田中慎弥「宰相A」(300枚)
新潮 2014年10月号
(毎月7日発行)
発売日 | 2014/09/05 |
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JANコード | 4910049011041 |
定価 | 特別定価998円(税込) |
ゴリラから見えてくる家族・暴力・物語/山極寿一×小川洋子
沈みかかった船の中で生き抜く方法/加藤典洋×高橋源一郎
第二十五回・真夏のサハリン
第一二二回・5つの矩形
・あられもなく、みもふたもなく/中村和恵
・“光”の話/小林エリカ
・見えない糸をたぐり寄せて――「ゴミ、都市そして死」顛末記/千木良悠子
・羽田圭介『メタモルフォシス』/池田雄一
・木村友祐『聖地Cs』/片山杜秀
・青木淳悟『男一代之改革』/滝口悠生
・村田沙耶香『殺人出産』/羽田圭介
・中村文則『A』/浜崎洋介
編集長から
書き換えられた日本

◎小説家Tが亡母の墓参りを思い立ったのは、アイデアの枯渇を打破する契機を求めてのことだった。墓地に近い駅に到着した彼はやがて驚くべきことに気づく。そこは、大戦後に私たちが体験したものとはまったく異なる歴史を経た別の日本であり、小説家Tは「日本人」でなく、彼の言葉は「日本語」でなかった……◎田中慎弥の長篇小説『宰相A』(300枚一挙掲載)は、平行世界SFではなく、安倍という宰相の時代へのシニカルな寓話でもない。Tは、そして田中慎弥は、弱い者が弱いまま、必死で現実に抗う。唯一の武器は「病者の光学」(ニーチェ)により現実を書き換えること。そういえば、この小説家のデビュー作「冷たい水の羊」で、過酷ないじめにあう主人公は〈いじめられたと思わなければ、いじめは存在しない〉という奇妙な論理で現実を書き換えたのではなかったか。この〈書き換えられた日本〉への、めくるめく地獄巡りに読者を誘えることに興奮している。

バックナンバー
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雑誌から生まれた本
新潮とは?

文学の最前線はここにある!
人間の想像力を革新し続ける月刊誌。
■「新潮」とはどのような雑誌?
「新潮」は日露戦争の年(1904年)に創刊された、百歳を超える文芸誌です。現役の商業文芸誌としては世界一古いという説があります(ただし第二次大戦中は紙不足のため数号、関東大震災のときは1号だけ休刊)。その歴史の一端は小誌サイト内にある〈表紙と目次で見る「新潮」110年〉でご覧ください。
■革新し続ける文学の遺伝子
もちろん古いことと古臭いことはまったく別です。百余年にわたり、たえず革新を続けてきたことこそが「新潮」の伝統であり、その遺伝子は現編集部にも確実に引き継がれています。ケータイ小説やブログ、あるいは電子配信、電子読書端末まで、いまだかつてない〈環境変動〉がわたしたちの生に及びつつある今、時代精神を繊細に敏感に感じ取った小説家、批評家たちが毎月、原稿用紙にして計1000枚以上(単行本にして数冊分)の最新作を「新潮」を舞台に発信し続けています。
■日本語で表現されたあらゆる言葉=思考のために
デビュー間もない20代の新人からノーベル賞受賞作家までの最新作がひとつの誌面にひしめきあうのが「新潮」の誌面です。また、文芸の同時代の友人である音楽、映画、ダンス、建築、写真、絵画などの領域からも、トップクラスの書き手、アーティストが刺激的な原稿を毎号寄せています。文芸を中心にしっかりと据えながら、日本語で表現されたあらゆる言葉=思考の力を誌面に結集させたい――それが「新潮」という雑誌の願いです。