新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

『キッチン』を初めて読んだ時、私は自分の母親がキッチンで料理をしている風景と重なって、とても心地が良かったのを覚えています。母子家庭で、仕事で家にあまりいることなかったお母さんが、私と一緒の空間にいて、料理をしているのがとても嬉しくて、リビングでよく料理の音や、におい、そしてお母さんを感じながらうたたねするのが大好きでした。大学生になって一人暮らしをしている今も、読むとなんだかとっても、とっても温かくなれる、大好きな本です。

おみ

初めて「キッチン」と出会った私はまだ大学生で、当時編集の仕事をしていた恋人に「かよちゃんに合うと思う」と渡されたのがきっかけでした。天邪鬼な私は人が勧めたものは嫌、という人間だったのですが、読み始めてすぐに夢中になり通学の電車に乗ってからも、学校のある八王子で降りずに大月まで読み続けました。電車の中で読みながら大泣きしてしまったというのもあったけれど、ずっと読んでいたかったのです。
周りにこの本の話をしても分かち合ってくれる人もなく、寂しく思いました。
恋人とはその後別れてしまったけど、実家の私の部屋にはあの時貰った「キッチン」が今も大切に本棚にあります。そして今の私のそばには自分で買ったボロボロに日焼けした「キッチン」。
「キッチン」をきっかけに私が好きな大切にしている世界は誰からの批判も意見も関係ない、誰も解ってくれる人がいなくとも、大事にしていい。私だけのものだと教えてくれました。

たろんぺ

あいまいな気持ちに名前をつけたくて
吉本ばななの『キッチン』を読む
三十一文字の短歌にこの物語への思いを込めて。

いづこ

『キッチン』との出会いは高校生の頃、現代文の授業で使っていた便覧でした。その頃はまだ吉本ばななさんという作家を知らず、その印象的でちょっとヘンテコな名前をぼんやりと覚えました。その後、本屋で『キッチン』を見かけた時、なんとなく可愛い表紙だし「読んでみようかな」と思いました。読んでみたらびっくりその不思議な雰囲気の今まで読んだことないような小説の虜になってしまいました。言葉のひとつひとつが印象的で胸にすっと入ってくる感じを初めて味わった感じがしました。私は本を熱心に読むわけではないのでそれまでお気に入りの小説なんて一つもありませんでしたが、『キッチン』は私の中ではじめての特別な一冊となりました。やっぱり1番好きなシーンはラストのカツ丼!『キッチン』のこと思い出すとカツ丼食べたいなぁといつも思います。『キッチン』に出会えて良かったです。私の1番好きな小説になってくれてありがとう。

もしの

母から渡された文庫のキッチン。読み終えたところで、母と大絶賛した唯一の本。2人で何度も何度も読み返た。少しクタクタになった文庫本を、上京するとき、母はわたしに「持って行きなよ。大事な本でしょ。」と渡してくれた。
それから、1人になって、ふと寂しいと思い読み返しては、キッチンの温かさに触れ、台所に立つ陽気な母を思い出した。
いろいろあって、実家に戻ってきた。もちろんクタクタの文庫本も一緒に戻ってきた。いつものキッチンカウンターの本棚に。

赤いりんご

私が『キッチン』を最初に読んだのは中学一年生の頃だったと思います。あれから十数年経ってしまったので内容は詳しくは覚えていなかったのですが、なんとなくキッチンにひんやりした光が差し込んでいる映像が思い出されるのでした。そして今日再度読んでみて、優しい言葉がたくさんあってほっとしました。冷たい夜明けも少し好きにかれそうでした。読み終わったら夜中になっていたので、アールグレイの紅茶をいれました。

かいりちゃん

何度読んでも泣く。登場人物の強さが今まで読んだ小説とはランクが違って文章は透明で…。「これを読むことで私は変わる。いい方に私は変われる。」という予感がした。そしてうまくは言えないけど確かに私は変わったと思う。おそばの中にもういないえり子さんを想ってぽたぽたと涙を落とすちかちゃん。その背中をなでたかった。
「えり子さんにもう逢えないなんてうそよね」と私も悔しかったから。小説の中の沢山の食べ物たちすら、他の本には存在しない輝きを放っていた。人の個性をいい方向に変える力のある文章に「あってしまった」そしてそんな経験は奇跡だと、30年の時間が経ってから確信している私がいる。
「キッチン」刊行30年を心より祝し、感謝して拙いメッセージを送らせていただきます。

さくら

あの頃読んだキッチン
今は老眼鏡をかけて読んでいる
すっかり抜け落ちていたものが
まるで澄んだ水の底にあったような気持ちで目が離せない
あの頃私の横で
マンガを読んでいた息子が
みかげと雄一と同じ年になり
私はえり子と並んだ
夫がイビキをかき始めた
今度読み返すとき
私の横には誰がいるだろうか?

Mと青空

中学時代、家族も友人も誰一人好きじゃない状態で、しょっちゅう泣きながら怒っていた日々にこの本に出会いました。制服のままベットで読んでいるうちに、顔の力が抜けていったのを覚えています。わたし、こんなに顔が力んでいたんだってびっくりながら、とても解放されたのでした。胸がドキドキして夢が広がっていった感覚もよく覚えています。最近、久しぶりにつわりで暗くなったときも、この本は日だまりのように私に力をくれました!

Ikka

「キッチン」ブームの頃、私は中学生でした。
流行りの小説を読んで、大人の仲間入りしたような気分だったことを覚えています。
読み返したのは大学生の頃。みかげちゃんと同じくらいの歳になって、当時は見えなかったものが見えてきました。
ばななさんの作品は全て読んでいますが、やっぱりキッチンは特別。
海外を1年間放浪した時も、キッチンの文庫を持っていきました!(ボロボロですが今も持っています。)
フラれた時、仕事がキツかった時、なかなかパートナーが見つからなくて辛かった時、何度も読み返しました。
ばななさんの小説に出会わなかったら、私は今生きていなかった、というか今の形ではなかったかもしれないと思います。
みかげちゃんの境遇、大変だということは分かっているのですが、自由でどこへでも行けることに憧れました。
私も今は家庭を持つことができ、色々大変ながらも自由に幸せに生きています。

won

  • Twitter
  • facebook
  • LINE