果断―隠蔽捜査2―
1,650円(税込)
発売日:2007/04/27
- 書籍
あの『隠蔽捜査』が帰ってきた! シリーズ第二弾、満を持しての登場。
息子の不祥事で、警察庁から大森署署長に左遷されたキャリアの竜崎伸也。大森署管内で拳銃を持った強盗犯の立て籠り事件が発生、竜崎は現場で指揮を執る。人質に危機が迫る中、混乱する現場で対立する捜査一課特殊班とSAT。事件は、SATによる犯人射殺で解決したが……。吉川英治文学新人賞受賞作に続くシリーズ第二弾。
書誌情報
読み仮名 | カダンインペイソウサ02 |
---|---|
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-300252-9 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | ミステリー・サスペンス・ハードボイルド |
定価 | 1,650円 |
書評
波 2007年5月号より 文化人類学者たる今野敏 今野 敏『果断 隠蔽捜査2』
私は昨年秋から今年の初頭にいたるまでの間、かなり悪質な捏造記事を週刊誌に四回も載せられ、名誉も経済的にも凄まじい損害を蒙った。記事が掲載されたのが、有名大手出版社の著名全国誌であるだけに、メディアや教育機関や企業の反応も過敏で、メディア露出、講演等が激減し、そのウソの内容に踊らされた。ネガティヴキャンペーンもここに極まれり、といった形容がふさわしい程で、全く同じ要素を、手を替え品を替え掲載してくる。曰く、私は「警察の階級が警視正までいったと自称した」「捜査一課員を自称した」「交番勤務しかしておらず、私服の捜査員などしていない」。噴飯ものである。
有田芳生氏が私に語ってくれたところによると、「事件分析で毎日テレビに露出している。極めつきが『徹子の部屋』に出演したことで、それが今回のバッシングを呼んだんだよ」ということらしい。「出る杭は打たれる」のは重々承知の上だったが、ウソで固めた記事を連続で載せるのは常軌を逸している、というのが私の怒りを込めた反応であった。
私が昇任試験嫌いで、巡査部長試験も忌避していた事は有名だから、普通に取材すればすぐわかる。また、エッセイに書いたことがあるが、「捜査一課員ではなかった」が、著書のプロフィールに書いた「捜査一課特別捜査本部捜査員を経験」したのは事実。私服の捜査員、つまりデカの年月もあるから、交番勤務の制服員で終わったというのも嘘記事である。
さて、このように警察世界は複雑怪奇で、メディアとの関わりも非常にデリケートなのだが、国家一種試験を通ったエリートたるキャリアと一般警察官のノンキャリアとでは棲む世界がまったく異なる。キャリアとは、輝く少年期の遊びたい、楽しみたいという欲望を押し殺し、受験という戦場で次々と勝ち残ったブレインエリートたちなのである。
この複雑なキャリア像を、今野敏は、竜崎伸也という登場人物を通して、これ以上ないほどに見事に描き出している。
今回の『果断 隠蔽捜査2』は、タイトルが示す通り、吉川英治文学新人賞を受賞し、テレビドラマ化もされた『隠蔽捜査』のシリーズの二作目で、東大卒で、警察庁長官官房総務課長という、超エリート街道の“トップ引き”を体現してきた竜崎が、息子の不祥事という「全く予期しない蹉跌」で、大森署署長に任ぜられる降格人事に処せられた後の物語である。
警察庁長官官房総務課長から警視庁という地方警察の大森署署長への降格人事は、現実世界ではまず発令されない。こういう辞令が出れば、どんなに意志の固いキャリアでも即時退職するだろう。しかし、竜崎伸也はその辞令を受け入れて、署長の任に就いた。普通の作家なら、このような展開の小説は書かない。いや、書けないだろう。しかし、今野敏はなんら違和感を感じさせることなく、読者をぐいぐいひきつけていってしまう。
この小説は、博覧強記と表現しても良い程の警察に関する知識を持つ今野敏であるからこそ書けた警察小説である。今野敏の、警察に関する知識はおそらく斯界で一、二を争うだろう。その知識に加えて、キャリアをその視座に据えた、警察世界に棲息する者たちの観察表現は“見事”を通り越して“学術的”といっても良い。アメリカンコミックスやハリウッド映画のような派手さがない分、文学としての力量が感じられ、その人間を視る眼の確かさや探究心は、まさに文化人類学者のものであるといっても、言いすぎではないだろう。
最初に、私が一体どのような人間かを書いたが、それは誤解があれば解いて、私が警察世界の棲息者の一員であることを強調したかったからである。だが、この『果断 隠蔽捜査2』は、私のような警察世界の棲息者やマニアはもちろんのこと、警察小説に興味がないというような人たちにも是非読んで頂きたい、今野敏という作家の底知れなさの一端が良く現れている秀逸な作品である。
有田芳生氏が私に語ってくれたところによると、「事件分析で毎日テレビに露出している。極めつきが『徹子の部屋』に出演したことで、それが今回のバッシングを呼んだんだよ」ということらしい。「出る杭は打たれる」のは重々承知の上だったが、ウソで固めた記事を連続で載せるのは常軌を逸している、というのが私の怒りを込めた反応であった。
私が昇任試験嫌いで、巡査部長試験も忌避していた事は有名だから、普通に取材すればすぐわかる。また、エッセイに書いたことがあるが、「捜査一課員ではなかった」が、著書のプロフィールに書いた「捜査一課特別捜査本部捜査員を経験」したのは事実。私服の捜査員、つまりデカの年月もあるから、交番勤務の制服員で終わったというのも嘘記事である。
さて、このように警察世界は複雑怪奇で、メディアとの関わりも非常にデリケートなのだが、国家一種試験を通ったエリートたるキャリアと一般警察官のノンキャリアとでは棲む世界がまったく異なる。キャリアとは、輝く少年期の遊びたい、楽しみたいという欲望を押し殺し、受験という戦場で次々と勝ち残ったブレインエリートたちなのである。
この複雑なキャリア像を、今野敏は、竜崎伸也という登場人物を通して、これ以上ないほどに見事に描き出している。
今回の『果断 隠蔽捜査2』は、タイトルが示す通り、吉川英治文学新人賞を受賞し、テレビドラマ化もされた『隠蔽捜査』のシリーズの二作目で、東大卒で、警察庁長官官房総務課長という、超エリート街道の“トップ引き”を体現してきた竜崎が、息子の不祥事という「全く予期しない蹉跌」で、大森署署長に任ぜられる降格人事に処せられた後の物語である。
警察庁長官官房総務課長から警視庁という地方警察の大森署署長への降格人事は、現実世界ではまず発令されない。こういう辞令が出れば、どんなに意志の固いキャリアでも即時退職するだろう。しかし、竜崎伸也はその辞令を受け入れて、署長の任に就いた。普通の作家なら、このような展開の小説は書かない。いや、書けないだろう。しかし、今野敏はなんら違和感を感じさせることなく、読者をぐいぐいひきつけていってしまう。
この小説は、博覧強記と表現しても良い程の警察に関する知識を持つ今野敏であるからこそ書けた警察小説である。今野敏の、警察に関する知識はおそらく斯界で一、二を争うだろう。その知識に加えて、キャリアをその視座に据えた、警察世界に棲息する者たちの観察表現は“見事”を通り越して“学術的”といっても良い。アメリカンコミックスやハリウッド映画のような派手さがない分、文学としての力量が感じられ、その人間を視る眼の確かさや探究心は、まさに文化人類学者のものであるといっても、言いすぎではないだろう。
最初に、私が一体どのような人間かを書いたが、それは誤解があれば解いて、私が警察世界の棲息者の一員であることを強調したかったからである。だが、この『果断 隠蔽捜査2』は、私のような警察世界の棲息者やマニアはもちろんのこと、警察小説に興味がないというような人たちにも是非読んで頂きたい、今野敏という作家の底知れなさの一端が良く現れている秀逸な作品である。
(きたしば・けん 作家)
著者プロフィール
今野敏
コンノ・ビン
1955(昭和30)年北海道生れ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006(平成18)年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞する。2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。2023(令和5)年、日本ミステリー文学大賞を受賞する。さまざまなタイプのエンターテインメントを手がけているが、警察小説の書き手としての評価も高い。『イコン』『同期』『サーベル警視庁』『一夜 隠蔽捜査10』『夏空 東京湾臨海署安積班』『海風』など著書多数。
関連書籍
判型違い(文庫)
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