『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』。このすこし風変わりなタイトルの本がいま、たくさんの人に読まれています。舞台はイギリス。主人公は中学生になったばかりの男の子。著者は男の子の母親、ブレイディみかこさんです。
息子さんが通う公立中学は、人種や民族、階級、貧富の差、それからジェンダーの問題などが複雑に絡み合い、毎日がトラブルの連続。格差と差別と多様性が引き起こす問題を親子で悩みながら乗り越えていく日々を描いたこの作品は、鮮烈な印象を日本社会に与えてベストセラーになりました。
ジャーナリストの池上彰さんは、書評をこう結んでいます。
《ブレイディみかこさんは、イギリス社会の現実を日本の私たちに報告しながら警告を発しているのです。「これは、近未来の日本の姿かも知れないよ」と》(多様な社会での「親子物語」 より)
今月の新刊『THIS IS JAPAN―英国保育士が見た日本―』は、ブレイディみかこさんによる日本の取材記です。昨年秋のインタビューでブレイディさんは、いまの日本の問題として「経済と女性問題」をあげていらっしゃいますがこの本では主に経済問題に焦点を置いています。経済問題とは、つまり私たちの生活のことです。
冬の寒い日、世田谷区の保育園を訪れたときのこと。牛乳パックで作られた備品の数々を見て、「日本の保育園は、牛乳パックなしには成り立たない」と聞き、著者は衝撃を受けます。靴箱や棚から、「教室の真ん中に置かれていた巨大な間仕切り」まで......。
《「Austerity measures!」
とつい言いたくなった。緊縮財政が推進される英国では、ストリートでよくこの言葉が交わされる。何かがボロボロに古くなっている様子や、何かすごく貧乏くさい様子、いじましいような節約の場面などを見たときに、「Austerity measures!(緊縮措置!)」とジョークを飛ばして英国の人々は笑う。「緊縮」というのは欧州の政治を象徴する言葉だと思っていたのだが、この保育園を見ていると日本はその最前線を行っているのではないかという気がしてきた》(第三章 保育園から反緊縮運動をはじめよう より)
現場を見て、話を聞き、記録する。著者のスタイルを評論家の荻上チキさんは解説で、「風景を共有する」と評しています。「何かを語り、変えようとするためには、風景が共有されなければ始まらない」。
いま最も注目を集めるライター、ブレイディみかこさんが描くイギリスと日本の風景。イギリスは日本の近未来なのか、あるいはすでに日本は世界の問題を先取りしているのか。『THIS IS JAPAN』と『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を合わせて読むと、日本社会についてより深く考えさせられます。
ノンフィクション書評サイト「HONZ」にて荻上チキさんの解説を公開中!
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2019年で最も注目されたゲームタイトルが小島秀夫監督最新作ゲーム「DEATH STRANDING」であることは疑いようのないことですが、こちらを完全ノベライズした小説が新潮文庫nexで発売されました。
死者が生者を呑み込み、やがて絶滅へ至らしめる謎の現象「デス・ストランディング」によって崩壊した国家。ゲームではノーマン・リダース演じる主人公のサム・ポーター・ブリッジズは、死者の世界から帰還する特殊能力を持ち、分断され孤立して生きる人々の間を行き来する「伝説の配達人」として、育ての親である合衆国最後の大統領・ブリジッドからアメリカを再建する任務を託される――。
原稿用紙1000枚近い大ボリュームで綴られた本作はかなりゲームに忠実に作られていますが、ゲームでは知り得なかった配達を待つ側の人々の思いや、過去などが加わっており、プレイした人が読めば思わず「そうだったのか!」と膝を叩きたくなること請け合いです。
2月には映画やゲームの特装版パッケージとして使用されるスチールブックを世界で初めて本を封入する形で形成した特装版『デス・ストランディング ノベライズ スチールブック(R)エディション』が発売されます。ゲーム本体のスチールブックと並べて飾って楽しんでいただきたいです。
もうすぐクリスマスですね! 大人になってもクリスマスは楽しみなものです。サンタさんはさすがにもう来てくれませんが(涙)、そういえばあのサンタさん、真っ白なひげをたくわえたおじいさんの姿でイメージしますが、一体どういう人なんだろうと思ったことはありませんか? 『オズの魔法使い』の作者として知られるアメリカの作家ボームが、そのサンタさんの少年時代を描いた作品を刊行しました!
物語は、不死の妖精たちだけが暮らす「バージーの森」に一人の赤ん坊が迷いこむところから始まります。赤ん坊は「クロース」と名づけられて、妖精たちに温かく見守られながらすくすくと育ちますが、ある時バージー森の主人で、世界中の木こりたちの長(おさ)である「アーク」に連れられ、人間たちの厳しい暮らしぶりを知ることになります。クロースは自らの同胞たちに寄り添うように生きることを決意し、森を出ていきます。森の外では、妖精たちに助けてもらいながら木彫りのおもちゃを作って子どもたちを喜ばせる日々が始まりますが、人間の世界には、人間には姿の見えない怪獣「オーグワ」が跋扈しており、クロースや子どもたちに意地悪をするのです。クロースはオーグワたちとの戦いに挑みますが......(ここから先は読んでのお楽しみ!)。小さな赤ん坊だったクロースが、世界中の子どもたちに夢を与える「サンタクロース」になるまでを描いた、心温まる児童書です。
本書の装幀と挿絵は矢部太郎さんにお願いしました。大家さんとの心温まる交流を描いたコミック・エッセイ「大家さんと僕」シリーズが累計100万部を突破、さらに手塚治虫文化賞短編賞、「ダ・ヴィンチ」ブックオブザイヤー2018、オリコン年間BOOKランキング・タレント&コミックエッセイ2018第1位の三冠を達成するなど、2018年の出版界の話題を独占しました。本書にも超絶キュートな表紙絵のほか、赤ん坊のクロースが白いひげをたくわえたサンタクロースに成長するまでの各場面の挿絵を描いてもらいました。ぜひ手にとってみてください! クリスマス・プレゼントにぴったりな一冊になっています。
ゲームファンならおそらく誰しもが知っているであろう、天才ゲームクリエイター、小島秀夫。名前を知らない人も「メタルギア」「メタルギア ソリッド」というゲームタイトルを聞いてピンと来る人は多いはず。このゲームシリーズの立ち上げは、彼がコナミに入社した2年目の仕事とのことで、実に恐れいります。
独立して最初のタイトルである「DEATH STRANDING」の発売は11月8日で、今年一番の注目作であることは間違いありません。(11月28日には、新潮文庫nexでそのノベライズ版も発売されます)
そんな小島秀夫氏のたぐいまれなる創作力の根源は一体どこにあるのでしょう。
本書を紐解けば、彼がどれだけ本を愛し、本屋へ通うことを日課とし、自分とは違うフィールドで戦うクリエイターたちの創作物を尊敬しているかがひしひしと伝わります。このように創作物を愛する人だからこそ、才能の頂に登ったのかと感動することひとしおです。現在の本好きの人はもちろん、かつて本好きだった人、仕事の忙しさや生活に追われて「何かを楽しむ」ということの素晴らしさを忘れてしまったような気がする人......。是非、本書で天才の発する熱量に触れてみてはいかがでしょうか。
音楽家、俳優と様々なジャンルで活躍する星野源氏との対談も巻末に掲載しています。
TBSラジオ「問わず語りの松之丞」や、テレビ朝日系列「松之丞カレンの反省だ!」などメディアで最近よく見る神田松之丞さん。聞けば、嵐の松本潤さん、ジブリの鈴木敏夫プロデューサー、シンガーソングライターの椎名林檎さんなど、ファンを公言する著名人もたくさんいるそう。
毒舌冴えわたるキャラクターもさることながら、一級品の話芸で快進撃を続け、未来の人間国宝との呼び声も高い講談師です。
「講談ってよくわからない」そんな方がほとんどだと思います。
しかし「古典芸能ってつまらなさそう......」そんな人たちが松之丞さんをきっかけに、講談の沼にはまっています。
かつて、落語を凌ぐほどの人気を誇った講談は、落語が架空のストーリーを語るエンタテイメント小説なら、実際に起きた事件などを題材に語るノンフィクションもの、といった説明をされることの多い話芸。
一見地味にも見えるこの講談に今、異変が起きています。松之丞さんの出演される公演はチケットが軒並み即日完売。誇張なく、いま、最もチケットが取れない人なのです。
前座→二ツ目→真打と昇進していくなか、二ツ目にしてここまで登りつめた彼の半生を自ら語り、杉江松恋さんがまとめたのが新潮文庫より発売中の『絶滅危惧職、講談師を生きる』です。
ほかでは語られなかった生い立ちのこと、思春期のこと、古典芸能との出会い、そしてなぜ滅びかけの芸に惹かれ、神田松鯉への入門を決めたのか――。
天才の光と闇が詰まった本書を読めば、新しいことを成し遂げる者の尋常ならざるたくらみと志にしびれます。
来たる2020年2月11日に、真打へのスピード昇進、および「神田伯山」という大名跡を襲名することが決まった松之丞さん。長い講談の歴史のなかでこれがいかに重要な出来事なのか、長井好弘さんの寄稿も収録した文庫は、真打昇進への覚悟溢れる一冊です。