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すべての道はローマに通ず―ローマ人の物語X―

塩野七生/著

3,300円(税込)

発売日:2001/12/25

  • 書籍
  • 電子書籍あり

ローマの真の偉大さの源泉はインフラの整備にあった。その構造を書き尽くした最高傑作。

歴史上比類なき一大強国を築き上げ、数百年以上にわたり、維持・発展させたローマ。パワーの秘密はどこにあったか。街道、橋、水道などハードなインフラから、医療、教育などソフトなインフラまで、「インフラの父」と呼ばれたローマ人の最大の強みを解明したシリーズの頂点をなす一冊。

  • 受賞
    第41回 新風賞
目次
はじめに
第一部 ハードなインフラ
1 街道
ローマ街道網略図と各時代の万里の長城
ローマから南へ(街道の複線化)
ローマ街道の基本形
マイル塚
ローマ街道の断面図
ローマ街道の復元想像図
共和政時代のローマ街道網
ローマ時代のトンネル
山腹を縫う街道の断面図
2 橋
ローマ時代の舟橋と木橋
「ポンス・ロングス」
ローマ時代の石橋
排水のしくみ
橋脚工事法
明石海峡大橋
南仏ニームの水道橋
三種類の橋の図
街道・橋および水道に必要な用地の幅
3 それを使った人々
カエサル、アウグストゥス、ティベリウスの肖像
郵便馬車
アルプス越えのローマ街道(ヴァランスからトリノ)沿いの諸設備
アルプスを越える四つのルート
ローマ時代の旅行用の銀製コップ
銀製コップの展開図とカディスからローマまでの街道図
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」
プトレマイオス地図
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」部分(「アレクサンドロスが引き返した地」、山脈、森林)
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」に収録されている主要六都市
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」部分(ローマ周辺、ナポリ周辺)
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」部分(ペルシア湾、ナイル河口)
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」中の記号(「バジリカ」、チヴィタヴェッキア、シチリア島)
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」中の記号(宿駅、温泉場)
ローマ時代の測量機器
休息する旅行者
二頭立て馬車で旅をする家族
二輪馬車
4 水道
ローマ水道の模式図
ドムスでの雨水利用法
ポルタ・マッジョーレ
アグリッパ肖像
トレヴィの噴水
水源からローマまで
ローマ市内の水道
水道の断面図
「カステルム」(水の分配施設)
共同水槽
共同水槽のあるポンペイの街角
鉛管の作り方
ハドリアヌス防壁沿いの浴場遺跡
カラカラ浴場
浴室の温め方
ラオコーンの群像
「ファルネーゼの牛」
第二部 ソフトなインフラ
1 医療
イゾラ・ティベリーナ模型
アスクレピウス神像
コロッセウムの客席
診察する医師
ローマ時代の医学校所在地
公衆浴場の様子
クサンテン軍団基地の軍病院
2 教育
ローマ時代のそろばん
学校での授業風景
公衆浴場の中庭
おわりに


巻末カラー
アッピア街道
各地で築かれたローマ街道
クラウディア水道
各地で築かれた水道
「タブーラ・ペウティンゲリアーナ」
イタリア地図(ローマ時代/現代)
イタリアの主な遺跡
カルタゴの金貨とローマの銅貨
アウグストゥス帝の凱旋門(リミニ)
ハドリアヌス帝の別邸(ティヴォリ)
円形闘技場(ポッツォーリ)
トライアヌス帝の凱旋門(ベネヴェント)
ローマ近郊地図(ローマ時代/現代)
ローマ市内の主な遺跡
パンテオン
「真実の口」
カラカラ浴場
トレヴィの噴水
ローマ文明博物館のローマ復元模型
ローマ市内の遺跡と復元模型
ローマ市内の橋
ナポリ近郊地図(ローマ時代/現代)
ポンペイ
スペイン地図(ローマ時代/現代)
スペインの遺跡
イタリカの円形闘技場
メリーダの劇場
アルカンタラの橋
セゴビアの水道橋
北アフリカ地図(ローマ時代/現代)
北アフリカの遺跡
カルタゴ郊外の水道橋遺跡(チュニジア)
レプティス・マーニャの劇場跡(リビア)
ランベーズの四柱門(アルジェリア)
ティムガッドの遺跡(アルジェリア)
ガリア(フランス・ドイツ)地図(ローマ時代/現代)
ガリア(フランス・ドイツ)の遺跡
ニームの水道橋「ポン・デュ・ガール」(フランス)
ニームの神殿「メゾン・カレ」(フランス)
アルルの円形闘技場(フランス)
ケルンの城壁の塔(ドイツ)
皇帝ネロの記念柱(マインツ/ドイツ)
トリアーの門(ドイツ)
イギリス地図(ローマ時代/現代)
イギリスの遺跡
リッチブラの要塞
セント・オールバンズの円形闘技場
ハドリアヌス防壁
バースのローマ浴場
ドーチェスターの要塞跡
ドナウ河流域地図(ローマ時代/現代)
ドナウ河流域の遺跡
ゲルマニクス防壁沿いの要塞跡(ドイツ)
トライアヌス橋の遺構(ユーゴスラヴィア)
トライアヌス帝の戦勝記念碑跡(アダムクリシ/ルーマニア)
ブダペストの遺跡(ハンガリー)
ディオクレティアヌス帝の宮殿跡(スプリト/クロアチア)
「タブーラ・トライアーナ」(ユーゴスラヴィア)
ギリシア地図(ローマ時代/現代)
ギリシアの遺跡
「フィリッピの戦い」の記念像
アテネに建つハドリアヌス帝の門
コリントスの浴場跡
フィリッピ近郊のエニャティア街道
トルコ(小アジア)地図(ローマ時代/現代)
トルコの遺跡
アフロディシアスの競技場跡
アスペンドゥスの会堂
エフェソスの図書館跡
エフェソス遺跡内の大通り
エフェソスの半円形劇場など
中近東地図(ローマ時代/現代)
中近東の遺跡
カエサリア遺跡のアーチ群(イスラエル)
マサダの要塞を攻略するために作られたローマの基地跡(イスラエル)
カエサリアの海岸沿いを走る水道橋(イスラエル)
列柱広場(ジェラシュ/ヨルダン)
バールベクの神殿(レバノン)
エジプト地図(ローマ時代/現代)
エジプト、キレナイカの遺跡
トライアヌス帝の浴場(シャーハット/リビア)
トライアヌス帝の記念建造物(フィラエ/エジプト)
アレクサンドリアの劇場跡(エジプト)
ポンペイウスの柱(アレクサンドリア/エジプト)
アッピア街道の終点(ブリンディシ)
参考文献 巻末IV
図版出典一覧 巻末I

投げ込み地図 ローマ帝国全図

書誌情報

読み仮名 スベテノミチハローマニツウズローマジンノモノガタリ10
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 ローマ人の物語
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判変型
頁数 312ページ
ISBN 978-4-10-309619-1
C-CODE 0322
ジャンル 世界史
定価 3,300円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2014/12/19

書評

波 2002年1月号より インフラの専門家も驚嘆する作品  塩野七生『すべての道はローマに通ず ローマ人の物語X』

下河辺淳

「それでは今から、私は書きはじめ、あなたは読みはじめる。お互いに、古代のローマ人はどういう人たちであったのか、という想いを共有しながら」。そうして彼女は一九九二年の七月七日誕生日に「ローマ人の物語I」を発行した。テーマは「ローマは一日にして成らず」であった。

「ローマ人の物語」は一年一冊で十五年間に完成させると決めて始められたもので、二○○一年に第X巻が発行された。

 テーマは「すべての道はローマに通ず」であり、古代ローマのインフラを中心に千年にもわたるローマの歴史を描く。古代ローマの繁栄を支えたのは、周到に考え抜かれたインフラ整備であるという視点に立ち、インフラ論を展開した。中身としては、インフラがテーマであることから、地図、図面、風景など色刷りのページが多く文章が少なくなっている。専門家達は、文章にも助けられるが、視覚的に見られることに感動をおぼえるに違いない。

 インフラの整備について知るはずのない作者が、膨大な文献や資料を勉強し、かつしばしば現地を旅して想作したものであり、専門家が驚嘆する作品となっている。

 そもそもインフラストラクチャーを論ずるためには、科学、美学、神学に見識を持ち、技術、美術、芸術に体験をもつ専門家について、その人物の思想と実践をさぐらねばならない。

 作者は第X巻を書くにあたって、現代日本のインフラストラクチャーの専門家に尋ね、専門家が古代ローマのインフラにどのような関心、興味を持っているのかを知りたがっていた。私にも連絡してきた。

 このような作者の仕事は、フィレンツェに住み、最近はローマに住み、息子のアントニオ君と暮らして、七つの丘の森の中に生活し、古代ローマの古文書を求めることができるというすばらしい環境の中で続けられている。この恵まれた環境の中で、とにかくよく勉強して、毎日知識を蓄積して、その勉強の成果を一気に作品にしたてあげる姿はすばらしいものである。十巻におよぶ作品はローマ人を愛した作者そのものの人間としての表現であると思う。

 ところでX巻であるが、ローマ人の考えているインフラとは、街道、橋、港、神殿、広場、劇場、円形闘技場、競技場、公共浴場、水道等に加え、安全保障、治安、税制などのシステムと医療、教育、郵便、通貨のシステムまで入ってくるので、とても全体を論ずることは不可能で、作者の関心のある分野に限られざるを得ない。

「人間が人間らしい生活を送るためには必要な大事業」という視点に立って、第一に街道を取り上げている。道路構造の説明は面白い。第二は橋である。必要性に加えて名誉心とか誇りがプラスされていることが面白い。第三には交通システムを論じている。ローマの平和の基礎として面白い。さらに地図情報論を展開し、旅行用の銀製のコップが面白い。道路の地図も今日で言えばデジタルアニメーションでマンガ的技法であるのが面白い。第四は水道である。紀元前三一二年はインフラ元年であり、高架の水道アッピア水道が最初の水事業であった。みごとな建設は面白い。

 第二部はソフトなインフラとして、医療、教育を取り上げている。しかし私は医療、教育ともにソフトとハードの両面を持つものだと思う。ローマの時代にインフラは設計図があって入札事業となっていたのか。設計図なしでどうして工事を進めたのか。知りたいことのひとつである。

 一方でローマ人達の測量の技術はすごく進んでおり、現場型の測量により専門家が指示してつくっていたのではないだろうか。天候、気象等の情報を現場で生かすことについても優れていたのではないかと思う。

 読者のひとりであり、インフラの日本の専門家のひとりとして、ローマ人の物語第X巻に感謝する。

 現代日本のインフラストラクチャー論争に一石を投じたものとして高く評価したい。

 全十五巻の完成のためにもうひとふんばり頑張ってほしい。心からの支援を送る。

(しもこうべ・あつし 元国土事務次官・東京海上研究所顧問)

▼塩野七生『すべての道はローマに通ず ローマ人の物語X』は、発売中

著者プロフィール

塩野七生

シオノ・ナナミ

1937年7月7日、東京生れ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。1968年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。初めての書下ろし長編『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。この年からイタリアに住む。1982年、『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。1983年、菊池寛賞。1992年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006 年に完結)。1993年、『ローマ人の物語I』により新潮学芸賞。1999年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。2007年、文化功労者に選ばれる。2008ー2009年、『ローマ亡き後の地中海世界』(上・下)を刊行。2011年、「十字軍物語」シリーズ全4冊完結。2013年、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(上・下)を刊行。2017年、「ギリシア人の物語」シリーズ全3巻を完結させた。

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