルム出身。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得後、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『ストレス脳』『運動脳』が世界的ベストセラーに。科学ナビゲーターとしても各メディアで活躍中。

久山葉子

クヤマ・ヨウコ

1975年兵庫県生まれ。翻訳家。エッセイスト。神戸女学院大学文学部卒。スウェーデン大使館商務部勤務を経てスウェーデン在住。訳書に『スマホ脳』『ストレス脳』『メンタル脳』など多数。

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