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映画「PERFECT DAYS」で『木』が注目された幸田文さん。そのエッセイには、人に寄りかからず生きた女性作家の「かっこよさ」があります。


 仕事や子育て、家のことに忙しい日常では、「流されずに生きる」ことなんてできないけれど、ときどき、「これでいいのかな」「なにか大切なこと、忘れているんじゃないだろうか」......そう思うのも、やはり自然なこと。
 作家・幸田文も同じように、取材や執筆に追われていましたが、ふだんの暮らしの些細な出来事やひとの姿に目をとめ、毎日1編ずつ綴ったのが本書でした。

 幸田さんは今年生誕120年を迎えます。
 ロングセラー『雀の手帖』が書かれたのは昭和34(1959)年、今から65年も前のことです。まさに「昭和の日常」を書き留めた随筆が、なぜ今も世代をこえて多くのファンを掴んでいるのでしょうか。その魅力とは何なのか――。

 夕食が〈おでんやすきやき〉の季節から、〈筍とそら豆〉になるまでの1月から5月にかけて、何気ない日々の出来事を記した百日の手帖は、ことばに対する鋭敏な感覚と、生きることの確かさが織り込まれています。
 女にとって親密なことば「きざむ」、隅田川の意外な光景「川の家具」、道路掃除の仕事をする女のひとの話「掃く」、出張先で急に切なくなる「朝の別れ」ほか、「おこると働く」「木の声」「豆」「吹きながし」など、移りゆく〈暮らしの実感〉を自在に綴って古びない名エッセイ。すきま時間に、1編5分で読める名文には、「生き方の発見」があります。

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2024年09月15日   今月の1冊
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