新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

はななさんとの出会いは別作品だったけれど、キッチンを読むと台所を綺麗に掃除したくなります。
シンプルなストイックさに憧れて。

SAKU

この本を何度も開き、何度も励まされてきました。
「キッチン」という神聖な場所。
夜更けの冷蔵庫の音。
食べ物の持つ力。
静かで強く、凛とした小説です。
食物栄養学科の入試当日も、
参考書ではなく、『キッチン』を連れて行きました。
食の仕事をしている今も、
私のお守りみたいな小説です。

ユリコ

何をしていても辛い時。
自分の中の光が消えかかっている時。
ものすごく一人だと感じる時。
暖かい何かを本から感じて、お守りみたいに枕元に置いて、ほっとして眠りに入る。
私にとってキッチンはそういう作品です。
私の人生にずっと寄り添ってくれて本当にありがとうと言いたい。
きっとうちのキッチンは付喪神になっているはず。

りん

『キッチン』も大好きなんだけど、『ムーンライトシャドウ』が一番好きです。
これを読んだ時のわたしは、まだ若くて肉親を亡くしたことがなかったのだけど、「こうやって大切な人の死をちゃんと悲しんで、ゆっくりゆっくり時間をかけて、ちゃんとみつめよう」って何故だか思ったのをしっかりと覚えています。
そういう経験をいくつか味わってきましたが、やっぱり助けになってくれてます。
『〇〇な自分とのサヨナラ』にも、いい気がします。
死と再生。
生の感触がある、復活。
懐かしいな。
また、手にとってその感触を味わおう。

チカ

「キッチン」をプレゼントしてくれたのは父だった。
人生において、父が私に何かアドバイスをしてくれたことはほとんどないけれど、「キッチン」には大切な哲学を沢山教えてもらった。
悲しいことがあった時、父に相談することはなかったけど、父がくれた「キッチン」は何度も私を救った。
父と、感性が似ていてよかったなあと思う。
父がこの物語をいいと思って、私に読ませようとしたということが嬉しい。
この本をプレゼントされてからもう20年以上が経ち、私はすっかり大人になった。
この前ものすごい断捨離をして、沢山の本を整理したけれど、この本だけは手放せなかった。
父の命の期限が近づいている今も、この物語があれば、きっと大丈夫な気がしてくる。
「面白い」としか聞いていなかった、父の「キッチン」への感想を、今さら聞いてみようかな。

ももはなこ

 20代後半に読んだキッチンは未熟な自分と引き比べ、登場人物たちの毅然とした佇まいがただただ眩しく羨ましかった。還暦近くなった今読み返し、この物語の切なさにヒリヒリした。30年前の私は親しい人の死を体験したことがなかった。圧倒的な不在を感じた経験がなかった。キッチンは凛と静かにその悲しみを描いていたことを知った。長い年月をかけてやっと作品に追いつくことができたのかもしれない。キッチン30周年おめでとうございます。あれからずっとばななさんの本と共に生きてきました。ばななさんと同時代に生きられたことの幸運を感謝せずにはいられません。本当にありがとう。

初老の主婦S

読書嫌いの私が夢中で読んだキッチン。お水を飲むみたいにグビグビと。
全身に染み渡って、もう私の一部みたい。

hiver

わたしがキッチンと出会ったキッカケは高校の現文の試験問題。
ムーンライトシャドウの一部が抜粋されており、その全体が読みたくて読みたくて手に取ったキッチン。
あの時出題してくれた先生よ、ありがとう!あの出会いが、高校生のあやふやでキラキラしていつでもどこにでも行けちゃいそうな。そんな時代にあり、今のわたしがいます。
いつも心がモヤモヤして、人を妬んだり、自分を嫌いになったり、過去を悔やんだりしそうになった時、自分を大事にてあげなくちゃ!と引き戻してくれる、そんな存在の一冊です。
何度わたしを暖めても、何度手に取ってもじんわりと涙が滲みます。それは、悲しみとかではなく、なにかの儀式のように。
キッチンをこの世に送り出して頂き、ありがとうございます。

ひろにー

私はキッチンと同い年。
キッチンを開くたび、外から「プス」っと紙が破れる音がする。
私達を取り巻く、薄い紙一枚向こうの世界は、壮大で強力、そして果てしなく厳密な世界が広がってる。今いるここが苦しくても、あっちは煌々と輝き続けている。忘れちゃいけない。そんな感じ。
夜中の台所で二人がグレープフルーツジュースを作るとき、みかげがおじさんにもう一つカツ丼を頼むとき。
私はどんどん世界に賭けたくなる。もっとその匂いを嗅ぎたい。
キッチンの産まれた1988年に思いを馳せる。
どんな時代だったか、若き日の父や母、幼稚園の先生達の服装や髪型、街の匂いを記憶の底を掴むように振り絞って思い出してみる。
赤ちゃんだった私とキッチンが産まれた時代がそこに一緒にあったこと、とても不思議で幸せ。
ばななさんありがとう。

NASA

ものすごく辛いことがあった時、気がつくと、泣きながら祈っていた。「神様、どうか生きてゆけますように。」わたしは死にたいんじゃない、生きたいから苦しいんだと思った。
初めて読んだのは10代の頃で、その頃のわたしはまだ、何も失っていなかったし、何者でもなかった。キッチンには、「わたし達はいつも、何とかして生きてゆく。」そんなことが書いてあって、それはいつもわたしの心の片隅に、留まっていたんだと思う。
暗闇のトンネルの中にいるような時、心の中でポッと灯りが点るような、この本に出会えていてよかった。
ばななさん、本当にありがとう。
そして、この本をわたしに教えてくれた父にも感謝したいです。

まい

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