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新潮文庫メールマガジン アーカイブス


 この夏、『羊たちの沈黙』『ハンニバル』の トマス・ハリス待望の新刊、『カリ・モーラ』が新潮文庫から刊行されました!
 ハリスといえば、寡作で知られたお人。1975年に作家デビューしてから40年以上のキャリアのなかで、新作を除くと著作はわずか5作。1940年生れという年齢も考えると、ファンの間では「ハリスはもう新作を書かないのでは」という諦めのムードも漂っていたところに、今回の新作の報が喜びとともに迎えられました。

 期待の新作『カリ・モーラ』は、あのモンスター、ハンニバル・レクター博士の登場しない、まったく新しい物語です。
 舞台は陽光眩しいマイアミ、故国を逃れアメリカで生き抜こうとする健気なヒロイン、カリ・モーラをはじめ、登場人物のほとんどは南米からの移民たち。麻薬王が別荘に隠した金塊をめぐる悪党たちの悪巧みと抗争、それに巻き込まれたヒロインのサバイバルを描くスピーディーな展開に、思わず引き込まれること請け合いです。2019年、トランプ大統領時代の「いま」のアメリカを活写しつつ、小説を読む楽しみに溢れた、極上のエンタテインメント作品に仕上がっています。
 もちろん、ハリスのファンにはたまらない、猟奇的な悪役も登場。

 その名もハンス・ペーター・シュナイダー。全身無毛の臓器密売商人にして殺人鬼。捉えた女の死体を人体溶解装置で溶かし、それを眺めて至福を感じる正真正銘のサイコキラーです。シュナイダーは美貌のカリを狙いますが、彼女は悪党顔負けの華麗なガン捌きと高いサバイバル能力で対抗します。なぜ、25歳の移民女性がそのようなスキルを持っているのか。理由は、彼女が故国で経験した壮絶な過去にありました――。
 聡明で美しく、強さと優しさを兼ね備えた新たなヒロイン、カリ・モーラの魅力にあなたもノックアウトされ、彼女の今後を描く続編をぜひ読みたいと思ってしまうはず。ハリスさん、次は13年も待たせないでくださいね!

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2019年08月15日   今月の1冊


 湊かなえさんの文庫最新刊、『絶唱』が刊行されました!

 2019年「新潮文庫の100冊」のラインナップでも注目され、早速大評判となっている本作は史上最高の号泣ミステリーです!

 五歳のとき双子の妹・毬絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵――。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう(「楽園」)。思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている(「約束」)。誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。

 誰しもが、過去に自分がしてしまった取り返しがつかないことへの後悔を、大なり小なり胸に抱え、日々を生きているのではないでしょうか。本作で描かれる四人の女性たちもまさにそうです。湊さん自身が青年海外協力隊で赴任した南洋の島トンガを舞台に、喪失と再生を描く物語『絶唱』。心揺さぶる「号泣ミステリー」を、ぜひこの機会に。

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2019年07月17日   今月の1冊


 朝井リョウさんの直木賞受賞作『何者』は、2016年に映画化もされ、大きな注目を集めました。就職活動を目前に控えた拓人は、ルームメイトの光太郎や、偶然にも同じアパートに住んでいた理香と隆良、そして留学帰りの瑞月と、就活対策のため頻繁に集まるようになります。最初は共同戦線だったはずの5人ですが、SNSや選考で交わす言葉の奥の本音や自意識が、彼らの関係性を次第に変えてゆきます。ラスト30頁は衝撃の連続! まだお読みでない方はぜひご一読下さい。

 そして、『何者』の登場人物たちの知られざる過去や未来を描く6編を収めた『何様』が、このたび新潮文庫より発売されました。
 
 光太郎の初恋の相手は? 理香と隆良が知り合ったきっかけとは。社会人になったサワ先輩。烏丸ギンジのその後。瑞月の父親に起こったある出来事とは――。

 そして表題作の「何様」にネット通販の会社の面接を受けた男子学生の入社後の姿が描かれます。『何者』では選考される側だった克弘は人事部に配属され、選考する側の立場に。

 他人を選考するなんて、何様のつもりなんだろう。

 どうしてもその思いが拭えない克弘は、戸惑いながら、葛藤しながら、仕事を進めていきます。そしてもう一つ、克弘には自分に問い続けていることがあり......。

 年齢も立場も、「大人」と呼ばれるような存在に近づいていくのに、自覚や態度が追いつかないジレンマや焦りが丁寧に細やかに描かれています。「大人」に反発する人に、「大人」になれないと感じている人に、そして「大人」である自分を受け入れた人に、ぜひとも読んでいただきたい作品です。

 文庫化にあたって、オードリーの若林正恭さんに解説をお寄せいただきました。「中年」になった自分を受けとめる覚悟に胸打たれる、素晴らしい解説です。

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2019年07月17日   今月の1冊


 主人公の富山とみやまは、彼女との間に起きた問題からトラブルに巻き込まれた。そのため、大学を休学し、実家を離れ、期間限定の自立を始める。接触恐怖症という、他人にはなかなか理解されない体質を抱え葛藤するも、相変わらず人間関係は苦手なまま。深夜ラジオを心の拠り所とし、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」に投稿を続けるハガキ職人でもある。しかし、コンビニでバイトをするうち、チャラい見掛けによらずバイトリーダーとして仕事をこなす鹿ざわや、同じラジオ番組のヘビーリスナーらしい女子高生の佐古田さこだと親しくなり、世界が鮮やかな色を取り戻していく。

 SNSやネットの中では繋がっていても、現実の距離のとり方が難しいと感じる人は多い。佐藤さんの作品には、どこか不器用な一面を持つ登場人物が描かれることが多い。そして、最後のページを読み終えたとき、その背中をそっと後押ししてくれる温かさが、そこにはある。『明るい夜に出かけて』は、『しゃべれども しゃべれども』『黄色い目の魚』『サマータイム』『一瞬の風になれ』などの代表作に続く、青春小説の傑作です!

 また、「波」5月号にて、上橋菜穂子さんとの「作家生活三十周年記念対談 『原点』そして『これから』」が掲載されています。デビュー作『サマータイム』が生まれたエピソードなど、物語に籠めた思いを語っていただきました。

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2019年05月15日   今月の1冊


「守り人」シリーズほか多くの作品で大人気の上橋菜穂子さんは、今年で作家生活30周年を迎えました。デビュー作『精霊の木』が、ついに文庫化。発売からたちまち重版となりました。

 この物語は、環境破壊のために地球が滅亡し、人類が移住した星を舞台に展開するSF小説です。ナイラ星に住むシン少年と従妹のリシアは、失われた〈精霊の木リンガラー・ホウ〉を求めて、異世界からこの地を目指す〈黄昏の民〉の存在を知る。そして、闇に葬られた過去の歴史と、現代に潜む謎の真相を追い求め、旅立つ二人の運命は――。

 本書は、上橋さんのその後の作品に繋がる「萌芽」を感じる瑞々しい物語です。平成元年に出版された作品が、30年の時を経て令和元年に文庫化となりました。デビュー当時を振り返った文庫版あとがきも収録。

 また、「波」5月号にて、佐藤多佳子さんとの「作家生活三十周年記念対談 『原点』そして『これから』」が掲載されています。物語との関わり、『精霊の木』が生まれるまで、そして今日に繋がる道のりを深く語り合っていただきました。

 野間児童文芸賞、産経児童出版文化賞、国際アンデルセン賞、本屋大賞、医療小説大賞など多くの賞を受賞され、ファンタジー小説を代表する作家である上橋菜穂子さんの活躍から目が離せません。

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2019年05月15日   今月の1冊