【創作特集「独創2008」】川上弘美「aqua」、絲山秋子「ばかもの」(新連載)、本谷有希子「グ、ア、ム」(200枚)
新潮 2008年1月号
(毎月7日発行)
発売日 | 2007/12/07 |
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JANコード | 4910049010181 |
定価 | 特別定価1,153円(税込) |
水の名を持つ少女が素肌で感じた生のそのままの手触り。
男女の運命を鮮烈に描く著者初の文芸誌連載作品。
楽園へ、世代それぞれの事情がもつれる珍道中。
失明を予感する小説家。その祈りの言葉としての小説。
詩史に輝く八詩人、十五作品。「新潮」初のCD作品。
・高畠素之の亡霊/佐藤 優
・四方田犬彦の月に吠える[文化月評]/四方田犬彦
・いはねばこそあれ――男色の景色/丹尾安典
・現(うつつ)な像/杉本博司
・星々と海底の潮の流れ/大江健三郎
・「春琴抄」の〈賊〉のこと/河野多惠子
・屏風の影/杉本秀太郎
・ミコノスの思い出/よしもとばなな
・「善意」と「善行」/水村美苗
かくも長き不在ののちに ――テキスト・中沢新一
壁画/変容の空間 ――写真・石川直樹
――大江健三郎『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』/蓮實重彦
・幸福の森(一) 新連載『雲の都』第四部/加賀乙彦
・カデナ(八)/池澤夏樹
・決壊(十五)/平野啓一郎
・太陽を曳く馬(十六)/高村 薫
・神器―浪漫的な航海の記録―(二十五)/奥泉 光
・デイヴィッド・ピース『TOKYO YEAR ZERO』/小山太一
・宮崎誉子『三日月』/佐々木敦
・ジョン・アーヴィング『また会う日まで』/都甲幸治
・日本女流文学者会編『女流文学者会・記録』/中沢けい
・高澤秀次『吉本隆明 1945-2007』/丹生谷貴志
・松浦理英子『犬身』/星野智幸
編集長から
創造のある本質を示しながら、うんざりするほど手垢のついた言葉のなかに、孤独な生き物が潜んでいる。「獨(独の旧字)」とは、〈犬+蜀。蜀は牡の獣の象形。虫の部分は性器。連れ合いのない牡獣をいう。(略)一説に、蜀は闘う意。犬が取っ組み合うことをいう。群れないことから、ひとりの意を表す〉(「新潮日本語漢字辞典」より)
いささか男性中心主義的な来歴ではあるけれど、「独」の意味を全身で受け止め、全力で表現する生き物のひとつが作家だと思う。
瀬戸内寂聴氏の短篇「約束」(本号掲載)には読むものをたじろがせるほど強烈な「独」が蹲っている。世阿弥の生涯を描いた『秘花』の序部を小誌で、本篇を書き下ろしで執筆したことで、瀬戸内氏は右目の視力をほとんど喪失した。
主人公は緊急手術を終え、「全身を包む闇の中にひとり沈みこんでいる」。かたわらに光も音も喪失した晩年の世阿弥の気配を感じながら、「願わくば、両眼の視力の消える前に命の火も消えさりますように」と祈るのだ。その祈りを小説の言葉に託すのだ。
新年号の編集には通常号以上に力を注いだつもりだ。数多くの書き手の方々がそれに応えてくださった。創作特集「独創2008」や新連載をはじめとする内容については、ぜひ実物を手にとってご覧いただきたい。小誌初めての試みとして、コンパクト・ディスクを付けた。古川日出男氏が日本近現代詩の巨大な山脈から八人の詩人(中原中也、萩原朔太郎から吉岡実、吉増剛造まで)、十五の作品を選び、朗読した「詩聖/詩声」(収録時間52分)。言葉を紡ぐことと同じく、言葉を声に帰す行為にもまた「独創」はある。
バックナンバー
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雑誌から生まれた本
新潮とは?
文学の最前線はここにある!
人間の想像力を革新し続ける月刊誌。
■「新潮」とはどのような雑誌?
「新潮」は日露戦争の年(1904年)に創刊された、百歳を超える文芸誌です。現役の商業文芸誌としては世界一古いという説があります(ただし第二次大戦中は紙不足のため数号、関東大震災のときは1号だけ休刊)。その歴史の一端は小誌サイト内にある〈表紙と目次で見る「新潮」110年〉でご覧ください。
■革新し続ける文学の遺伝子
もちろん古いことと古臭いことはまったく別です。百余年にわたり、たえず革新を続けてきたことこそが「新潮」の伝統であり、その遺伝子は現編集部にも確実に引き継がれています。ケータイ小説やブログ、あるいは電子配信、電子読書端末まで、いまだかつてない〈環境変動〉がわたしたちの生に及びつつある今、時代精神を繊細に敏感に感じ取った小説家、批評家たちが毎月、原稿用紙にして計1000枚以上(単行本にして数冊分)の最新作を「新潮」を舞台に発信し続けています。
■日本語で表現されたあらゆる言葉=思考のために
デビュー間もない20代の新人からノーベル賞受賞作家までの最新作がひとつの誌面にひしめきあうのが「新潮」の誌面です。また、文芸の同時代の友人である音楽、映画、ダンス、建築、写真、絵画などの領域からも、トップクラスの書き手、アーティストが刺激的な原稿を毎号寄せています。文芸を中心にしっかりと据えながら、日本語で表現されたあらゆる言葉=思考の力を誌面に結集させたい――それが「新潮」という雑誌の願いです。