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もう「ローマの衰退」は止まらない――危機を克服する力を失ったのはなぜか。

  • 受賞第41回 新風賞

迷走する帝国―ローマ人の物語XII―

塩野七生/著

3,080円(税込)

本の仕様

発売日:2003/12/16

読み仮名 メイソウスルテイコクローマジンノモノガタリ12
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 ローマ人の物語
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判変型
頁数 380ページ
ISBN 978-4-10-309621-4
C-CODE 0322
ジャンル 文芸作品、世界史
定価 3,080円
電子書籍 価格 1,540円
電子書籍 配信開始日 2015/02/20

もはやローマは、幾多の危機を乗り越え発展しつづける「栄光の覇者」ではなくなっていた。経済は低迷し、蛮族の侵入が相次ぐ中、皇帝捕囚という未曾有の国難にも見舞われる。皇帝たちの懸命の努力とは裏腹に、帝国は衰退の階段を着実に下り始め、キリスト教が台頭してくる……。「危機の三世紀」の現実を描き尽くした力作。

著者プロフィール

塩野七生 シオノ・ナナミ

1937年7月7日、東京生れ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。1968年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。初めての書下ろし長編『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。この年からイタリアに住む。1982年、『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。1983年、菊池寛賞。1992年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006 年に完結)。1993年、『ローマ人の物語I』により新潮学芸賞。1999年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。2007年、文化功労者に選ばれる。2008ー2009年、『ローマ亡き後の地中海世界』(上・下)を刊行。2011年、「十字軍物語」シリーズ全4冊完結。2013年、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(上・下)を刊行。2017年、「ギリシア人の物語」シリーズ全3巻を完結させた。

書評

波 2004年1月号より 塩野氏の「怖さ」と、魅力溢れる「衰亡史」  塩野七生『迷走する帝国―ローマ人の物語XII―』

松原耕二

 それは一本の電話から始まった。席に戻ると若い女性のスタッフがおもむろに告げた。
「シオノナナミさんという方から電話がありました」「え、塩野七生さん?」
信じられない思いでメモを受け取り、高鳴る胸を押さえて残された番号にかけてみた。
「塩野七生です。いま日本に来ています。もし、あなたが『最も怖いけど最も逢いたい』と今も思っていらっしゃるなら、時間をとりますが」穏やかな声だった。
「喜んで」私の声は間違いなく裏返っていたはずだ。
ある女性誌で塩野七生特集が組まれた。以前コラムで彼女の魅力を書いていたためか、私にもインタビューの申し込みがあった。その中で私は、塩野氏の人の描写にすごみや怖さをも感じると話し、彼女がスポーツ誌に寄せた文章に触れた。
彼女の好きなサッカー選手に共通するのは『カッティヴェリア』という言葉だった。日本語に訳すと『悪意』ということになるのだが、『究極の自己中心主義』とも言うべきもので、『自分のためにプレーしているのだが結果はチームのためになる』というものだった。その言葉は今の日本に最も大事な要素に思えた。さらに彼女は「『カッティヴェリア』を持つ人間、つまりある種の悪意を持つ人間こそが、神に近づけるという思想がヨーロッパにはある」と締めくくった。
この一節に強く惹かれた私は、一度お逢いして是非このことを聞いてみたいとインタビュアーに話した。そして正直な思いを告白したのだ。「塩野さんは僕にとって、最も怖い人であり、最も逢ってみたい人です」
ホテルのカフェに現れた塩野氏は、黒い皮のスーツを身にまとい、茶系のしっかりしたハンドバッグを小脇に抱えていた。完璧な出で立ちだった。
様々な話を伺った。サッカー、日本の政治、男と女、テレビ、書くことの意味などをめぐって彼女が紡ぎ出す言葉は、率直でありながらさりげない品格と奥行きが備わっていた。作品について話しているとき彼女はふとこうつぶやいた。「時々言われるわ。塩野さんのようにわかりやすく書くのは大変でしょうって。とんでもない。わかりやすく書こうとしているわけではない。学者は『知っていること』を書くけど、私は『知りたいこと』を書いているのだと思う」
『ローマ人の物語』を読むことは、まさに彼女の『知りたいこと』を一緒に旅することだと私は思う。確かに彼女の作品群を読めば読むほど、ローマ帝国という存在が人類史の中でいかに大いなる輝きを放っているかがわかる。
だが少なくとも私に関して言えば、ローマ帝国史を読んでいるのではない。ローマ帝国という人間ドラマの宝庫の中で、彼女が誰と出会い、何に惹かれ、どこで立ち止まり、どんなふうに感じるのか、まさに彼女自身の豊潤な孤独の時間を追体験しているのだ。
前作の11巻からローマの衰亡期に入った。新作の12巻ではローマ人がローマ人でなくなっていく危機の時代を、史実を紐解き時に想像力を駆使しながら塩野氏は丹念に描いていく。人道的ということならば批判のしようのない『アントニヌス勅令』が、ローマ人の本質を一変させ、財政や司法をも混乱させるまでに至る考察は、間違った政策選択が時に自らのアイデンティティーをも崩壊させうるかを鮮やかに示している。それはまさに我々が肝に銘じなければならない教訓でもある。
さらに、目の前の危機に右往左往しコロコロとリーダーが変わる様は、どこかの国のありようを想像させるかもしれない。「たとえ憎まれようとも軽蔑されることだけは絶対に避けなければならない」はずの権力者たちが、いとも簡単に蔑まれ次々と殺害されていく姿は、反面教師のリーダー論として読むこともできるだろう。
そして私がいつも密かに楽しみにしているのは彼女の人物評だ。新作でも随所にちりばめられているが、今回特に興味を惹かれたのは女と男をめぐる二つのエピソードだ。ひとつは、ローマ帝国の皇帝捕囚という前代未聞の失態に乗じて、勢力を拡大した女性ゼノビアをめぐる描写だ。「同性としては毎度のことながら残念に思うのだが、女とは権力を手中にするやいなや、越えてはならない一線を越えてしまうのである。しかもそれを、相手の苦境につけ込むやり方で行う」なかなかぞくぞくする表現ではあるまいか。
もうひとつは、兵士たちの不満を静めるためにカエサルとアレクサンデルの二人の皇帝が演説でどう説得したか、塩野氏が比較して論じている部分だ。彼女はそこに男の力量とでも言うべきものをはっきりと見ている。私が言う塩野氏の『怖さ』はそこにある。彼女にかかったら、男たちはどんなに取り繕っても容赦なく見透かされてしまうのだ。
初めて実現した塩野氏との対話は二時間に及んだ。私は聞いてみたかった質問を、最後にしてみることにした。「なぜ悪意を持った人間こそが神に近づけるという考え方が、ヨーロッパにはあるんでしょう?」
「だって、神なんて悪そのものじゃない。こんな世の中を作ったんだから」そう言って彼女は微笑んだ。
時間を割いてもらったお礼を述べて立ち上がった。別れ際、塩野氏は私に言った。
「実際話してみてどう、怖くなくなりました?」彼女は今度はにっこり笑うと、きびすを返して去っていった。私がますますしびれたのは、言うまでもない。

(まつばら・こうじ TBS「ニュースの森」前編集長)

目次

読者に
第一部 ローマ帝国・三世紀前半
第一章(紀元二一一年―二一八年)
皇帝カラカラ/誰でもローマ市民!/「既得権」と「取得権」/「取得権」の「既得権」化による影響/帝国防衛/ローマのインフレ/パルティア戦役/機動部隊/メソポタミアへ/謀殺/皇帝マクリヌス/撤退/シリアの女/帝位奪還
第二章(紀元二一八年―二三五年)
皇帝ヘラガバルス/皇帝アレクサンデル・セヴェルス/法学者ウルピアヌス/六年の平和/忠臣失脚/歴史家ディオ/ササン朝ペルシア/再興の旗印/ペルシア戦役(1)/兵士たちのストライキ/第一戦/ゲルマン対策/ライン河畔
第三章(紀元二三五年―二六〇年)
皇帝マクシミヌス・トラクス/実力と正統性/元老院の反撃/一年に五人の皇帝/実務家ティメジテウス/東方遠征/古代の地政学/皇帝フィリップス・アラブス/ローマ建国一千年祭/皇帝デキウス/キリスト教徒弾圧(1)/蛮族の大侵入/ゴート族/石棺/蛮族との講和/ゲルマン民族、はじめて地中海へ/皇帝ヴァレリアヌス/キリスト教徒弾圧(2)
第二部 ローマ帝国・三世紀後半
第一章(紀元二六〇年―二七〇年)
ペルシア王シャプール/皇帝捕囚/ペルシアでのインフラ工事/皇帝ガリエヌス/未曾有の国難/ガリア帝国/パルミラ/帝国三分/一つの法律/「防衛線(リメス)」の歴史的変容/軍の構造改革/スタグフレーション/“タンス貯金”?/不信任/皇帝クラウディウス・ゴティクス/ゴート族来襲
第二章(紀元二七〇年―二八四年)
皇帝アウレリアヌス/反攻開始/通貨の発行権/「アウレリアヌス城壁」/ダキア放棄/女王ゼノビア/第一戦/第二戦/パルミラ攻防/ガリア再復/凱旋式(triumphus)/帝国再統合/皇帝空位/皇帝タキトゥス/皇帝プロブス/蛮族同化政策/皇帝カルス/ペルシア戦役(2)/落雷
第三章 ローマ帝国とキリスト教
年表
参考文献
図版出典一覧

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