2005年に発表されるやいなや、たちまち話題を呼び、文庫版もロングセラーとなっている、松岡圭祐さんの『ミッキーマウスの憂鬱』。日本人なら知らぬ者のないエンターテインメント施設の裏方を主役にすえた、画期的な青春小説です。
今作の主人公、永江環奈も同じく裏方。東京ディズニーランドでカストーディアルキャスト(清掃のアルバイト)をしています。大好きな施設で働けてはいるものの、家族からの理解が得られず、繰り返される毎日にちょっと疲れてしまった。そんなある日、自分にもテーマパークの顔として内外で活躍するアンバサダーになれる資格があることを知り、永江環奈は挑戦を決意します。無謀、不可能と言われながらも、周囲の応援を背に受け、夢に向かって一歩ずつ前進してゆく環奈。しかし迎えた選考会当日はあいにくの雨、さらに園内でゲスト(入園者)をめぐる大騒動が発生してしまい、彼女もそれに巻き込まれてしまいます。
待ち望まれていた『ミッキーマウスの憂鬱』の続編が16年後に文庫書き下ろしで登場。痛快爽快なお仕事小説でありながら、恋あり、謎解きありと、名手の才が存分に発揮されています。青春のただ中にいる方にも、それを懐かしく想う方にも、自信をもってオススメできる、エンターテインメント長編です!
レイチェル・カーソンの不朽の名作エッセイ『センス・オブ・ワンダー』を文庫化しました。
レイチェル・カーソンは『沈黙の春』(新潮文庫刊)で農薬DDTの危険性を誰よりもはやく告発した生物学者として知られますが、詩情あふれるエッセイもたくさん遺した作家です。なかでも自然の美しさや生命の不思議に触れることで人が得られるものの大きさを説く本書は、カーソンの没後に彼女を慕った友人たちの手によって出版され、世界的なベストセラーになりました。どちらも環境運動の端緒とされる必読の作品です。
『センス・オブ・ワンダー』の文庫化にあたり、川内倫子さんに作品を提供してもらいました。センス・オブ・ワンダーを体現する美しい写真をお楽しみください。また、生物学者の福岡伸一さん、文芸批評家の若松英輔さん、神経科学者の大隅典子さん、そして児童文学作家の角野栄子さんに、この作品の重要性を語っていただく解説を収録。20世紀の名著を次の世紀に遺すに相応しい文庫版になりました。
少女小説を中心に多くの人気作品を発表している三川みりが、新潮文庫nexで骨太の本格ファンタジーを発表しました。舞台は、巨大な龍の上に存在するとされる大地。九つの国の中の一国で、皇尊(すめらみこと)が崩御し、三人の男たちによる皇位の座を巡る競い合いが始まります。しかし、その中の一人である日織皇子(ひおりのみこ)は、実は女なのです。
この国では、女は龍の声を聞く。しかし、生まれながらにその能力(ちから)を持たない者は、遊子(ゆうし)と蔑まれ、存在を消される定め。そのために日織は姉を失いました。一方、男が得てはならない力があります。それらの能力を「もたざる者」と「もってしまった者」を待ち受けるのは残酷な掟です。日織は、次の皇位に就いてこの国を変えるために、自らの性を偽り、皇尊となる決断をするのです。
一見、ファンタジックな設定の国盗り物語かと思いきや然に非ず。全ては、「命」を護るための「覚悟」なのです。
主人公の日織のみならず、一人ひとりが背負う宿命に立ち向かう姿が深く丁寧に描かれています。それぞれの悲痛な覚悟は、現代の閉塞感を抱える世の中を生きる人の心に、熱い勇気を注いでくれる物語です。
そして、イラストレーター千景が描く装画の美しさもまた、圧巻です。
野望渦巻く覇権よりも深淵な、人としての生き様を問う男女逆転宮廷絵巻。天地揺るがす圧倒的な物語の世界を、お楽しみください!
●特設サイトでは、物語概要、登場人物紹介、応援メッセージなどを紹介しています。
→特設サイトはこちら
日本を代表する彫刻家・舟越保武の長女として生まれ、高村光太郎に「千枝子」と名付けられる(高村さん曰く「女の名前は智恵子しか思い浮かばないけれど、智恵子のような悲しい人生になってはいけないので字だけは替えましょうね」とのこと......)。慶應義塾大学を卒業後、絵本の編集者になり、やがて上皇后美智子さまの講演録『橋をかける』を出版。
――と、経歴を記せば圧倒されるような環境と華々しいキャリアですが、末盛千枝子さんは決して「恵まれた人」ではありません。初の自伝エッセイ『「私」を受け容れて生きる―父と母の娘―』には、輝かしい成功の陰にある、幾多の苦難と悲しみが描かれています。
1歳の長男に難病が見つかったこと、結婚から11年後に夫が突然死したこと、独立して立ち上げた出版社の倒産、そして、移住した岩手で経験した東日本大震災......。涙が止まらないような出来事に直面しても、運命から逃げずに歩き続けます。
末盛さんは断言します。「それでも、人生は生きるに値する」――。そう思えるようになるまでの道のりが、豊かでしなやかな言葉で綴られた本作は、今だからこそ読んでいただきたい希望の書です。
『永遠の0』『フォルトゥナの瞳』『海賊とよばれた男』などベストセラーを連発する人気作家、百田尚樹が今度は少年小説を手がけました! 本作『夏の騎士』は、勇気を手に入れ、小さな恋を知り、成長していく少年たちの姿を描く、ハートウォーミングな感動作です。
昭和最後の夏休み。主人公のぼくと、友達の健太、陽介は、勉強も運動もパッとしないクラスの落ちこぼれ。けれども、図書室で読んだ『アーサー王の物語』に影響され、三人で「騎士団」を結成することに。騎士は高貴な女性、レディに忠誠を誓うもの。そこで三人は、学校一の美少女、有村由布子をレディに選びました。騎士団は彼女を守るため、隣町で発生した女子小学生殺人事件の犯人探しをはじめるのですが......。
落ちこぼれ三人が一念発起し、さまざまな試練に立ち向かうことで小さな勇気を育てていく物語は、意外性の連続で、さすが稀代のストーリーテラーというべき物語展開に魅了されます。芯が強くて、頭が良く、意地っ張りだがかわいらしい、百田作品史上最も素敵なヒロインも登場。それが誰かは読んでからのお楽しみ。
スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせる少年時代の色褪せない思い出を軸に、著者の代表作『永遠の0』にも通じる戦争というテーマが盛り込まれ、ミステリ展開にはハラハラドキドキさせられ、思わず胸がキュンとするような恋も描き、読後には最高の幸福感が味わえる。小説を読む喜びが贅沢に詰めこまれた傑作小説です!