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飯嶋和一にハズレなし! 歴史小説の巨星が新潮文庫に初登場。


『雷電本紀』『始祖鳥記』『出星前夜』などで歴史時代小説ファンの胸を熱くさせてきた飯嶋和一さんの最新作『星夜航行』がついに文庫化! 初の上下巻、計1500ページ超えという大長編ですが、「出会えてよかった」作品になることをお約束します。

 飯嶋作品は常に、歴史に埋もれた人物を掘り起こし、その非凡さや高潔さを丹念に描写しながら、読む者の心を満たしてくれます。本作も例外ではなく、主人公は三河国の馬飼い・沢瀬甚五郎。類稀なる馬扱いの才能を見出されて徳川家の家臣となりますが、家康と嫡男の争いに巻き込まれ出奔し、やがて船商人に。戦国の世に、日本を超えて飛翔し、波瀾の人生を送ります。

 圧巻の馬競べの場面、小姓頭・修理亮と甚五郎の絆、阿蘇大宮司の重臣だった岡本慶次郎が選んだ道など、読みどころを挙げればきりがありません。
 甚五郎の生き方は、人間のあるべき姿そのものであり、触れるたびに背筋が伸びる思いがします。些事に囚われている自分は本当に小さい......と思い知りつつ、そんな「小ささ」を否定するわけではなく、圧倒的に「大きい」存在をただ目の前に見せてくれる、そんな優しさも飯嶋作品の魅力です。

 寡作ゆえ「オリンピック作家」などとも呼ばれ、本作も連載から数えると九年もの歳月を費やしました。読書の秋にゆっくり読んでいただけたらと思いますが、読み終えたらきっと、「次の作品はいつ!?」と焦れてしまうことと思います。

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2021年10月15日   今月の1冊
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