直木賞と山本周五郎賞をW受賞した本書が、ついに文庫化されました。発売直後から各書店の売れ行きが落ちることなく、早くも増刷決定です。多くの読者が文庫になることを待ち望んでいた証だと思います。
すでに歌舞伎としても舞台化されたこの小説は、このたび映画化も決定しました。キャストは、柄本佑さんと渡辺謙さん。監督・脚本は源孝志さんというこの上ない布陣で、劇場公開は2026年2月27日。作品を読んだ方は、否が応でも胸が高鳴るのではないでしょうか。
『木挽町のあだ討ち』がなぜここまでの広がりを見せているのでしょうか。
時代小説というと、「とっつきにくい」イメージがあるにもかかわらず、世代を超えて幅広い読者を虜にしている大きな理由は──。いくつも理由があると思いますが、大きな理由の一つは、時代小説なのに、巧妙な仕掛けと謎解きが用意されているからだと思います。要するに、時代小説とミステリーの融合。それによって、双方のジャンル枠を超越した作品になっているのです。
ネタバレにならないように、少しだけ物語を紹介しましょう。
ある雪の夜、木挽町の芝居小屋の裏手で、菊之助なる若衆が見事な仇討を果たします。白装束を血に染めて掲げたのは父の仇、作兵衛の首級。その二年後。ある武士が現れ、目撃者を訪ね歩きます。元幇間、立師、衣装部屋の女形......。皆、世の中では生きづらく居場所を失い、悪所に救われた者ばかり。「立派な仇討」と語られるあの夜の〈真実〉とは何だったのか。驚きの仕掛けが、最後に感動を呼ぶまぎれもない傑作です。
もちろん、仕掛けの面白さだけでなく、登場人物の言葉に感情移入して読めるのも魅力の一つです。みな生きるのが不器用で、自分の居場所を失った人たちが、「芝居」というフィクションに救われていきます。この作品が清々しい感動をもたらすのは、小説の言葉が、読む人たちの琴線に触れるからではないかと、思わずにはいられないのです。