新潮新書

年の終わりに考え直してみる

今年もはや師走になりました。トラックドライバーの労働時間を厳しく管理する「物流2024年問題」をはじめ、国が進める「働き方改革」とあいまって、様々な業界で人手不足が深刻になっています。出版業界はどうかというと、ご多分にもれず10年、20年前と比べれば年々厳しくなっているというのが実感です。とりわけ年末年始の休暇を控えた「年末進行」のこの時期は、雑誌も書籍も、諸々の前倒し作業に追われています。
構造的な少子高齢化と生産労働人口の減少は、人が多く集まる都会よりも地方でいっそう深刻ですが、この問題に真正面から向き合いつづけてきたのが、石破茂・現総理です。12月新刊『私はこう考える』では、時に疎まれつつも一貫して正論を述べて来た政治家が、己の主義と主張を堂々と、かつ丁寧に語ります。過去、新潮新書から刊行した著作から、その思考がわかるように編まれた「ベスト・オブ・石破茂」。出足からつまずき、少数与党となるなど苦境が続く石破総理ですが、その理想は価値のないものなのか、どのような信念をもって日本を守ろうとしているのか、それらを知るための格好のテキストです。
『お城の値打ち』(香原斗志・著)は、近年人気の高まっている「城ブーム」に釘を刺す異色の歴史ノンフィクション。テレビでは今やお城番組の特集がすっかり定着していますが、いったいどれぐらいの人が「城」と「天守」の違い、「現存天守」「復元天守」「復興天守」「模擬天守」の違いを知っているでしょうか。"郷里の誇り"としてそびえ建つ名城の数々もじつは史実からかけ離れていたり、観光目当てで無用な改変をされたり、といったことがしばしば。このままでは重要史跡が守れない――「お城好き」なら必読です。
日本随一の観光都市・京都には、時期を問わず国内外の観光客があふれています。しかし、市内の観光名所はかつて米軍に占領された時代、今とはおよそ違う姿でした。京都御所こそぎりぎりで接収を免れましたが、上賀茂神社のご神木はゴルフ場建設のために切り倒され、祇園祭の山鉾巡行は米軍ジープが先導し、堀川通は米軍機の滑走路となり、花街にはダンスホールが作られました。何度も原爆投下の候補地に挙げられながら、紙一重で守られた「千年の古都」。『京都占領―1945年の真実―』(秋尾沙戸子・著)は、その往時を日米双方の資料と貴重な証言から浮き彫りにします。
先のアメリカ大統領選は、史上まれに見る大接戦というおおよその予想を覆して、共和党のトランプが圧勝。テレビでは多くのアメリカ人が「信じられない」「恥ずかしい」「次の4年間はこの国にいたくない」などと嘆いていました。しかし、人種や性別や格差をめぐって、人間感情や世間の常識からはあまりに行き過ぎた民主党のリベラルな政策に、普通のアメリカ人が「ノー」を突きつけたという分析が目立ちます。アメリカほど価値観と社会の分断が進んでいるとは思いませんが、日本でも、感情や常識では「おかしいやろ!」と言いたくなるような事々が増えています。『狂った世界』(百田尚樹・著)は、理想を追い求めて現実が置き去りになっていないか、頭でっかちな「きれいごと」や優等生的な理想論が幅を利かせていないか、市井の常識をもって日々のニュースを両断していきます。
構造的な少子高齢化と生産労働人口の減少は、人が多く集まる都会よりも地方でいっそう深刻ですが、この問題に真正面から向き合いつづけてきたのが、石破茂・現総理です。12月新刊『私はこう考える』では、時に疎まれつつも一貫して正論を述べて来た政治家が、己の主義と主張を堂々と、かつ丁寧に語ります。過去、新潮新書から刊行した著作から、その思考がわかるように編まれた「ベスト・オブ・石破茂」。出足からつまずき、少数与党となるなど苦境が続く石破総理ですが、その理想は価値のないものなのか、どのような信念をもって日本を守ろうとしているのか、それらを知るための格好のテキストです。
『お城の値打ち』(香原斗志・著)は、近年人気の高まっている「城ブーム」に釘を刺す異色の歴史ノンフィクション。テレビでは今やお城番組の特集がすっかり定着していますが、いったいどれぐらいの人が「城」と「天守」の違い、「現存天守」「復元天守」「復興天守」「模擬天守」の違いを知っているでしょうか。"郷里の誇り"としてそびえ建つ名城の数々もじつは史実からかけ離れていたり、観光目当てで無用な改変をされたり、といったことがしばしば。このままでは重要史跡が守れない――「お城好き」なら必読です。
日本随一の観光都市・京都には、時期を問わず国内外の観光客があふれています。しかし、市内の観光名所はかつて米軍に占領された時代、今とはおよそ違う姿でした。京都御所こそぎりぎりで接収を免れましたが、上賀茂神社のご神木はゴルフ場建設のために切り倒され、祇園祭の山鉾巡行は米軍ジープが先導し、堀川通は米軍機の滑走路となり、花街にはダンスホールが作られました。何度も原爆投下の候補地に挙げられながら、紙一重で守られた「千年の古都」。『京都占領―1945年の真実―』(秋尾沙戸子・著)は、その往時を日米双方の資料と貴重な証言から浮き彫りにします。
先のアメリカ大統領選は、史上まれに見る大接戦というおおよその予想を覆して、共和党のトランプが圧勝。テレビでは多くのアメリカ人が「信じられない」「恥ずかしい」「次の4年間はこの国にいたくない」などと嘆いていました。しかし、人種や性別や格差をめぐって、人間感情や世間の常識からはあまりに行き過ぎた民主党のリベラルな政策に、普通のアメリカ人が「ノー」を突きつけたという分析が目立ちます。アメリカほど価値観と社会の分断が進んでいるとは思いませんが、日本でも、感情や常識では「おかしいやろ!」と言いたくなるような事々が増えています。『狂った世界』(百田尚樹・著)は、理想を追い求めて現実が置き去りになっていないか、頭でっかちな「きれいごと」や優等生的な理想論が幅を利かせていないか、市井の常識をもって日々のニュースを両断していきます。
2024/12