36歳の女性と13歳の少年との実際にあった不倫騒動に材をとり、ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーアという二大女優が共演して話題の、トッド・ヘインズ監督映画「メイ・ディセンバー ゆれる真実」が公開中です。舞台となるのは、風光明媚なジョージア州サヴァナの海辺の家。アフリカのサヴァナ(サバンナ)とはまた違った魅力で異国の人々の心をとらえて離さないこの土地は、やはり映画化(監督/クリント・イーストウッド)もされたジョン・ベレントのベストセラー『真夜中のサヴァナ』でも、おなじみになりました。とはいえ、このサヴァナという土地、じつは、かつてサヴァナ川を拠点として奴隷貿易が営まれていたという暗い歴史も......。そんな米南部の黒歴史を掘り下げ、エキセントリックな登場人物たちを縦横無尽に描出し、2023年のCWA(英国推理作家協会)ゴールド・ダガー(最優秀長篇賞)に輝いたのが本書、ジョージ・ドーズ・グリーンの『サヴァナの王国』です。
ジョージア州サヴァナの春の夜。この地方にいまもあるという"王国"の存在を探っていた考古学者の黒人女性が、常連客の集まるバーの近くで拉致され、彼女を救おうとしたホームレスの青年が殺害されてしまいます。遺体が発見されたのは全焼した空き家で、所有者である土地開発業者が殺人と保険金目当ての放火の罪で逮捕されるのですが、この業者は藁にもすがる想いで、探偵事務所も営みサヴァナ社交界を牛耳る老婦人モルガナに真相解明を依頼することに。モルガナは次男ランサムと義理の孫にあたるバーのアルバイト女性ジャクに調査を命じますが、やがて明らかになっていったのは、この美しい土地に静かに息づいていた思いもよらない"歴史の大きな闇"でした――。
1994年にMWA新人賞受賞作『ケイヴマン』で衝撃のデビューを飾ってから約30年。超寡作のクセ者作家による待望の第4作にして、2023年にはみごとCWAゴールド・ダガーを受賞した南部ゴシック・ミステリーの怪作。キャラクター造型の妙、米南部の観光地の裏歴史、手に汗握る脱出劇などなどなど、お愉しみの要素はたっぷり。ぜひともこの夏休みの読書にどうぞ。