【特集】雅びなる愛の讃歌
肉筆春画 鳥文斎栄之と勝川春章
芸術新潮 2018年2月号
(毎月25日発売)
発売日 | 2018/01/25 |
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JANコード | 4910033050285 |
定価 | 1,466円(税込) |
芸術新潮2018年2月号、9頁で掲載した連載「時と光の美術館」において誤りがありました。ご紹介したハリー・ウィンストンの「レガシー・コレクション」は「計2点」ではなく、正しくは「計22点」です。読者の皆様、ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしました。訂正してお詫び申し上げます。
【特集】雅びなる愛の讃歌
肉筆春画 鳥文斎栄之と勝川春章
第一部
ウキヨヱ侍、
鳥文斎栄之が描いた夢の恋人たち
グラフ
Erotica, Eishi’s Best
かんたん年譜
栄之&春章
浮世絵黄金時代
~絵師相関図~
Biography
理想の女性像を歌麿と競った鳥文斎栄之とは何者か?
文 染谷美穂
品川、深川、隅田川……
水上都市江戸のエロス百景
特別折込《江戸十二景春画巻》全部見せ
時空を超える愛の世界へ《源氏物語春画巻》
文 染谷美穂
Eishi+α
栄之春画は版画も優雅
第二部
知られざる巨匠・ 勝川春章
美人画と春画のあいだ
グラフ
春章渾身の大名マター《春宮秘戯図巻》を堪能する
Biography
役者似顔絵でブレイクし、肉筆美人画で頂点へ
勝川春章、花の浮世絵師人生50年
解説 内藤正人
グラフ
勝川チルドレンの肉筆春画ロマンチカ
役者絵派に美人画派
弟子たちそれぞれの道
解説 内藤正人
Shunshō+α
君はヤマラノオロチを知っているか
勝川派の艶本がひどい!
Epilogue
春章と栄之
名作《美人鑑賞図》に交錯する軌跡を見る
解説 内藤正人
◆ Art News exhibition ◆
ムラカミとツジ先生と
ボストン美術館の奇妙な冒険
文 辻惟雄
◆ Art News book ◆
仕口のゆくえ
役目を終え、あらわれた造形美
眼差しに蒐集された男たち
野村佐紀子『愛について』
文 岡田麻美
◆ Art News interview ◆
諏訪敦彦
映画の楽しみをレオーとともに
聞き手 野崎歓
◆ Review ◆
「無垢と経験の写真 日本の新進作家vol.14」より
野口哲哉
「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」展
髙田安規子・政子
◆ Global News ◆
Milano「ルーチョ・フォンタナ:環境」展
Berlin「梱包すること、しなおすこと:ダーレムマ―ゲートゲンス・ヒルシュによる豊かな展望」展
London「ウィニー・ザ・プー:古典を探る」展
New York「ゴンサーロ・フォンセカの彫刻」展
◆ Regular Features ◆
◇ 巻頭 ◇
ちょっといいで書?〈10〉
ストリートで見つけた気になる字
選・文 中澤希水
Goods & Shop
時と光の美術館〈10〉
ハリー・ウィンストン
◇ 連載 ◇
海外アートStudy最前線〈33〉
文 前橋重二
定形外郵便〈45〉
文 堀江敏幸
原田マハ、美のパイオニアに会いに行く〈18〉
藤森照信
フィリップ・ワイズベッカーの
郷土玩具
十二支めぐり〈5〉[辰]
千 宗屋の
飲みたい茶碗、
点てたい茶碗〈43〉
◇ PICK UP ◇
movie 野崎歓
book 諏訪敦
recommend 編集部のおすすめ!
成相肇の やっかい もっかい てんらんかい〈22〉
exhibition 全国展覧会情報
次号予告
▼芸術新潮特別企画
アラビアの深遠なる文化を伝える
国際巡回展がいよいよ来日!
今年はじめたいアート2018
武蔵野美術大学通信教育課程
ART CAFÉ SPECIAL
ART CAFÉ
*「TONY & INOCCHI マンガ展評 ちくちく美術部」は今月休載します。
最新号PICK UP
栄之と春章――華麗なる2人のダークホース
2013年の秋、大英博物館で開催された春画展は、それまでの春画のイメージを一新するものだった。英国の日本学研究者タイモン・スクリーチ氏に『春画 片手で読む江戸の絵』という著書があるが(ただし原題は全然別)、会場でまず思ったのはこれはとても片手では読めないぞということ。いや、もちろん片手で読める本もあるのだが、片手でどうこうするには大きすぎるもの、あるいは絵巻や掛軸などが少なくなく、かつそうした大型の春画の方が質も高いことは一目瞭然だった。つまり、春画が物理的にも、絵画表現の点でも、考えていた以上に多様性に富んでいることを、否応なしに思い知らされたのである。
中でもそれまで実見する機会がほとんどなかった肉筆春画の名品の美しさは衝撃的だった。その1つが2015年1月号の特集「肉筆春画レボリューション! 月岡雪鼎の絢爛エロス」で紹介した月岡雪鼎の《四季画巻》だが、それから3年、こちらもいつかはと思い続けてきた鳥文斎栄之のエロチカ特集を、満を持してお届けする。
栄之はじつは五百石取りの旗本である。何千石の大身でこそないが、曾祖父・祖父が共に勘定奉行に登った家柄であり、江戸の町における歴としたセレブであることは間違いない。でありながら、錦絵や黄表紙の版下絵のようなまるきりの職人仕事までをプロとしてこなしている点まことに異例。浮世絵版画200年の歴史に、栄之のような例は他にはない(広重も武家出身だが御家人である)。
栄之は錦絵の美人画で、あの歌麿のライヴァルと目されるほどの成功を収めたにもかかわらず、中年期以降は肉筆での制作に専念した。今回紹介する春画も、肉筆によるものが大部分を占める。それらの絵は、春画であるにもかかわらずほとんど清楚と呼びたいような気品を漂わせている。歌麿や北斎の、よくも悪くも庶民的なエネルギーに満ちた春画とは異なる、貴族的で瀟洒でロマンチックな性愛の世界がそこにはある。
栄之の春画をこれだけ纏まった形で紹介する本は過去に例がないが、特に《源氏物語春画巻》(個人蔵)は初めて世に出る逸品である。また、大英博物館の春画展で冒頭2場面だけが公開されていた《江戸十二景春画巻》は、今回、新たな撮りおろし画像によって全12場面を掲載する。さらに、栄之とならぶ肉筆美人画の名手である勝川春章およびその弟子・春英らの肉筆春画も併せてフィーチャー。雪鼎の上方風の濃厚なそれとは異なる、江戸前の最も良質な肉筆春画の世界をたっぷり味わっていただきたい。
この号の誌面
編集長から
春画観をくつがえすエレガントな肉筆画
肉筆画は版画と違って発注者あっての作品で、セレブ向けに描かれたものである。にしても、これほど優雅な春画があるのか。鳥文斎栄之と勝川春章による肉筆春画を目にすると、そう驚かされる。五百石取りの旗本でありながら浮世絵師となった栄之は、歌麿のライヴァルと目され、高雅で瀟洒な画風が特徴。本邦初公開の《源氏物語春画巻》や、全場面公開は初となる《江戸十二景春画巻》からも栄之エレガンスが堪能できよう。
かたや春章は、役者似顔絵のパイオニアにして肉筆美人画の雄、あの北斎の師匠でもある。浮世絵の2大ジャンルは美人画と役者絵だが、両者でトップに立ったのは歌川豊国と春章のみ。その春章による肉筆春画は優雅で緻密、さらに独特の幸福感に包まれている。もっとも春本となると、春章はじめ勝川派の門人たちは、たわけを尽くす。爆笑必至の作品もお楽しみあれ。
春画はいわば裏の美人画。肉筆美人画の双璧ならではの、ぶっちぎりの筆力に感服だ。
芸術新潮編集長 吉田晃子
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