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同時発生した四つの難問の連鎖。クリアできるか、竜崎伸也――。

転迷―隠蔽捜査4―

今野敏/著

1,760円(税込)

本の仕様

発売日:2011/09/22

読み仮名 テンメイインペイソウサ04
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 340ページ
ISBN 978-4-10-300255-0
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,760円

相次いで謎の死を遂げた二人の外務官僚。捜査をめぐる他省庁とのトラブル。娘の恋人を襲ったアクシデント……大森署署長・竜崎伸也の周囲で次々に発生する異常事態。盟友・伊丹俊太郎と共に捜査を進める中で、やがて驚愕の構図が浮かび上がる。すべては竜崎の手腕に委ねられた! 緊迫感みなぎる超人気シリーズ最強の第五弾。

著者プロフィール

今野敏 コンノ・ビン

1955(昭和30)年北海道生れ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006(平成18)年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞する。2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。さまざまなタイプのエンターテインメントを手がけているが、警察小説の書き手としての評価も高い。『イコン』『リオ 警視庁強行犯係・樋口顕』『同期』『サーベル警視庁』『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』『棲月 隠蔽捜査7』『任侠浴場』『エムエス 継続捜査ゼミ2』など著書多数。

インタビュー/対談/エッセイ

「正しく生きる勇気」が湧く小説

池上彰今野敏

魅力ある脇役たち

池上 私は今野さんの警察小説の大ファンで夜、原稿を書き終わった後に読むのを楽しみにしています。でも夜中の2時ごろ、風呂に入ってさあ寝ようかという時に本を開くと、ふと気がつけば外が明るくなっていて、「しまった……」ということになるんですね。
今野 申し訳ございません(笑)。
池上 中でも好きなのが「隠蔽捜査シリーズ」です。主人公の竜崎伸也はキャリアの警察官僚ですが、公僕の鑑のような男ですよね。公務員は国民のために働くのだという理想を貫いていきます。実際にはそこまで徹する官僚はいないだろうと思いますが、その一貫した姿勢によって事件を解決していくという設定が面白いと思います。
今野 有難うございます。僕が「隠蔽捜査シリーズ」で書きたかったのは、理想の官僚なんです。官僚って小説ではほとんど悪者にされていますが、それを逆手にとって、カッコいい官僚を書いてみようと思いました。そして、どうせ官僚を書くなら書きなれた警察でやってみよう、というのがそもそもの発想でした。
池上 私はNHK時代に警視庁記者クラブに2年間いたことがあります。その前の1年間は第三方面本部の渋谷警察署詰めで、竜崎がいる大森署の第二方面もカバーしましたので、馴染みがあります。署長の竜崎と方面本部の管理官が衝突する場面などは、こんな話をよくご存じだなと感心しながら読みました。
今野 僕の場合、そういった人間関係の描写はほとんど、サラリーマン時代の経験からの類推なんです。もちろん、調べることもありますが、どんな組織にも似たような仕組みがありますから……。
池上 このシリーズは、他の脇役たちも非常に存在感があるのが魅力です。たとえば、戸高というちょっと拗ねた性格だけど仕事はできる現場の刑事が登場しますが、ああいう男は本当にいるんですよね。そういった人物造形も類推ですか。
今野 そうですね。特別に警察官から取材したわけではないんです。警察組織における名称だけは、特殊なものがありますので調べましたが。
池上 そうか、だからこそいろんな仕事の人が読んでも面白いんですね。警察に関係ないサラリーマン社会にいる読者も、「どこの組織も同じだな」と共感を覚えるのでしょう。

貫き続けることの大切さ

池上 今回お書きになった『転迷』はシリーズ5作目になるわけですが、どんどん面白くなっていきますね。この作品ではどんなことを意識されたのですか。
今野 とにかく同時並行で事件やトラブルをたくさん起こして、竜崎をてんてこ舞いさせようというのが最初に考えた狙いでした。そして、それらをいかにうまく収斂して着地させるか、というのが今回のテーマだったんです。
池上 今までの作品も同時並行で事件や家族の問題が発生しましたが、今回は特に件数が多いですね。
今野 そうですね。同時に4件くらい起こしてみようと思いました。
池上 毎回感じることですが、必ず大筋とは異なる話が出てきて、それが最終的に思いがけない形でまとまっていくという面白さがあるんですよね。今回で言えば、外務省の官僚をめぐる事件が大筋としてありますが、その合間に厚生労働省の麻取り(麻薬取締官)が登場します。捜査をめぐってトラブルが生じて、竜崎のところに怒鳴り込んできたりするのですが、そんな麻取りはいないよって思いつつも(笑)、描写にはリアリティを感じました。全体は大嘘でも、細部が精密に書き込まれていると、読者は信じますよね。それがおそらく小説の醍醐味なのでしょう。
今野 基本的に読者は信じたがっていますからね。信じたい方向に書いてあげれば、多少は絵空事でもリアリティを感じてくれるんです。
池上 そして、この作品でも竜崎はひたすら建前を貫き続けます。詳細は申しませんが、その結果、見事に手腕を発揮します。だから、今回も非常に読後感がいいんです。これは大事なことですよね。
今野 実はそれはすごく大切にしていることなんです。今野敏という作家の役割は、読者に元気になっていただくことだと自分では思っています。悪を描いて社会を告発するタイプの作家もいますが、僕はそうじゃない。嘘でもいいから、読み終えた後に元気になってほしいというのが、小説家としての願いなんです。
池上 『転迷』も、読んだ後に正しく生きようという勇気が湧いてくる小説でした。真っ当な仕事をしよう、ズルはやめよう、という気にさせてくれます。世の中には不条理が多いので、正義を貫こうとしても冷や飯を食わされたり、辛い目にあったりすることがあります。それでも貫き続けることが大事で、それが最後にはいい結果に繋がると信じたくなりました。
今野 嬉しい言葉ですね。

沢山書けばうまくなる

池上 今野さんはそもそもなぜ、警察小説を書かれるようになったのですか?
今野 もともとは刑事ドラマが好きだったんです。特に海外物の「刑事コジャック」や「鬼警部アイアンサイド」、それに「刑事コロンボ」はよく見ていました。そして、プロの作家になってから海外の警察小説をよく読むようになったんです。当初は趣味として、ですけど。
池上 どんな作家がお好きでしたか。
今野 エド・マクベインとか……。
池上 やっぱり! 私は中学生の時にマクベインの「87分署シリーズ」を全部読破しようと試みたことがあるんです。
今野 全部は大変だったでしょう(笑)。
池上 大変でしたが、ほとんど読みました。マクベインの小説でも同時多発でいろんなことが起きますが、今野さんと決定的に違うのは、収斂しないということ。バラバラに起きて、バラバラに解決するんですよね。ずるいんだな(笑)。
今野 マクベインの目的は、群像劇を書くことだったんでしょうね。
池上 中学生の時は次々に事件が起きるのでワクワクしていましたが、大人になってから「これは安易な作りだな」と気がつきました。同時多発で起きたことは、意外な形で繋がっていなければいけないだろうと……。
今野 それが醍醐味ですよね。それから、「マルティン・べックシリーズ」も好きでしたね。
池上 それも同じだ(笑)。シューバルとヴァールーというスウェーデン人の夫婦が書いた作品ですが、当時の社会現象や政治問題がよく描かれていますよね。
今野 そうです。そういった本を読んでいるうちに、どうして日本にはこういう小説がないんだろうと思うようになりました。そして、ならば自分で書こうと思い立って書いたのが「安積警部補シリーズ」でした。
池上 今は同時に何本の小説を書いているんですか。
今野 五本くらいですね。最近は警察小説が多いので、時々混乱するんですよ。あれ、この捜査会議を開いたのはどの作品だったっけ、とか(笑)。
池上 作品が何となく似てしまうことはありませんか。
今野 ありますね。逆に言うと、僕の作品は全部似ているんです(笑)。そんなにバリエーションがありませんので。池上さんも今年だけで20冊以上の本を出版されていますよね。
池上 本の世界で仕事をしたかったので、4月からはテレビのレギュラー番組をお断りしましたから。
今野 もともとは記者ですから、書くことがお仕事なんですよね。
池上 はい。ですからテレビで「本もお書きになって」と言われるとカチンときて、「違います。テレビにも出ているんです」と言い返したくなります(笑)。
今野 僕は漫画家の石ノ森章太郎さんと親戚だったのですが、亡くなる前に最後に会った時、「作品の質と言うけれど、量を書かないと質は上がらない」と言われました。その言葉を座右の銘にしていて、沢山書けば必ずうまくなる、という期待感が自分の中にあるんです。
池上 確かに、新しいアイデアは書き続けることで浮かんできますよね。一生懸命に調べて書いているうちに、これは今回の本では使えないけれど、次のテーマになるという具合に発想が広がっていくことがよくあります。
今野 作品のアイデアは、テレビを見たり、散歩したりしても絶対に浮かんではきません。実際に手を動かして書いている時に生まれてくるものです。頭の中の回路が特別なような気がしますね。

竜崎の今後は……

池上 竜崎は今後、ずっと大森署長でいる訳にはいきませんよね。当然、どこかに呼び戻されるでしょうが、ファンとしてはそれがどこなのかが気になります。
今野 1作目の『隠蔽捜査』で、息子の不祥事によって警察庁総務課長から大森署長に異動になるという懲罰人事の話を書きましたが、その影響はまだ残っていますね。消えるまでに2、3年はかかるでしょう。
池上 おそらくその問題があるので、ストレートに警察庁に戻すわけにはいかないでしょう。彼の階級は警視長ですよね。だとすると、かなり大きな県の県警本部長になるのが妥当でしょうか。あるいは、警察庁の公安が高く買っているから、公安畑に持っていかれるかもしれない。でも、竜崎が公安に行ってしまったら面白くないですね、読者としては。
今野 そうですね(笑)。公安はダメかもしれません。
池上 だから、公安関連の事件が起きるような重要な県の本部長になってほしいですね。そして、「今度の本部長はおかしな人だ。正義の建前ばかり言う」という評判が立つけれど、事件はちゃんと解決していく……。
今野 もう次の作品のプロットができてきましたね(笑)。

(いけがみ・あきら ジャーナリスト)
(こんの・びん 作家)
波 2011年10月号より

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