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言わなくちゃ。死んでしまったら何も話せないから。山田風太郎賞受賞作! 『ふがいない僕は空を見た』の著者が命の極限を描き出す迫力の長編。

  • 受賞第3回 山田風太郎賞

晴天の迷いクジラ

窪美澄/著

737円(税込)

本の仕様

発売日:2014/07/01

読み仮名 セイテンノマヨイクジラ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-139142-7
C-CODE 0193
整理番号 く-44-2
ジャンル 文芸作品
定価 737円
電子書籍 価格 737円
電子書籍 配信開始日 2019/01/25

デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。

著者プロフィール

窪美澄 クボ・ミスミ

1965(昭和40)年、東京都生れ。2009(平成21)年、「ミクマリ」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。2011年、『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞、2012年に『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞受賞。他の著書に『よるのふくらみ』『じっと手を見る』など。

書評

背中を押してくれる物語

階戸瑠李

 小さい頃から読書が好きだった。算数の答えは一つしかないけれど、国語の授業は答えが何通りもあって。物語が与えてくれる想像の自由度に幼心にも惹かれたのだ。
 学生時代は村上龍舞城王太郎太宰治三島由紀夫司馬遼太郎。その時に読みたいものを、わくわくするものを貪るように読んだ。
 そして今、私は三十一歳独身、子供なし、ついでに彼氏もなし。結婚や出産がすべてだとはもちろん思っていないが、なんだかひとりぼっちで取り残されたような感覚にひどく陥ることもある。ただでさえ生きづらい世の中で、漠然と不安なもやもやを胸に抱えて生きている人は、実は沢山いるのではないか。
 私はそんな時、何度も本に助けられてきた。物語の力に背中を押され、もうちょっと頑張ってみようと前向きになれた。
 今回はそんな背中を押してくれるような、大丈夫だよとそっと包んでくれるような三作品を選んでみた。

白石一文『ここは私たちのいない場所』  一作目は白石一文ここは私たちのいない場所』。
 主人公の芹澤は、幼い頃に最愛の妹を亡くしたことで人と深く関わること、家庭を築くことを拒み、一人で生きている。
 誰しもが直面する身近な人の死、そして人と人の関わりというものを考えさせられた。
“死”は、その人の消失だけでなく、残されるものがいる。生まれてからずっといる母でさえ、いつかは私を残していなくなってしまう。親、友人、子ども、そして自分自身……いつかは皆いなくなる時が来るのである。もちろん悲しいことではあるが、そのことを拒絶せず受け入れることの意義をこの本に教わった。そして、だからこそ大切な人と自分がいま同じ場所にいられることをとても幸せに感じられる。死というものを捉えることで、いま生きることが何倍にも輝くのだと、勇気をくれる作品だ。

窪美澄『晴天の迷いクジラ』  二作目は私の大好きな作家、窪美澄『晴天の迷いクジラ』。窪さんはデビュー作の『ふがいない僕は空を見た』で衝撃を受けてからずっと追いかけている。
 様々なしがらみに絡まって上手く生きられない由人と野乃花、正子。生きることに見切りをつけた三人の人生が重なって、死ぬ前にとある港町に打ち上げられたクジラを見に行くことになる。
 傍から見たら「そんなに気にすることないじゃん」みたいなことが、自分にとっては耐え難い重さでのしかかってくることがある。「好きなことしてるよね」「楽しそうでいいね」、それはそうだ。アフリカで毎日飢えて死んでいる人々を思えば、自分はそんなに不幸ではないはずだ。それなのにどうしてか自分がこれ以上なく駄目で、消えてしまいたいと思うことがある。この本は「そういった生きづらさって自分で判断して良いんだよ」って、包んでくれるような優しさがある。田舎の懐かしさと窮屈さ、都会の自由さと孤独の描写も印象的だ。どこにいたって、それぞれがそれぞれ、大なり小なりの悩みを抱えている。
 読んでいるうちに物語の中の彼女たちに自分自身を重ね、一緒に悩み、一緒に前に進んでいった。何が正しいのかがわからなくて、どう生きていけばいいのかわからない、そんな暗闇に「生きてるだけで良いんだよ」と、光を与えてくれる作品だ。

道尾秀介『ノエル―a story of stories―』  最後は道尾秀介ノエル―a story of stories―』。
 童話作家の圭介と、親の愛情を感じられなくなった莉子の話、妻に先立たれて生きる意味を失った元教師の与沢の話。三人が紡いだ“物語”が、ラストで鮮やかに結びつく。三人がそれぞれ物語とともに生き、物語に救われる。
 物語とは、架空の世界のようで緻密に現実世界と繋がっていて、現実の私たちに生きる力を与えてくれる。私たちは、考えさせられ、励まされ、時に突き放されたりしながら、物語とともに人生を歩むことができる。そして物語とは、“ノエル”のプレゼントのように、形なく、人生を豊かにする沢山のものを与えてくれる。これまで何度も感じてきた「物語に救われる」ということが、この本の中に描かれていた。
 皆さんの人生と地続きにひろがるそれぞれの物語を楽しんでほしい。そして私自身も“物語”のように、誰かの背中をそっと支えられるような存在でありたいと思う。

(しなと・るり 女優・モデル)
波 2020年2月号より

目次

I.ソラナックスルボックス
II.表現型の可塑性
III.ソーダアイスの夏休み
IV.迷いクジラのいる夕景
解説 白石一文

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