新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

幼少期の頃から本が好きという子どもでは無く、本を読まずに大きくなり18歳の頃にキッチンと出会いました。進学のために親元を離れ学生寮に住んでいた時にばななさんを好きな友人が貸してくれたのがきっかけです。こんなに読みやすく面白い本があるんだ、今までなんで本を読まなかったんだと、本を読む楽しさを初めて教えてくれた本です。それから本の虜になりいろんな本と出会え、いろんな世界に行けました。
ありがとう、ばななさん。

taiyou

『キッチン』と出会ったのは、思春期全盛の中学生の頃。週に1度ある""朝読書""の時間に配られた何枚ものプリントの1枚だった。何を基準に作品が選ばれていたのかはわからない。多感な時期に色々な文を読ませるのが目的だったのだろう。それまで読んできたものとは違う、あまりにラフで読みやすい文体は、当時の私に深くささった。日々読んでいる少女漫画を小説にしたみたいなのに、もっと深いところが共鳴する。主人公とその周りの人達が運命を越えていくために手を取るのが好きだった。
本の冒頭の「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思うー」のフレーズは、台所嫌いの私の印象を変えた。母が忙しい人で気軽に話せる場所がそこしかなかったこともあり、思春期以降、大切なことは大抵母と料理しながら話した。大人になった今ではその時間と場所こそが必要だったとわかるけど、『キッチン』に出会わなければ台所にこれほどの思い入れはなかったと思う。

Mia

わたしの感覚、価値観の基礎となっている本。例えば、花を時々買うのは、えり子さんが切花を切らさない人だったと書かれていたシーンへの憧れだから。
14歳前後で初めて読んでからトリコになった。32歳の今、久しぶりに読み返した。細かい部分をすっかり忘れていたけど、
最近のわたしが強く感じていることがすべて書いてあった。22歳でも似たことを思った気がする。
42歳ではなにを感じるかなあ。

みどりん

高校一年生でした。同じ路線で帰るのがきっかけで初めてできた友達が、「吉本ばなな、面白いよ。好きなんだ」と言ったから、手にしました。帰り道で借りて、感想を言い合い、それからすぐに私たちは仲違いをして、口をきくことはほとんどなくなりました。幼くてわがままな私は、ひとりぼっちになりました。文庫本だけが友達になったけれど、ばななさんの本は読めませんでした。再び手に取ったのは大学生になったとき。一人暮らしを始めてごはんを作るのが億劫で、毎日出歩いていた頃、美味しいものが出てくる小説が読みたいと思って「キッチンって、ごはん作りが上手な大学生が主人公だったはず」と思って購入しました。読み終わったら何かが満たされ、そこからいつも、お腹をすかせたときも、満ちているときも、そばにあります。人に向き合うこと、食べること、生きることのすべて。そのときの私の気持ちに気づかせてくれる本です。ありがとう。

きつねとたぬき

高校生の時、両親が離婚スレスレの険悪さの中、大好きな祖母が他界し、私は自分の食費や学校に通うための交通費を稼ぐために毎日アルバイトをして過ごしていました。
祖母がいなくなって、漠然とした気だるさのようなものが私にずっととりついて、もういっそ全部諦めちゃおうかな、楽になりたいな、と思ってきた時に出会ったのが『キッチン』でした。
読了後は憑き物が取れたようにわんわん泣きました。神様、どうか生きていけますように。という主人公みかげの祈りが、高校生の時の私を助けてくれました。
それ以来私は、何かどうしようもないような気持ちになった時は、神様、どうか生きていけますように。と胸の中で祈るようになりました。
私はつい先日ようやく二十歳になりました。あの時、生きることを願わせてくれてありがとう。生きていてよかったと、今では心底思います。キッチンは私にとって、優しい魔法のような本です。

忘れてしまいたいことがあるたびにキッチンで眠るみかげに会いたくて何度も読み返していました。
好きだった人にすすめたらきちんと読んでくれて 教えてくれてありがとう と言われたこと、とてもいい思い出です。

さしみ

自分の選択に自信がない時、それはでも運命論的な意味ではなくて、道はいつも決まっているのだと確信するために何度も何度も泣きながら読みました。失恋した時も、就職活動の時も、海外駐在の時もずっとそばにありました、バイブルです。

ai_koma

わたしが小学生の頃、母から譲ってもらったのが『キッチン』。
当時は多分よくわからなかったけど、高校生の頃読み返してからたびたび本を開くようになりました。
みんなには内緒にしておきたい、でも大切な人には、読んでこの世界を知ってもらいたい、そんな1冊です。

りんご

キッチンを初めて読んだのは中学生の頃。
本を読むのが大好きで、昔流行ったドラマでミポリンが本棚のばななからナナと偽名を使うシーンから気になってた作家さん。
どれどれ、と上から目線で読み始めたらどっぷりはまった。
鮮明にシーンが浮かぶ。光を感じ、匂いがして、味がする。耳のすぐ側で声が聞こえる。キッチンはひんやりしてて静かで、とてもビビットな色。まだアイデンティティも確立してない私に登場するキャラクターは眩しすぎた。そして懸命に生きることは、がむしゃらに動くことだけじゃない、ひとりひとり耐える形は違うし応援の仕方も様々だった。人間って面白い、切ない、弱くて強い。
カツ丼、印象的。
あんなにかっこいいカツ丼の使い方はない。弱ると食べたくなるし、弱ってる人がいたら私もよじ登って届けてみたい。
最高にかっこいい。暗い夜の中発光するように話す2人が大好き。

サルガッソ

キッチン刊行30周年おめでとうございます。刊行のとき、わたしはまだ母のお腹のなかにもいなかった。
成人して、やっと仕事も順調になってきたころ、突然入院することになり、混乱のなか、ひとりぼっちの病室に持ち込んだのが「キッチン」だった。
キッチンを読むと、離れて暮らす父を思い出す。つらくて涙がとめどなく流れた。なぜ泣くのか、こんなにも泣くのか自分でもふしぎだった。
見舞いにきてくれた父と久しぶりに顔をあわせた。
退院後、また目まぐるしい日々。時折キッチンに向かうと、父に会いに行こうかな、と思う。

いと

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