新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

私は「キッチン」をスペイン語で読んだ。スペインに住み始めた頃に本屋で見つけ語学習得の助けになればと思って選んだ。だから内容をまあまあ理解したと思うがちゃんと理解したのかと訊かれれば怪しい。ただ、とても不思議な感覚が残ったことを覚えている。
「キッチン」は、少し不安な、でも望みを叶えた喜びを噛みしめながら暮らしていた頃のスペイン生活の、愛しい愛しい日々に直結する作品です。

あんず

1人でぼーっとしたい時、雨の夜、友達と別れた後など、ふとした時に読みたくなる本が、私にとっての「キッチン」です。
本棚の中にあっても、繰り返して読む本は決まっていて、きっとこの本はずっとそうやって読んで行くんだろうなと思っています。2人して同じ夢を見て、ジュースを作る所、家族じゃないのに、他の人から見たら変なのに、家族以上にあったかい居場所がある所、数えたらきりがないけど、この本にはとても心が惹きつけられる場面がたくさんあります。「神様どうか、生きてゆけますように。」迷った時、いつもこの本を読んで、もう少しがんばろうと思います。

ぽんた

当時私は、本より映画が好きでした。なので私と「キッチン」の出会いは、映画でした。映像の美しさも印象深かったのですがそれよりも話の展開の方にワクワクしたのを覚えています。すぐに原作の小説「キッチン」を買い求め読みました。目にする文章と頭の中の映像が絡み合って二倍三倍とキッチンの話が深く広がっていく感じで、作者の吉本ばななってすごいって思いながら読み、その後、他の作品も読みまくりました。文章が、頭の中でどんどん映像となり浮かんで来て、まるで映画を見ているように最後まで読み進んでしまうことが何度もありました。 ばななさんがテレビに出た時に言われた言葉で納得しました。頭の中の人物たちが動くんですね。
見えてるそのままを文字で綴っているから読んでいる私にも映像が浮かんでくるんですよね。実は、ある日を境に私も頭の中で話が始まり今書いています。いつか読んでほしいな。夢ですけどね。

ぴかこ

『キッチン』に初めて出会ったのは、中学受験のために受けた国語の模試でした。初めてみかげが田辺家を訪れるシーンが抜粋されていました。巨大なソファ。シルバーストーンのフライパン。ふたつきのビールジョッキ…。
世界観にドキドキしている自分がいました。ほんの少しの抜粋部分を読んで「もっと読みたい!」と思い、中学生、高校生と読みふけりました。
少女の頃から作品に没頭したお陰で、大学生の頃は「キッチン」とあだ名されたKくんに無条件なる親しみを持ち、デートまでしてしまいました。
作品は刊行30年の時を経てた本書を通じて、見知らぬ誰かと読書体験を共有しているという事実に私の胸は踊っています。
それはきっと私にとって「この世でいちばん好きな場所」だからでしょう。改めて『キッチン』の産みの母、吉本ばななさんに感謝です。

えのこ

「キッチン」との出会いは、小学生の時のある夏の晩。その日は夕方からの強い台風で家中が停電していて、蒸し暑い暗闇の中で母と兄と冷たい床に寝そべって取り留めもない話をしていた。すると母が突然に「そういえば、素敵な本があってね」と話し始めたのだ。子供だった私達は「女装のお父さん」というフレーズにけらけら笑いつつも、母の「この本を書いた人は、すごく悲しい経験をしたのかもしれない」という言葉がずっと頭の中に残っていた。大人になり大好きな祖母が亡くなった時、私は祖母の部屋に佇んで、ずっとエリコさんのセーターの話を思い浮かべていた。好きな人、残った香り、そしてその香りも少しずつ消えてしまうこと。言葉が悲しみを通し、実感として染み渡る。人は本と共に歳をとるのだな、そう思った初めての時だった。これからも大切なものを失くす度、私は「キッチン」を思い出し、読み返すだろう。悲しみと向き合って、前に進むために。

MA

初めて「キッチン」を読んでから、20年が過ぎました。時々思い出しては読み返し、ひたむきに、ただ生きる勇気を、何度も何度ももらいました。最近、初めて入った近所の古いお寿司屋さんで、信じられないくらい美味しい天丼を頂いた時に「キッチン」の、あの、カツ丼を届けるシーンを鮮明に思い出しました。私も、この天丼を命懸けで届けたい人がいるのになぁと。生きているから、感じられる様々。いつも寄り添ってくれて、ありがとう。

naako

『キッチン』に出会ったのは、高校の図書室だった。放課後、友達と待ち合わせしているときに、何気なく本棚から手に取った文庫本。暇つぶしに読んでいたら、どうしても続きが読みたくてそのまま借りて帰った。
活字を読むのが苦手だったのに、生まれて初めて、本を最後まで読めたのがこの小説だった。
あっという間に、水を飲むように、するする読める小説があるんだとすごい衝撃を受けたこと今も忘れられない。
キッチンを読んだあとは、日常がクリアに映る。校舎も、車が行き交う道も、月も、雨も、クラスメイトが遠くに歩いている姿も。すべてが甘く、美しく見えた。
ばななさんの小説はいつも新しい感覚器官をくれる。だから、36歳になった今日までずっと読んできた。
これからもずっと、『キッチン』の魔法にかかったままでいたい。

近所のka2ka2

『キッチン』を読んだのは、まだ20代前半でした。あれから30年…今回、久しぶりに読み返してみました。私は本を読んでいて、ここぞってところに付箋をつけるのですが、今回も、もちろん付けました。「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの。」この箇所に付箋を付けていました。人生は苦しいことが多いけれど、そんな中で細やかな幸せや楽しいことを見つけた時の幸福感が心の心の支えになっていくのだと思っています。『キッチン』は、ばななさんとの出会いの一冊です。それ以来、ばななさんの本には救われています。これからも、ばななさんの本を心の支えにして、人生を楽しみたいと思っています。『キッチン』を世に生み出していただいて本当にありがとうございました。

AN

初めて読んだのは中学1年生の時。学校で貰えた冊子に載っていたのがきっかけです。昔から本を読むのは好きだったけど児童向けの本を読んでいて、キッチンを読んだのをきっかけに本格的に小説にはまり今の本が好きな自分に繋がっているのだと思います。
キッチンは長くはないストーリーと難しくない文章だけどそこに書かれている事は決して簡単ではない、そんな所が昔から好きです。そしてどんなに辛い事があっても食事をしたり睡眠を取ったり最低限の生活をしていくことの重要さを感じます。そうして少しずつ回復していく、その事を知っているだけで何とか自分もやっていけるのではと思えます。
最後に30周年おめでとうございます!これからも応援しています。

アコ

キッチンと出会ったのは10代の頃でした。40代になった今も変わらず読み続けています。何があってもキッチンを読んでいる間は穏やかな気持ちになれます。あの少し暗くひんやりとした雰囲気が気持ちを温めてくれるのです。
家族構成も年齢も職業も違うのに、あれは間違いなく私の話だと感じてしまう。お茶の温度や香り、景色の色が強く伝わってくる感じ、本当に大好きな一冊です。

my0626

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