(文・都築響一)
久しぶりに青山の書店でトークをしたときのこと。終わって会場を出たら若い書店員があとを追ってきて、「新潮の連載、読んでます!」と言ってくれた。ありがとうと御礼を返すと、「それで次のひと、だれになるんですか?」と聞くので、「ERAっていう、まだソロアルバムを1枚出しただけの若いラッパーで……」と言い終わらないうちに、彼女は「えーっ、ほんとですか!」と、こちらがびっくりするほどうれしがってくれた。
全国的にどうなのかはよくわからない。でも、とりあえずいまの東京で、音楽が好きで、ファッショナブルな若い子たちが、いちばん好んでCDプレイヤーにかけたり、iPhoneに入れたりしている音楽のひとつ、それがERAであることは間違いないだろう。
[折りたたむ]
ビッチのことも、マネーのことも、ギャングのこともドラッグのことも、ERAは歌ったりしない。明らかに都会の音だけれど、新宿や渋谷や池袋のヘヴィなアンダーグラウンド賛歌でもない。田舎から都会への成り上がりでもなければ、都会vs.地方の図式にもはまらない。
オーバーサイズのジャージや「NY」と書かれたキャップも被ってないし、金ぴかの飾りを首から下げてもいない。ハマーみたいなゴツイ車にも乗ってないし、過激な重低音のベースラインもない。韻踏みにこだわりすぎもしない。わざと野太い声でラップしたりもしない。英語の単語もたまに混ぜるが、それをネイティブっぽく発音しようと努力すらしない。
「ヒップホップ」という言葉がこの国に着地して以来、ずっとつきまとってきたワルの香り、コピー&ペーストされたブラック・カルチャー、ヤンキー文化に通じる熱い人間関係……そういうものをぜんぶ剥ぎとったところで、すばらしく今日的で、リアルな音楽として成立してしまったもの。それが突然あらわれたERAのファーストアルバム『3 WORDS MY WORLD』だった。
続きは本誌にてお楽しみ下さい。
東京都生まれ。1999年、友人らと結成したハードコア・バンド「WIZ OWN BLISS」でボーカルとしてデビューする傍ら、「YOUNG ERAS」をストリートネームに2004年「PAPER SOLDIER$」に参加。その後「D.U.O」で本格的にラッパーとしての活動を始め、「ERA」に改称。2011年7月、ファーストアルバム『3 WORDS MY WORLD』をリリース。
[折りたたむ]
―Discography―
■WIZ OWN BLISS:「s/t」「far away」「split w/GNz-WORD」
■PAPER SOLDIER$:『V.A. 32 blocks party』に参加
■D.U.O:『BUSHMIND good day comin'』『D.U.O introducing ERA mixed by BUSHMIND & DJ HIGHSCHOOL(FREE MIXTAPE)』、SEMINISHUKEI 『wisdom of life』に「SONETRIOUS feat. D.U.O.」で参加、PAYBACK BOYS 『hotel muzik』にfeaturingで参加
■ERA:『3 WORDS MY WORLD』『ERA vs MASS-HOLE 3 words my wrold REMIX ALBUM』『SEMINISHUKEI presents ERA 3 words his world(FREE MIXTAPE)』
その他、SEMINISHUKEI関連のMIX CDの中に「D.U.O」「ERA」名義のexclusiveを多数収録。

4月下旬に、誌面でご紹介した「MONEY&DREAM」「PLANET LIFE」を収録したEP「JEWELS」の配信がスタートします! 詳しくはこちら⇒
http://dopetm.com/