「ナルニア国物語」シリーズの最初の1冊『ライオンと魔女』がイギリスで刊行されたのは1950年のことでした。それから75年、その人気は衰えることなく、今もなお児童文学史に燦然と輝きます。
世界47カ国で翻訳、1億2千万部の売上を誇るファンタジーの金字塔――。
しかし、このあまりに有名な物語のラストを、みなさんはご存じでしょうか。
「なるほど。これはおもしろい冒険小説だ。娘のクリスマスプレゼントにでもしようか」
1巻『ライオンと魔女』を読んだ人はきっとそう頷くことでしょう。衣装だんすの先に広がる別世界を夢みることのできる、子どものための物語。仲間、友情、勇気、信念、出会いと別れ、諦めない心......まさに子どもが大きくなるために必要なものがすべて詰まっている王道の児童文学です。
しかしその印象は、2巻『カスピアン王子と魔法の角笛』、3巻『夜明けのぼうけん号の航海』と巻を追うほどに変わってゆきます。
自分の夢を諦め国民のために王冠をかぶる王子。そんな少年王の前に広がる茨の人生。そして、明るい未来を夢見るばかりではなく現実の厳しさを直視しろと諫める仲間......。
そして、最終巻『さいごの戦い』を読み終えたとき――。
そこには、「子どものための冒険小説」という言葉には到底おさまらない壮大な世界が広がります。
実は、『さいごの戦い』は、発表当時、英文学会で論争を巻き起こした「問題作」でもありました。「子どもにこそ真理を語るべき」と考えていた著者C・S・ルイスと、「子どもには空想や夢だけを与えるべき」という当時の論調は真っ向から対立します。
それでも、『さいごの戦い』はイギリスで最も権威ある児童文学賞であるカーネギー賞を受賞し、今では『指輪物語』『ゲド戦記』とともに「世界三大ファンタジー」の一角を担うまでになりました。
来年2026年にはNetflixでの新作映画の配信も決定している本シリーズ。衣装だんすから始まった小さなルーシーの冒険は、この最終章を読んでこそ完結します。
どうぞ、ナルニアへのさいごの旅をお楽しみください!