
キリストの勝利―ローマ人の物語XIV―
2,860円(税込)
発売日:2005/12/28
- 書籍
- 電子書籍あり
キリスト教によるローマ帝国の乗っ取り――それはいかにして成されたのか。
キリスト教を公認した大帝コンスタンティヌスの死後、その親族を襲ったのは血なまぐさい粛清であった。生き残った大帝の甥ユリアヌスは、多神教の価値観に基づく寛容の精神と伝統の復活を目指した。だが、その治世は短命に終わり、キリスト教は遂にローマ帝国の国教の座を占めるに至るのだった。激動の時代を新たな視点で描く必読の巻。
目次
読者に
第一部 皇帝コンスタンティウス
(在位、紀元三三七年―三六一年)
(在位、紀元三三七年―三六一年)
邪魔者は殺せ/帝国三分/一人退場/二人目退場/副帝ガルス/賊将マグネンティウス/兄と弟/副帝の処刑/ユリアヌス、副帝に/コンスタンティウスとキリスト教/ガリアのユリアヌス/積極戦法/ゲルマン民族/ストラスブールの勝利/ローマでの最後の凱旋式/ガリア再興
第二部 皇帝ユリアヌス
(在位、紀元三六一年―三六三年)
(在位、紀元三六一年―三六三年)
古代のオリエント/ササン朝ペルシア/ユリアヌス、起つ/内戦覚悟/リストラ大作戦/「背教者」ユリアヌス/対キリスト教宣戦布告/アンティオキア/ペルシア戦役/首都クテシフォン/ティグリス北上/若き死/ユリアヌスの後/講和締結/皇帝ユリアヌスの生と死
第三部 司教アンブロシウス
(在位、紀元三七四年―三九七年)
(在位、紀元三七四年―三九七年)
蛮族出身の皇帝/フン族登場/ハドリアノポリスでの大敗/皇帝テオドシウス/蛮族、移住公認/親キリスト教路線の復活/「異教」と「異端」/「異端」排斥/「異教」排斥/論戦/キリストの勝利(異教に対して)/キリスト教、ローマ帝国の国教に/キリストの勝利(皇帝に対して)/東西分割
年表
参考文献
図版出典一覧
参考文献
図版出典一覧
書誌情報
読み仮名 | キリストノショウリローマジンノモノガタリ14 |
---|---|
シリーズ名 | 全集・著作集 |
全集双書名 | ローマ人の物語 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | A5判変型 |
頁数 | 328ページ |
ISBN | 978-4-10-309623-8 |
C-CODE | 0322 |
ジャンル | 宗教、世界史 |
定価 | 2,860円 |
電子書籍 価格 | 1,540円 |
電子書籍 配信開始日 | 2015/04/17 |
書評
波 2006年1月号より 人間たちと歴史との戦いの物語 塩野七生『キリストの勝利―ローマ人の物語XIV―』
十五年かけて一年一冊ずつ書き続けられている塩野七生氏の大作、「ローマ人の物語」。長い年月をかけて、まるでギリシャ・ローマの彫刻家が一分の隙なく刻み続けるような情熱で書き上げられてきたこの労作が、ついに第十四巻に達した。
四世紀。滔々と流れるローマのキリスト教化の流れの中で、その力を利用して支配力を強化したコンスタンティヌス大帝亡き後、逆にその力に抗し「ローマ的な」政策を断行した皇帝ユリアヌスを経て、テオドシウス大帝の時代にローマのキリスト教化は完成する。それは、ローマ帝国の事実上の終焉でもあった。
十四巻目は、まさに時代の転換点において時代を担った主人公達の、生き様の連鎖の物語となった。
それにしても、何世代もの人々によって織りなされる歴史物語が、長編になればなるほど、かえって詩的な響きを高まらせていくのは一体何故なのか。
「平家物語」ではないが、歴史や時代の流れが、個々人の奮闘努力をむなしくさせるほどに圧倒的で、そこに世の無常を感じるからか。
キリスト教化の流れの中で、ユリアヌスに本当のところどれだけの選択肢があったのか。流れ込んでくる北方蛮族に対してもっと有効な方策は果たしてあったのだろうか。一隅ではあるが現実の行政の一端を担う身ゆえか、一読後、じっとこのことを考えてしまった。
そして、「歴史の必然」というものが、やはり存在するのか、というテーマに漂着する。ローマは滅ぶべくして滅んだのか。人の世は、誰が制御しているのか。人間か、それとも、「歴史の必然」か。
ローマ帝国勃興期、例えば、カエサルやアウグストゥスの時代、塩野氏の筆致を追うと、天才的な人間の徹底した努力というものが歴史を次々と作ってゆく、その生き生きとした姿に感動する。人の世を制御するのは、やはり、人間の力なのだと。
ところが、衰退期になると、誰がどのように奮闘しようとも押しとどめることができない時の流れというものに万感の思いを感じざるを得ない。ローマの滅亡はやはり「歴史の必然」だったのかと。
どこかで分水嶺のようなものがあるような気もするが、この答えは、単純ではない。二○○六年発売予定の最終巻を待って、改めて考えてみたい。
ただ、それでもなお、これまでの十四巻を通して感じることは、時代を背負ったリーダーの価値観と判断と行動というものが、いかに重いか、ということである。
第十四巻で、塩野氏は問いかける。キリスト教化の流れも、ユリアヌスの在任期間が十九ヶ月ではなく十九年だったとしたら違った展開になっていたかもしれないと。ここに、塩野氏が、本大作を「ローマの物語」ではなく、「ローマ人の物語」とした心を改めて感じる。
塩野氏は、本巻冒頭の「読者に」で、こう語りかける。
「時代の転換期に生きることになってしまった人でも、選択の自由ならばある。
流れに乗るか
流れに逆らうか
流れから身を引くか」
歴史が繰り返すものなのかどうか、実のところはわからない。だが、この三つの選択肢を迫られる局面は、時代を超えていつの時代にもある。生身の人間は、この問に全身全霊をあげて答えを出さねばならない。
そして、そこで熟慮されるのは、「歴史の必然」という無味乾燥なものだけではない。むしろ、個々人の利益であり、美学であり、信念であり、生き様といったミクロの世界が数多く参入してくる。歴史はそのミクロの判断の集積結果である。たとえそれがどんなに長い歴史であったとしても。
考えてみれば、この「ローマ人の物語」の主人公はほとんど全て皇帝であり、歴史を制御できる立場にあった人間たちである。つまり、「ローマ人の物語」は、歴史を制御できる立場にあった人間たちと歴史との戦いの物語でもあるのである。果たして、勝利したのはどちらだったか。
塩野氏の物語はあと一巻続く。
四世紀。滔々と流れるローマのキリスト教化の流れの中で、その力を利用して支配力を強化したコンスタンティヌス大帝亡き後、逆にその力に抗し「ローマ的な」政策を断行した皇帝ユリアヌスを経て、テオドシウス大帝の時代にローマのキリスト教化は完成する。それは、ローマ帝国の事実上の終焉でもあった。
十四巻目は、まさに時代の転換点において時代を担った主人公達の、生き様の連鎖の物語となった。
それにしても、何世代もの人々によって織りなされる歴史物語が、長編になればなるほど、かえって詩的な響きを高まらせていくのは一体何故なのか。
「平家物語」ではないが、歴史や時代の流れが、個々人の奮闘努力をむなしくさせるほどに圧倒的で、そこに世の無常を感じるからか。
キリスト教化の流れの中で、ユリアヌスに本当のところどれだけの選択肢があったのか。流れ込んでくる北方蛮族に対してもっと有効な方策は果たしてあったのだろうか。一隅ではあるが現実の行政の一端を担う身ゆえか、一読後、じっとこのことを考えてしまった。
そして、「歴史の必然」というものが、やはり存在するのか、というテーマに漂着する。ローマは滅ぶべくして滅んだのか。人の世は、誰が制御しているのか。人間か、それとも、「歴史の必然」か。
ローマ帝国勃興期、例えば、カエサルやアウグストゥスの時代、塩野氏の筆致を追うと、天才的な人間の徹底した努力というものが歴史を次々と作ってゆく、その生き生きとした姿に感動する。人の世を制御するのは、やはり、人間の力なのだと。
ところが、衰退期になると、誰がどのように奮闘しようとも押しとどめることができない時の流れというものに万感の思いを感じざるを得ない。ローマの滅亡はやはり「歴史の必然」だったのかと。
どこかで分水嶺のようなものがあるような気もするが、この答えは、単純ではない。二○○六年発売予定の最終巻を待って、改めて考えてみたい。
ただ、それでもなお、これまでの十四巻を通して感じることは、時代を背負ったリーダーの価値観と判断と行動というものが、いかに重いか、ということである。
第十四巻で、塩野氏は問いかける。キリスト教化の流れも、ユリアヌスの在任期間が十九ヶ月ではなく十九年だったとしたら違った展開になっていたかもしれないと。ここに、塩野氏が、本大作を「ローマの物語」ではなく、「ローマ人の物語」とした心を改めて感じる。
塩野氏は、本巻冒頭の「読者に」で、こう語りかける。
「時代の転換期に生きることになってしまった人でも、選択の自由ならばある。
流れに乗るか
流れに逆らうか
流れから身を引くか」
歴史が繰り返すものなのかどうか、実のところはわからない。だが、この三つの選択肢を迫られる局面は、時代を超えていつの時代にもある。生身の人間は、この問に全身全霊をあげて答えを出さねばならない。
そして、そこで熟慮されるのは、「歴史の必然」という無味乾燥なものだけではない。むしろ、個々人の利益であり、美学であり、信念であり、生き様といったミクロの世界が数多く参入してくる。歴史はそのミクロの判断の集積結果である。たとえそれがどんなに長い歴史であったとしても。
考えてみれば、この「ローマ人の物語」の主人公はほとんど全て皇帝であり、歴史を制御できる立場にあった人間たちである。つまり、「ローマ人の物語」は、歴史を制御できる立場にあった人間たちと歴史との戦いの物語でもあるのである。果たして、勝利したのはどちらだったか。
塩野氏の物語はあと一巻続く。
(さいとう・たけし 埼玉県副知事)
著者プロフィール
塩野七生
シオノ・ナナミ
1937年7月7日、東京生れ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。1968年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。初めての書下ろし長編『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。この年からイタリアに住む。1982年、『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。1983年、菊池寛賞。1992年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006 年に完結)。1993年、『ローマ人の物語I』により新潮学芸賞。1999年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。2007年、文化功労者に選ばれる。2008ー2009年、『ローマ亡き後の地中海世界』(上・下)を刊行。2011年、「十字軍物語」シリーズ全4冊完結。2013年、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(上・下)を刊行。2017年、「ギリシア人の物語」シリーズ全3巻を完結させた。
関連書籍
判型違い(文庫)
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