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新潮文庫メールマガジン アーカイブス


 10万部突破のベストセラー『蟻の棲み家』の中で、大どんでん返しの推理をみせたルポライター・木部美智子。本作『殺人者』でも、木部美智子が綿密な取材を通し、連続殺人犯へと迫っていく。
 今回の物語の舞台は、大阪と神戸。ホテルの室内で、惨殺された男性が相次いで発見された。女連れでホテルに入った被害者たちには、ある共通点があった。出身高校が同じだったのだ。警察に先んじて「謎の女」の存在に気づいた美智子は、スクープを狙って女の家を訪ねる。だが、そこには驚くべき光景が待ち受けていた。そして、さらなる殺人が発生。事件の背景には、衝撃の真実が隠されていた......。
 承認欲求、毒親、嫉妬、偽善、コンプレックスなど、人間の心に隠された闇に、木部美智子は果敢に分け入っていく。きれいごとで済ませようとする社会に対し、彼女が追求するのは残酷な真実だ。すべてが明らかになったとき、戦慄、恐怖、解放、救いなど、さまざまな思いが湧き上がってくることだろう。2022年を締めくくるにふさわしい、骨太の社会派推理小説。

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2022年11月15日   今月の1冊


「お別れの言葉は、言っても言っても言い足りない――」。2021年10月に58歳で急逝した山本文緒さん。ある日突然膵臓がんと診断され、余命宣告を受けてから、夫とふたり暮らす日々のことを書き続けた闘病日記、『無人島のふたり―120日以上生きなくちゃ日記―』が先日刊行され、静かな話題を呼んでいます。
 そんな山本さんが最後に遺した長編小説『自転しながら公転する』が、このたび新潮文庫になりました。

 母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えません。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? と、都はつねに悩んでいます。
 そんな等身大の30代の女性の悩みに寄り添うように、揺れる心を優しく包んでくれるこの物語は、多くの読者を勇気づけ、圧倒的な支持を得ました。そして、2021年の本屋大賞にノミネートされ、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞も受賞しました。

『恋愛中毒』『プラナリア』など、数多くの名作を世に遺した山本さんの新作は残念ながらもう読めません。しかし、本を開けば、そこで山本さんの言葉に出会うことができます。『自転しながら公転する』には、山本さんの時に鋭く、時に優しい、大きな包容力のあるメッセージがあふれています。

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2022年11月15日   今月の1冊


 真面目でど天然な愛すべき西川きよし師匠。ダウンタウン浜田さんに耳たぶをいじられるほんこんさん。何もかもが用意周到、嫉妬が原動力の山里亮太さん。本気で客にキレてるのになぜか許されるメッセンジャー黒田さん。突然渡米、スケールのでかいバカっぷりで突き進むピース綾部さん。TBS「水曜日のダウンタウン」でも話題になった還暦バイト芸人リットン調査団。常にどこかふざけてる女・ガンバレルーヤよしこさん。ホノルルマラソンで驚異的なリタイアをしたトミーズ健さん。やることすべて無茶苦茶、乱だらけの極楽とんぼ加藤さん。......吉本歴30年超の著者が、底知れぬ芸人愛とあの悪い笑顔で、吉本(と元吉本)芸人31人をいじり倒します!
 本作にはキングコング西野亮廣さんの東野幸治論(再録)と、平成ノブシコブシ徳井健太さんの解説(文庫書き下ろし)も収録されます。
 特に注目は文庫特典のノブコブ徳井さん解説。徳井さんは自著『敗北からの芸人論』も話題ですが、このたび東野さんから「考察力が非常に高く、自分の原稿を最も理解してくれるだろう徳井君にお願いしたい!」と、直々の解説者指名でした。その思いに応える熱い解説で、「東野さんは〇〇の芸人たちに嫉妬している」との分析も飛び出します。東野さんの本文と共に必読です。
 疲れを吹っ飛ばす笑いの書。電車では読めませんのでご注意ください!

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2022年10月16日   今月の1冊


 本書の原稿を執筆し終えたときのことを、村上龍さんは「こんな小説を書いたのははじめてだと、しばらく茫然としていました。はじめてだし、二度と書けないだろうと思いました」と書いています(短い「あとがき」より)。

"こんな小説"は、小説家の「わたし」が、飼い猫のタラから「あの女を捜すんだ」と話しかけられる場面から始まります。あの女とはいったい誰なのか? そして「わたし」は、あの女とともに過去へと向かう列車に乗り込みます。そこには驚くべき世界が待ち受けていました。
 さらに、彼女との出会いをきっかけに、「わたし」にはかつての自分を見つめる「母」の声が聞こえるようになります。幼い頃飼っていたシェパードの子犬、母と過ごした日曜日の図書室、中学生の時の作文、デビュー作となった小説......作家・村上龍を追ってきた人たちなら、本文庫の258ページの"ある一節"に出会った瞬間、鳥肌が立つことでしょう。
 作家としての自らのルーツへと迫る長編小説は、まさに村上龍文学の新たな傑作と呼ぶのにふさわしい作品です。「二度と書けない」と著者自らを唸らせた小説世界を、ぜひ体験してみてください。

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2022年10月16日   今月の1冊


 新潮社は9月新刊として、ポール・ベンジャミンの『スクイズ・プレー』という作品を刊行しました。

「ポール・ベンジャミン」という聞きなれない名前。これは実はかのポール・オースターが、デビュー前に使っていたペンネームのひとつ。〈ニューヨーク三部作〉で小説家として成功する前のオースターが、生活のためにさまざまな別名で雑文や記事を書いていたことはつとに知られていますが、小説を世に出せるということで喜び勇んで引き受けた作品が、本作『スクイズ・プレー』の執筆でした。アメリカ私立探偵作家クラブの賞であるシェイマス賞の最終候補作に入るほどの、本格的な私立探偵小説になりました。

 この知る人ぞ知る筆名は「ベンジャミン」という自身のミドルネームを使ったものですが、のちに自身が脚本を手掛けた傑作映画「スモーク」(1995年)では、物語の舞台となる煙草店の常連客として、俳優ウィリアム・ハート扮するポール・ベンジャミンという作家を登場させています。

 また、オースターの代表作〈ニューヨーク三部作〉の第一作『ガラスの街』(1985年)では、主人公であり、ウィリアム・ウィルソン名義でミステリーを書いている作家クインのもとに、「ポール・オースター探偵事務所ですか?」という奇妙な電話がかかってきます。しかも、ウィルソンの書くミステリー・シリーズの第一作として、『スクイズ・プレー』という小説の題名まで登場します。

 そんな細かな作家の遊び心も含めて、オースターファンにとっても海外ミステリーファンにとっても意義深い作品の本邦初紹介ということになるでしょう。

 また、『スクイズ・プレー』と同時に、オースターの中編『写字室の旅』と『闇の中の男』を合本したお得な文庫版も刊行されます。今年はオースター名義の『孤独の発明』でデビューしてから40年の節目の年。成熟の極みを示す文庫最新刊もあわせてお楽しみいただければと思います。

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2022年09月15日   今月の1冊