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新潮文庫メールマガジン アーカイブス


『リフレイン』『黄金の王 白銀の王』など、圧巻のファンタジーで知られる沢村凜さんの6年ぶりの新作が刊行されました。執筆4年、原稿用紙1800枚(全4巻)の超大作ですが、ひとたびページをめくれば物語の世界にどっぷりと浸かり、幸せな時間になることをお約束します。(読み終えてしまうことが、残念でたまらなくなるくらいに!)
 ファンタジーファン、沢村ファンをはじめ、多くの方から期待を寄せていただき、発売10日で重版が決まりました。

 冒頭、生きることに何の意味も見出さぬ青年・ソナンが、深い河に沈んでゆきます。終わったはずの人生から、物語は始まります。天上に棲む空鬼(そらんき)という謎の存在の気まぐれによって、異国に落とされたソナンは、「空人(そらんと)」という名前を得て、新たな人生をスタートさせることに。

 何もかも捨てて、違う場所で、違う自分になって生きられたら――。叶うはずもないような奇跡を掴んだ空人。けれど、数多の苦労と予想外の事実が彼を待ち受けます。新しい人生も、決して楽ではない。それでも空人は、かつての人生では感じられなかった生きがいや喜びを得て、困難を乗り越えてゆきます。

 人は何のために生きるのか。運命の地とは何か。親子が分かり合うことは不可能なのか。よき指導者の条件とは――。本質的な問いが魅力的な人物と意外な展開のなかに息づき、読む人の心に訴えかけます。読み終えると、ひとりの人間の波瀾万丈な人生を丸ごと見届けたかのような満ち足りた気持ちになることと思います。ダメ男・ソナンが英雄へと成長する驚異の物語を、ぜひ体験してください。

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2020年10月15日   今月の1冊


 塩野七生さんといえば硬質な筆致で古代ローマの歴史を描いた『ローマ人の物語』をはじめとした「歴史エッセイ」で知られていますが、大学の卒業論文は「イタリア・ルネサンス」について。デビュー作も、ルネサンス期イタリアの女傑たちを描いた『ルネサンスの女たち』でした。そんな塩野さんがルネサンスにかえってきました! しかも歴史エッセイではなく、歴史小説という形で――。

 1990年代に刊行した『緋色のヴェネツィア』『黄金のフィレンツェ』『黄金のローマ』の三作品を改題、30年の時を経て書き下ろし完結篇を加えた四部作の完全版として刊行します。かつて宝塚花組で上演された「ヴェネチアの紋章」の原作でもあり、ロマンスあり、殺人事件あり、スパイありの本格的歴史ミステリー小説全4巻! 新潮文庫10月新刊から4か月連続刊行となります。電子書籍も紙の書籍と同日配信となります。

 すべての巻に絢爛豪華なルネサンス世界を体現するカラー口絵を収録。その模様を動画に収めましたので、以下からご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=beepYi4v8yc

 本の総合情報サイト「BookBang」に刊行記念インタビューが掲載されています。こちらもあわせてお楽しみください。
https://www.bookbang.jp/review/article/640650

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2020年10月15日   今月の1冊


 日本史上、最強の武将といえば、織田信長を挙げる人が多いはず。しかし、じつは信長は最初から強者ではありませんでした。よく知られるように、「大うつけ」とそしられ、織田家は内紛も絶えない状況でした。
 では、分裂ぎみだった織田家は、なぜ戦国最強家臣団となれたのか。
 この謎を解く重要なキーマンこそ、本書の主人公、信長の弟・信行(信勝とも)です。

 信長の陰に隠れ、謀叛の罪で信長に討たれた弟、信行。分からないことが多い人物ですが、気鋭の歴史作家・霧島兵庫は、歴史の大胆な読み替えによって、説得力十分の歴史ドラマを描き出しました。
 知られざる信行の姿とは、彼が己の想いを封印して成し遂げたこととは、織田家最強への秘策とは......。信長への滾るような怒りや、兄のために己を殺す覚悟、そして紛れもない愛。誰よりも尚武に生きんと欲して燃えつきた信行の姿が、「圧巻」としかいいようのない物語となって胸に迫ります。
 兄弟の間に影を落とす信長の正室帰蝶も、きわめて重要な人物の一人。ですが、作家は帰蝶を「悪女」には描いていません。彼女もまた、戦国の男たちの間で孤独に必死に生きる一人の女性。生きることが困難な時代に男も女もなく、ただひたすらな想いと、一途な切望と、それぞれの戦いがありました。たとえそれが悲劇に終わると分かっていても......。戦場を描いて熱く、静寂の時を描いてなお熱い物語を、はたして固唾を呑まずに読めるでしょうか。

 戦いつつも互いを信じた信長、信行、帰蝶。担当編集者として、ゲラを読みながら何度も目頭を熱くしたことを告白します。嗚呼、心に食い込んで残る場面の数々......。まさに、すぐれた悲劇こそ小説の醍醐味であります。いや、これ以上は多言無用でしょう。どうぞご堪能ください。

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2020年09月15日   今月の1冊


 キックボクシングの王座決定戦、1000人の観客が見守る中、チャンピオンとなった青年が勝利の瞬間に崩れ落ち、そのまま死亡した。......なぜ?

 アルコール依存症の治療のため入院した人気ミステリー作家は、お酒を絶対持ち込むことがでいない病室で連日、泥酔を繰り返す。......なぜ?

 累計140万部突破の大人気シリーズ最新刊は、2つの不可解な「なぜ?」に天才医師・天久鷹央が挑みます。かたや大人数の観客が見守る中で、こなた厳重警備の病院で、ぞれぞれ起きた謎多き事件。人の手で行うことなど不可能と思える状況は、まるで神様が魔法で作り上げた「密室」のよう。
 しかし、「謎」が大きければ大きいほど、事件解決への意欲を燃やすのが天才・天久鷹央。今回もすぐに捜査を開始しますが......。

 作者の知念実希人さんは現役の内科医で、新型コロナ・ウイルスが猛威を振るう現在も診断の現場に立ち続けられています。「内科医の仕事は、患者さんから話を聞き、仮説をたて、そして病を明らかにしていくこと。つまり、ミステリーにおける探偵に近いんです」とは知念さんの言葉ですが、医師ゆえの視点、知識に裏付けられた本作の「トリック」、読み手の驚きを誘うこと、間違いなしです。

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2020年09月15日   今月の1冊


「本能寺の変」といえば、小学生でも知っています。焼け落ちる本能寺、信長の死、三日天下、あっという間の光秀の討伐。まさにインパクトありすぎの展開で、大事変は終結します。洛中洛外の誰もが、「想定外」と呟いたに違いありません。信長から秀吉に天下が急展開したのですから。
 かくして光秀は謀叛人のレッテルが貼られ、信長に相当苛められたらしいとか、真面目すぎて逆ギレしたとか、まことしやかな理由が囁かれてきました。
 でも、どこかおかしいと思いませんか?
 あれだけの大事件、光秀が無計画だったとも思えない。動機もよくわからず、共犯の有無も不明。結果的に一番得をした秀吉は、奇跡的な「秀吉の大返し」で光秀を討ち取ってしまう。これを現代の政変にたとえるなら、いわば犯人死亡のまま幕引きということ。じつは家康もまた、事変直後に大きな動きを見せた。有名な「神君伊賀越え」です。
 さて、事変から一か月。恐るべき支配者も、弑した光秀も、気づけば歴史から消えている。これは何を意味するのか? 「死人に口なし」なのか――。
 真相を解き明かすべく、手練れの甲賀忍びが動き出します。探索の目的は二つ。動機と共犯の解明です。なぜ光秀は主殺しを決断したのか。誰か協力者がいたのではないか。光秀を裏切った者は誰か。ミステリー風にいえば、「被疑者死亡の事件」の謎を追うというわけです。しかも、表向きには「決着した」事件の闇を。
 探索するのは棒手裏剣の達人・甲賀多羅尾衆の忍び伊兵衛、美貌のくノ一於夕に千蔵の三人。少ない手がかりをもとに、公家、御所、伴天連筋を調べ上げていくと、やがて細川ガラシャ(丹後宮津)や浜松の筋が浮かび上がってくる......。
「謀叛」という言葉をはるかに超えた、予想もしなかった闇。見えそうで見えない密約の構図。他の忍びとの暗闘も迫力満点。実在する日記史料(『兼見卿記』)を、主人公の伊兵衛が読み解くシーンも、史料を重んじる著者ならではの憎い演出です。
 光秀の背中を押したのは誰か。黒幕がもくろんでいたこととは何か。怖ろしき者たちとは誰か。
 歴史マニアなら知る異説〈光秀=天海〉説を凌駕する驚きが、歴史の非情とともにガツンとくる、読みごたえ満点の傑作です。

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2020年08月17日   今月の1冊