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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

検閲の話

 JR東京駅丸の内南口を出て左側に見えるのが「KITTE」という商業施設ビルです。かつては東京中央郵便局として知られ、建て直した今も1階には同名の郵便局があります。ここにある「JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク」という博物館は、とにかく展示がカッコよくて面白いので、時間つぶしや東京観光、デート等々にお勧めの場所です(今はなかなかそうもいかないと思いますが)。簡単に言えば映画の「ナイトミュージアム」みたいな雰囲気が味わえます。特に素晴らしいのは無料という点です。

 昭和初期に建てられたという旧・東京中央郵便局が、戦後の一時期、まったく別の任務を負わされていたことを2月刊『検閲官―発見されたGHQ名簿―』(山本武利・著)で知りました。日本における検閲の基地としてGHQが使っていたというのです。
 著者は発掘した日本人検閲官の名簿や彼らの肉声をもとに、検閲官たちの仕事ぶりや日常を浮かび上がらせていきます。英語の能力が求められるため、それなりのエリート層が多く働いていたようです。待遇が良かったこともあり、青春の一コマのように振り返っている人もいます。
 一方で同胞の秘密を暴く仕事に良心の呵責を覚えた人も少なくありませんでした。本の中では、死ぬまでその経歴を隠した有名作家の存在も明らかにしています。

 他の新刊3点をご紹介します。
2021/02

見た目の誤解の話

人は見た目が9割』(竹内一郎・著)が新潮新書の一冊として刊行されたのは、2005年のことでした。発売直後からベストセラーとなり、現在115万部を突破しています。その後、何冊も「〇〇が9割」というタイトルの本が出るのですが、元祖はこちらです。
 タイトルにある「見た目」は単純なルックスのことではなく、「ルックスも含む非言語情報全般」のことでした。言葉の意味以外、と言ってもよいでしょう。人間で言えば、声色、匂い、仕草、服装、姿勢等々。
 ところが、タイトルから「人を外見で判断するのか」といった反発をする方もいたようです。私は知人に「すごいタイトルつけるね」と言われたこともありました。
 誤解と言えば誤解。しかし正直に言えば、そういう誤解をする方が一定数いるであろうことも予想はできていたのですが。
 幸いなことに、きちんと読んでくださった方には真意が伝わったようで、同書はしばしば入試問題などにも使われています。

 1月新刊『あなたはなぜ誤解されるのか―「私」を演出する技術―』は、同じ著者が「自己プロデュースの極意」を伝える一冊。
「言っていることは正しくても、何だか不快。聞く気にならない」
 他人に対してそう感じた経験がある方は少なくないでしょう。しかし自分が他人にそう感じているということは、どこかで誰かが自分のことをそう感じている可能性も大。
 どのようにすれば誤解、曲解されず、余計なストレスを抱えずに済むか。演出家でもある著者が、その知見も盛り込んだうえで、心構えから具体的なポイントまでアドバイスしてくれます。私は読みながら何度も反省しました。

 他の新刊3点もご紹介します。
2021/01

年末の怖い話

 週刊誌の記者をやっていた頃、何度か怖い思いをしたことがあります。災害の現場などは二次災害の恐れがあるので怖いのですが、それよりも印象に残っているのはある事件の関係者の自宅を訪ねた時のことでした。
 相手の男性は容疑者などではなく、事情をよく知っているかもしれない関係者でした。そこに先輩の記者と訪ねていきました。夜8時くらいだったでしょうか。
 玄関に現れたのは、ガッシリした感じでちょっと不良っぽい人でした。
「まあ上れ」
 そんな風に部屋に招かれたのち、細かいやり取りは忘れましたが、私たち二人はいつの間にか板の間に並んで正座させられていました。
「なんで俺の部屋がわかったんだ。言え」
 男性のほうは椅子に座って私たちを見下ろしながら、そんなことを鋭い目つきで聞いてきます。が、情報源など言えるはずもありません。しかしそれでは許してくれそうにない。
 その男性も怖かったのですが、さらにそれを引き立てていたのが隣室にいる彼の子分と思しき二人の男性の存在です。といってもその人たちはこちらに凄んできたりしてくるわけではありません。むしろその逆です。
 嬉しそうにテレビでジャッキー・チェンの映画を見て笑っているのです。隣室といっても壁もないので、こちらの緊迫した状況はわかっているはず。兄貴分が椅子に座り、その前にスーツを着た男が二人正座している。なのに、まったく関心を示さない。
 この人たちはこういう光景が日常なのだろうかと思い、とにかく怖くなりました。
 結局、無事正座から解放されて今日があるのですが、今でもたまに先輩と「あれは怖かったなあ」と話すことがあります。

 なぜこんなことを書いていたかといえば、12月新刊4点がいずれも怖い話と関係があるからでした。
2020/12

空気を読む話

 国民的大ヒットとなっているアニメ、マンガについて伝えるテレビ番組などを見ていると、出て来る人のほとんどが絶賛コメントを発している気がします。
「子供につきあっているうちに夢中になった」「号泣した」等々。
 しかし身近な人に聞くと、そこまで絶賛の嵐という感じでもありません。
「子供は夢中なんだけどね」「『ゲゲゲの鬼太郎』のほうが好き」等々。
 周辺の人間が世の中とズレまくっているのかもしれません。が、一方でテレビに出ている中には、その場の空気を読んでいるだけの人もいるのではないか、という気もします。
「大ヒットという明るい話題のときに、水を差すようなことはとても言えない」
 そう考えるのが普通というものです。
「全然面白いと思えなかったっす」
 こんなことを言う人がいたら凄いと思います。でも多分、後でスタッフに「空気読んでくださいよ」と言われるのではないでしょうか。一応空気を読みながら慌てて申し上げておけば、私は大変素晴らしい作品であると思っております。

 11月新刊『空気が支配する国』(物江潤・著)は、日本人を縛る空気という名の「曖昧な掟」の正体に迫った論考です。新型コロナ禍においては、空気によって、私たちの行動は実質的に厳しく制限されました。諸外国に比べて相当ゆるい対策しか政府が取らなかったのに、国民が進んで自粛したのも、空気ゆえです。
 本書を読むと、この空気の発生過程、危険性、そしてそこから自由になる方法も見えてきます。

 他の新刊3点をご紹介します。
2020/11