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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

本邦初、「マトリ」のドキュメントが登場

 カルロス・ゴーン被告の国外逃亡については、誰もが「映画みたい」と思ったことでしょう。私が連想した映画は『オーシャンズ11』『シシリアン』あたりでした。
「映画みたい」ということで言えば、1月新刊『マトリ―厚労省麻薬取締官―』(瀬戸晴海・著)も、まったく負けておりません。
 著者は40年近く違法薬物と闘ってきた元・厚労省麻薬取締官。そのキャリアを振り返った本書は、まさに映画のようなエピソードの連続です。冒頭、描かれるのは道路舗装用のロードローラーに隠した薬物を発見するシーン。発見、といっても隠匿場所は前輪にあたる巨大な鋼鉄のローラーです。これに電動カッターで火花を散らしながら穴を開けると......。

 有名人の逮捕の時によく聞く「マトリ」の方々がどんな苦労をしながら捜査を進めているか、本邦初の当事者による貴重なドキュメントです。

 他の3点もご紹介します。

2020/01

地雷の話

 入社した頃、気を付けるべき表現といえば、主に差別用語くらいで、あとはたいして無かったような気がします。差別用語とされるものにしても、新聞やテレビよりもずいぶんルーズというか基準はゆるく、それでもさほど問題はありませんでした。
 様子が変わってきたのは、ネットが普及し、また「政治的正しさ」的な考え方が広まってからでしょう。外に向けての表現はもちろんのこと、社内での物言いも、よく言えば真面目でおとなしいものになってきました。
入社1年目、初めて行った出張で、先輩に「君はこの仕事に向いていないから早く辞めたほうがいい」旨を言われた覚えがあるのですが、たぶん今はこういう発言はNGでしょう。
 そういう風潮に違和感はあるものの、一方で昔のようなセンスで過ごしていたら地雷を踏むということはよくわかります。

 12月新刊『地雷を踏むな―大人のための危機突破術―』(田中優介・著)は、そんな現代社会を生きるすべての人にとっての必読書です。企業向けの危機管理コンサルティングを行っている著者は、現代の地雷の特性を「勝手に増殖し、移動すること」と指摘しています。昔は「あれを言ってはいけない」「これをやってはいけない」という基準がわかりやすかった。つまり地雷の敷設地図があった。しかし、昨日の地図が今日には通用しなくなっているのが現代だ、というのです。
 そんな地雷だらけの世の中をどう生きるか。万一踏んだ時に、どれだけケガを軽くするか。実践的な知恵が詰まった1冊です。

 その他の3冊もご紹介します。

2019/12

「決算!忠臣蔵」の話

 新潮文庫であれば毎年ドラマ、映画に何らかの作品がなっていますが、新潮新書はそういうことはそう多くありません。それでもありがたいことに過去『武士の家計簿―「加賀藩御算用者」の幕末維新―』『妻に捧げた1778話』が映画化されました。
 そして間もなく『「忠臣蔵」の決算書』(山本博文・著)を映画化した「決算!忠臣蔵」が公開されます(今月22日から)。
 邦画で忠臣蔵といえば、オールスターキャストが定番で、この映画もざっと俳優の名前を並べてみると、堤真一、岡村隆史、濱田岳、横山裕、妻夫木聡、桂文珍、竹内結子、西川きよし、石川さとみ......という具合で、とにかく有名な人がスクリーンにぎゅうぎゅうになっています。
 私も一応関係者ということで、先日試写会に行ってきました。感想はごく簡単にいえば「面白い」。決して身びいきではなく、よくこれだけのオールスターキャストを使いながら、ややこしいお金の話をここまで笑えるストーリーにできたなあ、と感心しました。徹底的にお金にこだわった、過去に例のない忠臣蔵です。

 11月新刊『偽善者たちへ』の著者、百田尚樹さんの作品は多数映像化されてきましたが、今回の新刊に限っては映像化はおそらく不可能でしょうし、それどころかテレビなどは恐れて扱わないかもしれません。タイトル通り、百田さんは次々「薄っぺらい正義」を振りかざす面々を批判していきます。その対象はテレビ、新聞、文化人、政治家、人権派、近隣国等々。その鋭さ、攻撃力には凄いものがあります。ただし、御本人もまえがきで述べているように、決して堅苦しい内容にはなっていないので、楽しく読める内容になっているのはさすがだと思いました。

 他の新刊3点もご紹介します。

2019/11

森喜朗元総理の話

 日本代表の活躍もあって、これまでにないほどラグビーが盛り上がっています。かなり浮かれ気味という感じです。ラグビーW杯の開催が決まった頃は「なぜ日本で?」「なぜ今?」といったムードが強かったと記憶しています。しかし今はそんな感じはありません。
 思えば東京オリンピックもそんな感じだった気がします。招致段階での「なぜまた?」「なぜ今?」という消極的な声は、開催が決まると吹き飛び、さらに残ったアンチの声も開催が近づくにつれて無視されていっています。きっと来年はみんなで盛り上がるのでしょう。
 この様子を見ていて、ふと、「我々日本人は森喜朗元総理の掌の上で踊らされているだけの存在なのではないか」という考えが浮かびました。どちらのイベントでも森元総理がかなり中心的な役割を果していたような気がします。そして当初は「老害」とか「ラグビー部出身だからってごり押しするんじゃねえよ」という感じの批判が聞こえてくるのですが、いつの間にかお祭りムードが勝ってしまうのです。
 そういえば、ITという言葉を一般に広めてくれたのも森元総理でした。イットではなくてアイティーと読まないと恥をかくぞ、ということを身をもって教えてくれたのですから。
 惜しむらくは、あらゆる功績が本当に森元総理の尽力によるものなのか、我々には確信が持てないところでしょうか。すみません。

 10月の新刊『老人の美学』は、森元総理よりも3歳年上、先日85歳になった筒井康隆さんによる「最初で最後、最強の老年論」。意外なことに、そもそもこうした老年論はこれまでまとまった形で発表なさったことはないそうです。
「老化によって、言動、言説など生活態度や見た目や立ち居振舞いがみっともなくなることを避ける、実際的な知恵」(「はじめに」より)がたっぷり。もちろん、筒井さんだけに凡百の「老人論」とは異なり、毒や笑いもあり、老若男女が頷きながら楽しめる内容になっています。

 他の新刊3点もご紹介します。

2019/10