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新潮文庫メールマガジン アーカイブス

 BSE問題をテーマにした『震える牛』(2012年)を発表した直後に大手ホテルチェーンによる食材偽装問題が発覚し、エコカーの安全性を問う『ガラパゴス』(2016年)発表後には三菱自動車による燃費データ不正問題がニュースとなる――書いた内容が実際に社会問題化することで注目の作家・相場英雄さん。そんな相場さんの著作の中でも、スポンサーへの配慮が必要となる民放ではドラマ化不可能といわれていた文庫最新刊『不発弾』が、社会派のテーマを得意とするWOWOWでドラマ化されます。気になるその内容とは......。

不発弾 相場英雄不発弾

 大手総合電機メーカー・三田電機産業に発覚した1500億円もの巨額の「不適切会計」。その背後には、貧しい炭鉱町を抜け出すため証券会社に入社し、バブルの荒波を乗り越えて経済界の影の立役者にのし上がった金融コンサルタント・古賀遼(椎名桔平)の姿が見え隠れする。警視庁捜査二課管理官・小堀弓子(黒木メイサ)は「不適切会計」の闇を暴くべく、古賀を追い詰めていく――。

 主演の椎名さんはドラマの完成披露試写会の席で「過去と現在が交差しながら展開するので、撮影では午前中は30代、午後は40代、そしてまた30代に戻るという、初めての経験でした」と振り返りつつ、「その苦労のかいもあり、いいドラマになりました。素晴らしい作品と脚本、いい役柄を頂き幸せです」と語ってくれました。捜査二課の小堀は、原作では男性キャラクターですが、黒木さんがパンツ・スーツ姿でクールに演じてくれています。ドラマ「連続ドラマW 不発弾 ~ブラックマネーを操る男~」はWOWOWプライムで6月10日から毎週日曜午後10時放送。全6話で、第1話は無料放送となります。
「不適切会計」に隠された日本金融界最大のタブーとは何か。大手通信社の経済記者としてバブル期を過ごした相場さんならではの、驚愕の真相がラストに待ち構えています。

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2018年06月08日   お知らせ / 今月の1冊

 世界で人口の一番多い国はどこでしょうか? もちろん人口13億の中国です。もしかしたら、 統計に入っていない人数があって、もう少し多いかもしれません。いずれにせよ、日本のだいたい10倍です。
 感覚的に、この10倍という数字が日本人にはピンとこないと思います。
 その規模を、一目瞭然で理解できるのが、橘玲さんの新刊 『言ってはいけない中国の真実』に掲載されているこのグラフです。

 東アジア、東南アジア諸国の国別に上から人口の多い順に並んでいますが、すこし手を加えていて、中国だけ直轄市と各省別にわけています。
 まず1番がインドネシアで東南アジア最大の人口を誇り、2億5000万近くが住んでいます。
 2番が日本で、人口が減少しつつあるとはいえ、1億2000万。
 注目すべきはその次です。広州を省都とし、ここ40年で数十万から1000万都市となった深センもある広東省が1億人を超えていて、3番目です。中国の22ある省のうちの一つなのに、日本と肩を並べるほどの人口があるわけです。
 4番目は人口増加が著しいフィリピンで、2015年に1億を超えました。
 そして、5番目には山東省、6番目には河南省と、またしても中国の省がランキング。
 山東省の省都が済南、河南省の省都が鄭州ですが、山東省はビールで有名な青島のある場所とご存じの方もいるかもしれませんが、河南省のほうは、それがどこにあるのか、ふつうの日本人にはイメージできないのではないでしょうか?
 
言ってはいけない中国の真実 橘玲言ってはいけない中国の真実
 次がベトナムで9000万弱。
 そして、8、9、10番目は四川省(8000万)、江蘇省(8000万弱)、河北省(7000万強)と中国の省が続きます。つまり、中国の人口を省でわけると、上位10位の中で、6つが中国の省なのです。

 驚くべきは、27位の重慶市でしょう。中国の直轄市は日本の市域に比べて広く、重慶も北海道くらいの面積がありますが、それでも3000万の人口があります。東南アジアのマレーシアよりも人口が多い。
 ほかの直轄市、上海市が1900万強、北京市が1800万弱、やはりカンボジアの全人口(1400万)よりも大きい(もうひとつの直轄市、天津も1200万でカンボジアよりもすこし少ないくらい)。
 このグラフを見ると、中国はほかの国と比較する場合、ひとつの国としてではなく、いくつかの国がまとまって構成されている「世界」と見たほうがよさそうです。

 満洲からチベット、内モンゴルまで中国の隅々を旅した橘さんは、中国を「ひとが多すぎる国」であることを出発点に、次第に完成しつつある「民主主義なしの『超未来国家』」の姿を明らかにしています。本書は、日本の隣国でありながら、われわれの尺度では計りえぬ巨大国家・中国が今後どうなるのか、それを理解するために必読の書と言えましょう。

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2018年05月15日   お知らせ / 今月の1冊

 新年度がスタートしました。新入生、新社会人のみなさん、おめでとうございます。新しい学校や職場で、初対面の人たちと話をする機会が増える春。新しい友だちや仲間と、楽しくおしゃべりができたら、これほど気持ちのいいことはありません。
 今月の新刊『話術』で徳川夢声は、「他人以上、親友未満」の人との会話を楽しく成功させるための条件として、次の3つを挙げています。

徳川夢声話術

A・教養が深く見聞が広く、話題が豊富であること
B・共通の話題を選ぶこと
C・相手の話をよく聞くこと
 Aはちょっとハードルが高く感じますね。Bは自然と気をつけている人も多いのではないでしょうか。Cは今すぐにでも、意識して始められそうです。「話し上手は聞き上手」というくらいで、「相手の話をよく聞くこと」はとても大事なのです。
 だから『話術』では、さらにくわしく「聞き上手」になるためのコツを紹介しています。
 
(1)話の腰を折らないこと
(2)「マ」と気合を外さずに
(3)話し手の眼を見ること
(4)何かしながら聞かないこと

(2)はこれだけだと少し分かりづらいかもしれません。適度に相づちを打つという意味です。

 ところで著者の徳川夢声って誰? と思った人も多いのではないでしょうか。徳川家康の子孫ではありません。歴史学者、磯田道史さんの言葉を借りれば、「この国最高の話術の達人」。

 徳川夢声の人生と素顔は、巻末の解説で濱田研吾さんが書いています。サイレント映画を解説する活動弁士から俳優、漫談家として活躍。試験放送の頃からラジオに出演、そしてテレビのタレントへ。作家としてもたくさんの本を残し、大正から昭和にかけて、文化の最先端を担った元祖マルチ・タレントでした。
 夢声が『話術』を発表したのは、戦後間もない1947年。その20年後にアナウンサーとなった久米宏さんの解説も収録しています。

 新人時代の久米さんが、先輩から薦められた何冊かの本の中に『話術』がありました。先輩の意図は「楽しくおしゃべりしようぜ」ということではもちろんなく(それもあったかもしれませんが)、アナウンサーに必要な技術や心がまえが、この本には書かれているということだったのでしょう。
 ところが久米さんは、このときも、それからも、『話術』を手にすることがなかったそうです。今回、はじめて読んで、どんな感想をお持ちになったでしょうか。
 久米さんの解説は書評サイトHONZで読むことができます。
(50年の怠慢を経て名著を読む http://honz.jp/articles/-/44696

 久米さんが新人だった50年前、すでに名著とされていた『話術』。発売以来、単行本のロングセラーとしてずっと売れ続けている作品が、はじめて文庫になりました。
 

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2018年04月13日   お知らせ / 今月の1冊

『チーム・バチスタの栄光』で華々しくデビューして以来、海堂尊さんは12年間で20を超える長編小説を発表してきました。
 ファンの間ではよく知られていることですが、登場人物たちは作品を横断して登場しており、すべての小説が有機的に連関して大きな世界を形作っています。「海堂サーガ」、またはデビュー作以来の舞台となっている架空の街・桜宮市から「桜宮サーガ」とも呼ばれる作品群は、それぞれ地域医療、救急医療、終末医療、不妊治療など現在の医療が抱えるさまざまな問題に斬りこみながら、エンタメ度の高い物語として読者を魅了してきました。

海堂尊スカラムーシュ・ムーン

 このほど文庫版として刊行された『スカラムーシュ・ムーン』は、その海堂サーガの完結篇ともいうべき長篇で、解説の東えりか氏の言葉を借りるとこの作品をもって「医療の過去・現在・未来を描く巨大なジグソー・パズルのような世界がついに完成した」ことになります。

 新型インフルエンザをめぐる騒動を描いた前作『ナニワ・モンスター』に連なる本作は、インフルエンザ・ワクチンを題材に国家と医療という壮大なテーマに挑んでおり、完結篇にふさわしいスケールの物語に仕上がっています。

 サーガの人気キャラクターの1人で、スカラムーシュ=大ボラ吹きの異名をとる異端の医師・彦根新吾は、「ワクチン戦争」に勝利できるのか――医療小説の世界に革命的な新風を吹き込んだ海堂エンタメの、現時点での集大成をお楽しみください。

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2018年03月15日   今月の1冊

板倉俊之蟻地獄
 お笑いコンビ「インパルス」結成から20年をむかえた板倉俊之さんが、 いま、作家として注目されています。芸人として、コントの作・演出を全て手掛けてきましたが、小説家としても実は10年目。 『蟻地獄』は、執筆に2000時間を費やした長編小説の文庫化です。

 さて、物語は──。二村孝次郎と大塚修平は小学校からの幼馴染み。19歳になった2人は、いつものように連れだってパチンコに興じていた。 この日は、更に一攫千金を目論み裏カジノへ乗り込み、ブラックジャックで大金を手にする。ところが、喜びも束の間、イカサマは見破られていたのだ。 5日後までに300万円を用意できなければ、人質の修平が殺される。孝次郎は金を作るため、高額で売れる「モノ」を求めて青木ケ原樹海へと向かうのだが......。

 ノワール小説かと思いきや、実は巧妙なサスペンス。二転三転、仕掛けがたっぷり詰まっています。生か死か──現代社会の闇を背景に、 「アリジゴク」に嵌まった若者の極限の姿がリアルに描き出されます。
 560ページ超を感じさせない圧倒的筆力で、読む者を欺くサスペンス巨編。技が光る『蟻地獄』の世界を思う存分お楽しみください!

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2018年02月15日   お知らせ / 今月の1冊