ホーム > 書籍詳細:終わりの始まり―ローマ人の物語XI―

長すぎた平和と安定にしのびよる衰亡の影――。なぜ優れた哲人皇帝の時代に、「帝国の衰亡」は始まったのか。従来の史観を覆す塩野版「ローマ帝国衰亡史」がここから始まる!

  • 受賞第41回 新風賞

終わりの始まり―ローマ人の物語XI―

塩野七生/著

3,024円(税込)

本の仕様

発売日:2002/12/11

読み仮名 オワリノハジマリローマジンノモノガタリ11
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 ローマ人の物語
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判変型
頁数 366ページ
ISBN 978-4-10-309620-7
C-CODE 0322
ジャンル 世界史
定価 3,024円
電子書籍 価格 1,512円
電子書籍 配信開始日 2015/01/16

広大な版図を誇り平和を享受した五賢帝時代。その掉尾を飾り哲人皇帝としても名高いマルクス・アウレリウスの治世は、配慮と協調を尊んだことで、後世からも高い評価を得てきた。しかし、その彼の時代に、ローマ帝国衰亡への序曲が始まっていたのだとしたら――現代にも通じる鋭い洞察に裏打ちされた、一級の指導者論。

著者プロフィール

塩野七生 シオノ・ナナミ

1937年7月7日、東京生れ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。1968年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。初めての書下ろし長編『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。この年からイタリアに住む。1982年、『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。1983年、菊池寛賞。1992年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006 年に完結)。1993年、『ローマ人の物語I』により新潮学芸賞。1999年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。2007年、文化功労者に選ばれる。2008ー2009年、『ローマ亡き後の地中海世界』(上・下)を刊行。2011年、「十字軍物語」シリーズ全4冊完結。2013年、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(上・下)を刊行。2017年、「ギリシア人の物語」シリーズ全3巻を完結させた。

書評

波 2002年12月号より 現代の日本にも通じるローマ帝国の「危機」  塩野七生『終わりの始まり ローマ人の物語XI』

後藤田正晴

塩野さんと初めて会ったのは、中曽根内閣で官房長官を務めていた昭和五十八年のことである。雑誌「新潮45」の誌上で塩野さんが私にインタビューするために、官邸を訪ねてこられたのだ。塩野さんがマキアヴェッリについて研究していることは知っていたので、私をマキアヴェリストと見て、会いに来られたのではないかと当初は思った。多くの日本人にとって、マキアヴェッリは「権謀術数の使い手」というイメージが強い。当時、金権政治の代名詞である田中派に属し、政権の中枢にいた私は、日本の政界におけるマキアヴェッリと思われていた節もあった。
しかし実際には、それは私に関する虚像の一つに過ぎない。イメージは常に移ろっていくもので、その後、私は日本の政治家の中でも善人の部類と見なされるようにもなった。どちらも虚像だし、人の値打ちは善や悪というイメージだけでは測れないと私は思う。
だからインタビューに来られた塩野さんにもそう申し上げたのだが、塩野さんはあまり意に介しておられないようだった。話してみて、塩野さんが政治のことも非常によく勉強なさっているのがよくわかった。それで、たちまち話に花が咲いたのを覚えている。考えてみると、塩野さんは私の「虚像」などどうでもよかったのであろう。
凡百の売文家は、人にまつわる「虚像」をそのままに描くものだし、私もまたそうされてきたが、塩野さんは、歴史上の人物であれ、現存の人間であれ、常に相手の「実像」を探ろうとする人だ。それは、後に出版された『わが友マキアヴェッリ』などの著作を読んでもよくわかる。マキアヴェッリの「虚像」にとらわれることなく、膨大な資料と作家的想像力を駆使して、「実像」に迫ろうとしている。そこが、塩野さんの作品の魅力だと思う。
もうひとつ、塩野さんの歴史作品の大きな魅力は、歴史上のことを扱っていても、常に現代の日本を視野に入れていることである。文中ではほとんど現代の日本について言及することはないが、塩野さんは日本が目指すべき道を念頭に置いているのが読者にわかるように書かれている。
それは、現在塩野さんが取り組んでいるシリーズ『ローマ人の物語』の中でも随所に見ることができる。塩野作品の集大成ともいうべき『ローマ人の物語』の長年の愛読者の一人として、かつて私は、やがて来る衰亡期をどのように描くか、大変興味を持っていると語ったことがある。その衰亡期が、いよいよこの第十一巻から始まるのである。
塩野さんはここでも、歴史の「虚像」に惑わされてはいない。従来の史観では、五賢帝時代が終わった後に始まるとされていたローマ帝国の衰亡が、実はローマ絶頂期であった五賢帝時代にすでにその萌芽があったのではないかという「仮説」を提起している。
その「仮説」を立証すべく、この巻では五賢帝時代の最後の皇帝にして哲学者としても知られるマルクス・アウレリウス帝に多くを割いているが、彼自身が、衰亡への階段を下りていくローマ帝国にあって象徴的な存在であるように思える。塩野さんによれば、長い平和が続いたために、彼は四十歳代で皇帝に就任するまで、一度もローマとその近郊を出たことがなかったという。早くから次期皇帝として指名を受けたマルクスは、政治の中枢でキャリアを伸ばす機会に恵まれた。しかし、皇帝になった途端、帝国の辺境で蛮族との衝突が繰り返され、否応なくローマを離れ、辺境の戦場へと出て行かなくてはならなくなる。そこで味わった苦労はいかばかりかと、この巻を読みながら、彼の心境に思いをはせることが多かった。
私は官僚から政治の世界に進んだ人間だが、最初の選挙で落選している。そのため次の選挙までひたすら、大衆と同じ視線に立って、いろいろな人の話を聞いた。その経験が、政治家として私をようやく一人前にしてくれたのだと思っている。中央で役人としていくらキャリアを積んでも、役人は所詮頭のなかで政策を組み立てているにすぎない。一方、政治家は頭のよさでは役人にはかなわないものの、頭だけでは務まるものではない。中央と地方とでは事情がまるっきり正反対ということもあるのだ。何よりも政治家は常に大衆の中に入り、現実を見据えた政策を構想しなくてはならない。私は身をもってそのことを学んだ。皇帝マルクスに若いときにその機会がなかったのは、彼にとっても、ローマ帝国にとっても不幸であったと思う。
翻っていまの日本を見ていると、現実を体感しながら、高い理想を持って政策を作り上げようという政治的リーダーが不在だということを痛感させられる。塩野さんが書いているように、ローマ帝国でさえも絶頂期に既に衰亡の始まりがあった。日本はどうか。経済が停滞期にある今こそ政治的なリーダーシップが求められているのに、その担い手がいない。このままでは、日本の衰亡は免れないのではないか。懸念されてならない。
しかも、日本には隣国に中国という大国があることを忘れてはならない。先日仕事で上海に招かれたが、世界のどこの都市と比べても負けない活気にあふれていて、上海の人々がみな顔を上げて前を見て歩いているのが印象的だった。いまの中国は沿岸部に限れば先進国と変わりない。いや、それ以上である。
以前は、中国に出張して東京に帰ってきて、東京の賑わいを見ているとほっとしたものだが、今の印象は逆だ。急速に台頭する大陸国家である中国に対して、辺境の島国である日本はどう付き合っていったらよいのか。第十一巻でのローマ帝国に劣らず、いまの日本も危機的な状況にあると思う。日本人はその危機をまず認識することから始めなければならない。今回の『終わりの始まり』は、まさに時宜を得た著作と言うべきであろう。

(ごとうだ・まさはる 元副総理・日中友好会館名誉会長)

▼塩野七生『終わりの始まり ローマ人の物語XI』は、十二月十一日発売

目次

第一部 皇帝マルクス・アウレリウス
 (在位、紀元一六一年―一八〇年)
はじめに/育った時代/生家/子育て/少年時代/成人式/帝王教育/ローマ人のフィロゾフィア/ローマ帝国の安全保障史/次期皇帝マルクス/ローマ人の一日/師・フロント/結婚/ある疑問/皇帝マルクス・アウレリウス/二人の皇帝/皇帝ルキウス/飢饉・洪水/東方の戦雲/パルティア戦役/皇帝出陣/反攻開始/哲人皇帝の政治/ペスト/キリスト教徒/ゲルマニア戦役/ルキウスの死/戦役開始/「防衛線(リメス)破られる!」/ローマ人と蛮族/時代の変化/「マルクス・アウレリウス円柱」/ドナウ河戦線/前線の基地/蛮族のドミノ現象/謀叛/将軍カシウス/後始末/世襲確立/「第二次ゲルマニア戦役」/死
第二部 皇帝コモドゥス
 (在位、紀元一八〇年―一九二年)
映画と歴史/戦役終結/「六十年の平和」/人間コモドゥス/姉・ルチッラ/陰謀/初めの五年間/側近政治/「ローマのヘラクレス」/暗殺
第三部 内乱の時代
 (紀元一九三年―一九七年)
軍団の“たたきあげ”/皇帝ペルティナクス/帝位争奪戦のはじまり/ローマ進軍/首都で/ライヴァル・アルビヌス/もう一人の“たたきあげ”/イッソスの平原
第四部 皇帝セプティミウス・セヴェルス
 (在位、紀元一九三年―二一一年)
軍人皇帝/思わぬ結果/東征、そしてその結果/故郷に錦/ブリタニア/死
年表
参考文献
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