ホーム > 新潮新書 > 新書・今月の編集長便り > ニュースには「その後」がある

新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

ニュースには「その後」がある

「あの人は、今」──かつて週刊誌では、GWや年末年始の合併号では、定番の特集でした。成功であれ挫折であれ、一時はニュースの渦中の人になったものの、騒ぎが収まるとほとんど報じられない人たちの「その後の人生」を取材した記事ですが、最近はめっきり少なくなりました。

『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班・著)は、大手紙の中でも取材力の高さで知られる同社社会部による連載企画「あれから」をまとめたもので、大好評だった『人生はそれでも続く』に次ぐ第二弾です。
 人気ゲーム「ぷよぷよ」開発者やワープロソフト「一太郎」プログラマー、日本人メジャーリーガー野茂の誕生を阻止しようとした名投手、映画「ウォーターボーイズ」のその後など、時代の潮目にあって世間の耳目を集めた人物のドラマが、長期の取材によって描き出されます。人生には上り坂と下り坂と「まさか」、三つの坂があるとはよくいわれますが、どの記事もそのことを証明しています。
 兇悪な少年事件を起こしても、「その後」に関しては一切報じられることのない無数の「少年A」たち。彼らの更生の現実を追ったのが、『酒鬼薔薇聖斗は更生したのか─不確かな境界─』(川名壮志・著)。約30年前に神戸で起きた連続児童殺傷事件では、長い年月をかけて更生したはずが突然の『絶歌』出版騒動、その後は消息不明に。それでも再犯さえしなければ「更生」とみなすのが矯正教育ですが、少年犯罪に対してメディアや社会の受けとめ方は変わり続けています。著者自身が記者として関わった事件を折りまぜながら、少年犯罪と司法による「更生」のリアルを丹念に掘り下げます。
 年初からこのかた、日々のニュースはトランプ政権の動向と、それに翻弄される政治・経済の話題で埋め尽くされている感がありますが、いま最も危ぶまれるのが、日本人の精神そのものかもしれません。『日本文化は絶滅するのか』(大嶋仁・著)は、パリ国立東洋言語文化研究所で日本思想史を教えた著者が、和辻哲郎、西田幾多郎、レヴィ=ストロース、鈴木大拙ら先人の思想をひもとき、日本文化の起源から近現代での変容ぶり、現在の危地までを浮き彫りにします。
 自然に親しむ汎神論的な世界観、土着と外来のハイブリッド、「中空」と「ゆらぎ」の構造......この国の始まりから続く、日本人に特有のものの考え方や振る舞いなど「目に見えない文化」が、現代世界の潮流に呑み込まれようとしているさまが伝わってきます。
2025/05