新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

キッチンを初めて読んだのは、親友を亡くした19歳の冬でした。とにかく淋しくて、当時沢山の悩みの中でもがいていたときに出会いました。淋しさを溶かすような温かいお話、逆境の中で自分の強みを発見し、活かして生きていく主人公の姿に、涙が止まりませんでした。
いつも心のどこかにある、私の心の拠り所のような一冊です。

クジラの指輪

『キッチン』は、母親に勧められて中学生のときに出会った。心にすーっ…と入り込んでくる素直な言葉達にただ驚いた。
今私は20歳になった。あれから辛いことや悲しいことがある度にこの本を開き、
母のことを思い出しながら何度も読み返した。
『キッチン』は私の心の支えであり、拠り所であり、一つの帰るべき故郷でもある。

浅葱

とても哀しくなっています。
泣きたくても、ここはカフェで泣けない。
ひとりだと自意識が強すぎますね。
自宅の明るい居間で哀しくなりたい。
どうしてわたしは「冷たい人」と言われてしまうんだろう。
何の苦労もなく生きてきました。
かなしいことが起きても、家族に愛されているし親友と呼べる友達もいる。
だけれども、永遠なんて約束はできないのですね。
ずっとこのままでいたいなと思った瞬間から、終わりはじめているからどうしても孤独になってしまう。
でもそのひとつひとつがあまりにも綺麗だから、優しくなったりしてしまう。
『キッチン』を読むといつも暗くて果てしない世界が広がります。
でも、美しすぎて心はやわらかくじんわりあたたかくなるのです。

mai

古本屋で買った「キッチン」は1989年4月の版だ。その年私は30歳で9月に長女を出産した。妊娠から出産まではほとんど外出できないような辛い日々だった。出産後も決して平穏な日々ではなかった。そんな時に「キッチン」は静かに心に浸み込み夢と現を行きかうような時間を与えてくれた。結婚前に夢見ていたキッチンとはかけ離れた古い狭い台所で毎日ごはんを作る自分を、卑しい存在ではないと思わせてくれた。その後私は離婚しやはり狭い台所でごはんを作り続け娘を育てた。去年娘は結婚し男の子を出産し私は念願のおばあちゃんになれた。娘がきれいなキッチンで愛する夫と息子に毎日ごはんを作っていることが今の私のしあわせ。

みぐめぐみ

『キッチン』との出会いはちょうど 10才の時でした。
初めて読んだばななさんの言葉は、瑞々しくて、透明で、それでいて深く深く突き刺さるものでした。あー、この人はきっと美しい人なんだろうと思ったこと、読み終えてからもしばらくその世界の中にいたこと、今でも覚えています。
10才というとまだ今ほど何も知らない頃ですが、そんな子供が読んでも冒頭の一文から衝撃を受けました。
あの時私は、人生における何か大きなきっかけをもらったと思います。
あれから30年。経過した年月の分変化しましたが、こんな風にいい変化をしている作品・作家さんはなかなかいません。
出会っていなければ今はなかったと思う大切な作品です。

おそめ

大学図書館に置いてあったのを手に取ったのが出会い。
その頃の私は、両親にもきょうだいにも恵まれて、いや、だからむしろ、その家族を失うことに不安を感じていた。
一人暮らしをすることで、生きていくことがどういうことなのかを、漠然とではあるけれど、肌で感じ取るようになったからなのかも、と今では思う。
本作には本当にお世話になった。
読むのは大抵夜だった。眠れないとき、月がきれいだったとき、冬に夜更かしして足の先がじんと冷たくなったとき。
特別テンションが上がる話ではない。大泣きしてスッキリする話でもない。
心が澄み渡るような、静かで、それでいて少し前向きな気持ちにしてくれるような話。
キッチンを手に取ると、今でもあの頃の気持ちや夜を思い出す。そしてまた、今日の気持ちも、本に吸い取られていくのだ。

たま

キッチンを見つけたのは中学生のときでした。学校も家も居づらくて趣味は学校帰りに本屋さんで本を選ぶこと。大学生生活が終わるまでしんどいときが何度かあり、その度にキッチンを読みました。
生理食塩水のようにわたしに入ってくれる文に落ち着くのでした。

John

初めてキッチンを読んだのは、中学生の頃でした。現国テストの例題として出題されていたのです。そのテストが終わってすぐに、図書室へ走りました。あんまり文章が美しくて、泣きながら読んでいたことをよく覚えています。文章からキッチンの床や夜のひんやりした空気、においまでが浮かぶようでした。そうして読んでからしばらくは、家のキッチンに毛布を敷いて寝ていました。母には苦い顔をされましたが、私が反抗期だったからか、やりたいようにさせてくれました。みかげのように素敵なソファはなかったけれど、素晴らしい思い出のひとつです。結婚して自分のキッチンを持った今でも、読み返すたびに実家の冷たくて黄色い床を思い出します。
あれからもう20年近く経ったんだなぁと、感慨深い気持ちになりました。今でも遠出の道中や病院の待ち時間、コーヒーのお供をしてくれる一冊です。

松川

みかげにとってこの世で一番すきな場所がキッチンなら、私にとって一番すきな本は「キッチン」だ。
私にとって「キッチン」は特別で、買うことさえ躊躇し、何度も本屋さんで立ち読みをした。ようやく本を手に入れてからは、それはもう、狂ったように繰り返し読んだ。
朝、パッと開いたページの言葉をなぞるだけで素敵な日になるような気がしたし、気分が沈んでいるときは、優しい気持ちになれた。年を越す瞬間のコタツでも、二十歳の誕生日を迎える夜中のベッドの上でも、私は「キッチン」を読んでいた。イライラしたり、泣きそうになったらすぐに本を開けるように、出かけるたびに持ち歩いている時期もあったほど。
ただの紙の束、文字の羅列のはずの本が、こんなにも私に響く…そして、それはとても素敵なことだと思う。実際、私は何度も救われたのだから。
キッチンに出会えたことは、人生で最も良かったことの一つです。ありがとうございます。

daisy

キッチンとの出会いは母の本棚。
最初に読んだのは小6の頃でそれからなんども繰り返し読み、年を重ねるごとに(まだ20歳だけど)印象が変わるような気がする。だけど読んだ後、心がホッとするのは小さい頃から変わらない。

はやし

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