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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

「育ちがいい人」の話

 電車の中で最近よく広告を見かける書籍に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(諏内えみ・ダイヤモンド社)があります。何となくそれを眺めているうちに、何と良いタイトルだろう、と感心する気持ちがどんどん強くなってしまいました(皮肉ではありません)。
 感心のポイントは二つ。まず「育ちがいい人」という言葉を選んだセンスです。この言葉、日常では結構見聞きするのですが、書籍などのタイトルではほとんど見たことがありません。アマゾンで調べても「感じのいい人」は出てきたものの、「育ちがいい人」は出てきませんでした。誰もが知っている言葉なのに、タイトルとして使うのは新鮮、というのは良いのです。
 もう一つが「だけが知っていること」の部分に感じられる配慮あるいは計算。「育ち」を問題にするのは、結構危ない面があります。下手をすると差別につながりかねません。仮に『「育ちがいい人」を目指そう』にすると、「育ちが悪くて悪うございましたね」と反発を招きかねません。しかし「だけが知っていること」ならばギリギリの線でオーケーではないでしょうか。それでも嫌だという方はいるでしょうが、そのくらいの毒、刺激はあったほうが良いように思います。
 こんなわけで最近もっとも感心し、悔しく思ったタイトルでした。

 8月の新刊4点のタイトルと中身をご紹介します。
2020/08

携帯CMの話

 明らかに年を取ってきたと思うのは、テレビなどで過剰に賑やかな番組やCMを見ると、妙にイライラする傾向が強まっていることです。特に苦手なのは携帯電話のCMで、なんだかよくわからないけれども、やたらと歌い踊り浮かれているようなトーンのものや、一応笑いを誘うつもりのつくりのものなど。
 そもそもおじさんになると、携帯に電話がわざわざかかってくる時は、何か悪いことやトラブルが起きた時のことが多いのです。浮かれられません。「まだ揉めているのか」とか「また誰か死んだのか」などと反射的に思ってしまいます。
 あんなに携帯持って踊っていられるのは、恋愛中の若者あたりでしょうか。
 そんなわけで、携帯電話に望むのは通信料金を下げてほしい、という程度です。私が少数派というわけではなくて、編集部内でも大体そんな感じでした。
 7月新刊『スマホ料金はなぜ高いのか』(山田明・著)を読むと、日本の通信料金のカラクリがよくわかります。どうもやはり世界的に見ても高く、最大の理由は寡占状態にあるようです。少し前に官房長官が「4割値下げ」と言ったにもかかわらず、実現しないのもそのあたりに原因があるとのこと。
 しかし、新型コロナの影響で家庭の通信費が増す傾向にあるのだから何とかしてほしい、というのは多くの人の切実な願いでしょう。少なくともあんなにCMで「お得なプラン」「多彩なプラン」を宣伝する費用があるのなら、こっちに還元してほしいと思うのはセコいのでしょうか。

 他の新刊2点をご紹介します。
2020/07

リモートワークの話

 新型コロナの影響でイライラしたり、不安定になったりする人が増えたとよく言われます。私もその一人でしょうか。先日、コロナ報道で一躍注目を集めることになった、ワイドショーの社員コメンテイターのこんな発言にムカッとしてしまいました。
「日本の会社員のほとんどは、会社に行くこと自体が仕事になっているんですよ」
 そういうムダなことはやめてどんどんリモートを徹底させればいいじゃないか、そうすれば感染リスクはもっと下がる、と言いたいのだろうと思います。おそらくこの人の頭の中にある会社員というのは、ムダな書類にハンコを押し続け、報告書を書き続けるような仕事をしている人たちということなのでしょう。たぶんマスオさんみたいな感じ。
 正直に言えばそういう面もないわけではないのですが、しかし多くの人は必然性があるから職場や現場に向かっています。家で画面に向かってしゃべれば終わり、という仕事ばかりではありません。
 新潮新書の6月新刊は3点です。通常は4点で、その原則は2003年以来ずっと守ってきました。たまに繰り上げ発売のものがあると、翌月は3点になるのですが、2カ月で8点ということで、「1カ月4点」を維持してきたのです。
 しかし、6月と7月は初めて3点にせざるをえませんでした。複雑な要因がからみあっているのですが、簡単にいえば新型コロナのせいです。
 誰が悪いのでもありません。サボったわけでもありません。また、営業がままならない業種が多い中では、4点が3点になる程度の影響ならばありがたいと思っています。そして、そのくらいの影響で済み、また無事に印刷され、配本され、売られるようになっているのは、社内外の数多くの関係者の方々の尽力によるものです。
 なるべく業務に支障をきたさないようにと工夫、努力をしている人たちによって世の中は回っている。普段以上にそういうことを感じています。
 それだけに、「会社員」を大雑把にまるめて小馬鹿にしたようなコメントには腹が立ったのでした。

 6月の新刊3点をご紹介します。
2020/06

こんな時期の話

 現在進行形のことについて書籍は他のメディアよりも不利なところがあります。ネットやテレビならば生で情報が伝達できます。週刊誌は校了から発売まで最短で2日ほど。一方で書籍は通常は校了から発売まで1ヵ月、すごく頑張っても1週間以上はかかります。だから新型コロナウイルスのこともとても扱いづらいのです。
 本来、5月新刊の予定だった『バカの国』(百田尚樹・著)は、かなり無理をして(つまり著者はじめいろいろな関係者の方々にご協力いただいて)、そうしたスケジュールを変更し、4月23日発売に繰り上げての刊行となりました。同書にはこのパンデミックを受けての「怒りの長い長いまえがき」があるので、少しでも早めに世に出したいという考えからです。百田氏は、1月の時点で相当な危機感を抱いて、警鐘を鳴らし続けていただけに、現状が悔しく、腹立たしくて仕方がないのです。
 刊行の時に感染拡大が完全に終わっていれば、この「怒りの長い長いまえがき」は空振りになったでしょう。実はそうなることを著者も編集部も願っていました。しかし、ここで書かれた危機感が古くなることはありませんでした。これは残念なことでもあります。

 他の5月刊は通常の発売日です。
2020/05