「読みながら、震えが止まらなかった。規格外の傑作だった」
「悪魔的な"こく"に脳髄がしびれた」
「殺人事件を扱ったノンフィクション・ノベルの名著として歴史に名を残すことは間違いない」
各紙誌で絶賛を浴びた柚木麻子さんの『BUTTER』がついに文庫化されました。発売3日目に2刷がかかり、7日目には3刷と、驚異的な勢いで売れています。
男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子。「カジマナ」と呼ばれるようになった梶井が世間を騒がせたのは、その犯行もさることながら、彼女が若くも美しくもない女だったから――。週刊誌記者の町田里佳は梶井に取材のアプローチを続け、ついに面会にこぎつけます。事件のことを聞きたくて逸る里佳に、梶井はこう切り出します。
「まず、あなたの部屋の冷蔵庫に何が入っているか、教えてくださらない?」
この言葉から、梶井と里佳の、奇妙な関係が始まります。食べること、作ることの快楽を説く梶井に感化され、里佳の生活や価値観も変貌してゆき、その変化は親友の伶子や恋人の誠らにも影響を与え......。
実在の事件をモチーフにした本作ですが、それはあくまで端緒であり、物語の核にあるのは私たちが抱える「生きづらさ」です。家族関係における罪の意識、性別にかかわらず自分で自分をケアすることの大切さ、血の繋がりにとらわれない新しい共同体の可能性――。殺人や結婚詐欺の当事者ではない多くの方々にも、この物語は決して無関係なものではないと確信しています。
そして、もう一つの読みどころは、梶井が語る美食の数々。「バター醤油ご飯」に始まり、たらこバターパスタ、ウエストのバタークリームケーキ、カトルカール......。頭の中がバターへの欲望でいっぱいになること間違いなしです。
濃厚で芳醇な、柚木麻子の新境地にして集大成、ぜひご一読ください。