
ケーキの切れない非行少年たち
836円(税込)
発売日:2019/07/13
- 新書
- 電子書籍あり
「すべてがゆがんで見えている」子どもたちの驚くべき実像。
児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。
書誌情報
読み仮名 | ケーキノキレナイヒコウショウネンタチ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610820-4 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 820 |
ジャンル | 政治・社会 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 792円 |
電子書籍 配信開始日 | 2019/07/26 |
蘊蓄倉庫
犯罪と障害
最高裁7月1日付の決定で検察側の上告を棄却し、無期懲役とした二審判決が確定した、2014年の「神戸市女児殺害事件」の犯人は、知的障害を認定する「療育手帳」を保有していました。この犯人は、遺体を捨てたビニール袋に自分の名前が書かれた診察券を一緒に入れていて、「どうしてそんなことをするのか分からない」と当時言われましたが、知的障害の人は後先を考えて行動することが苦手なのです。「どうしてそんなことをするのか分からない」犯罪の背景には、往々にして何らかの障害が関係していることが多いのです。
掲載:2019年7月25日
オーディオブック
担当編集者のひとこと
困っている子どもたちを救うには
まずは、オビのイラストをご覧ください。これは、精神科医である著者が医療少年院に勤めていた時、「ケーキを三等分する」という課題に対して在院中の少年が出した答えの例です。医療少年院に在院している少年ですから、だいたい10代の中盤から後半くらいの年齢の少年ですが、彼らには、ホールケーキを120度で切って三等分する、という発想が身についていないのです。
それだけでも問題ですが、さらに驚くべきは、これを描いた少年たちが、殺人や強姦致傷などの凶悪な犯罪を起こしている、という事実です。
通常、犯罪を繰り返すような少年たちには、更生の過程において、「認知のゆがみ」をただすための認知行動療法が施されます。かつては著者も、それを試みていました。しかし、はかばかしい結果が得られませんでした。なぜかと言えば、こうした少年たちは、そもそもの認知機能に問題があったからです。
では「認知機能に問題がある子ども」とはどういう子か。それは、発達障害や知的障害をもつ子どもたちですが、実際に非行の現場で困っている子ども達の多くが、その当事者なのです。
現在、知的障害はおよそIQ70未満の人をさす、ということになっていて、人口の2%程度とされています。しかし、1950年代には、知的障害はIQ85未満とされていました。「それではあまりに多すぎる」ということで今の基準になったわけですが、もしIQ70~84の人を「軽度知的障害」と考えれば、この層はなんと人口の14%程度はいる、という計算になります。つまり、小学校の35人クラスで考えれば、5人くらいはその範疇の生徒がいる可能性がある、ということになります。
現在、この範疇の子ども達は「知的には問題ない」ということになってしまい、「ちょっと勉強が遅れている子」「ちょっと社会性に問題がある子」という程度で放置されてしまいがちです。しかし、この層の子ども達の多くが、問題に気づかれないまま放置されることで、社会のセイフティネットから落ちこぼれてしまっている、というのが著者の見立てです。これは、日本社会にとって、とてつもない損失になっているのではないか、と。
そこで著者は、矯正施設だけでなく学校施設でも使えるような、認知機能の向上プログラム「コグトレ」を開発しました。これによって、発達障害や「軽度知的障害」の子どもの認知機能を向上させ、問題の発生を軽減させるわけです(その実践の様子については、昨年の5月に出版された『発達障害と少年犯罪』(田淵俊彦&NNNドキュメント取材班著)に詳しく描写されています)。
本書では、医療少年院に勤務していた精神科医の目から見た「非行少年」の姿、そして彼らを取り巻く問題の構造、彼らの効果的な支援方法が、一気通貫で語られています。矯正関係者だけでなく、広く教育関係者にも資する本であるのは、立命館大学産業社会学部教授として著者の前任にあたる故・岡本茂樹先生の著『反省させると犯罪者になります』『いい子に育てると犯罪者になります』とも共通しています。
ご興味をもたれた方は、ぜひご一読ください。
2019/07/25
著者プロフィール
宮口幸治
ミヤグチ・コウジ
立命館大学教授・児童精神科医。一般社団法人・日本COG-TR学会代表理事。京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務の後、神戸大学医学部医学科卒業。神戸大学医学部附属病院精神神経科、大阪府立精神医療センターなどを勤務の後、法務省宮川医療少年院、交野女子学院医務課長を経て、2016年より現職。医学博士、子どものこころ専門医、臨床心理士。児童精神科医として、困っている子どもたちの支援を教育・医療・心理・福祉の観点で行う「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員等向けに研修を行っている。主な著書に『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』『ドキュメント小説 ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』『歪んだ幸せを求める人たち ケーキの切れない非行少年たち3』(いずれも新潮社)、『境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)、『医者が考案したコグトレパズル』(SBクリエイティブ)など計80冊。