白洲正子全集 第三巻
6,270円(税込)
発売日:2001/09/10
- 書籍
日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。
全国の能面をたずね歩いた結実の書、小林秀雄にも絶賛された読売文学賞受賞の「能面」、能の創始者の文章を易しく解き明かしつつ、能の本質に迫ると同時に現代の能への鋭い批評にもなっている「世阿弥」、のちに「かくれ里」や「近江山河抄」で開花する紀行文集、その最初の作品という意味で重要な「西国巡礼」など、活発な創作活動の跡。
目次
心に残る人々
小林秀雄
田村秋子
勅使河原蒼風
正宗白鳥
室生犀星
岡本太郎
犬養道子
岩田幸雄
長尾米子
吉田茂
渋沢栄一
樺山資紀
田村秋子
勅使河原蒼風
正宗白鳥
室生犀星
岡本太郎
犬養道子
岩田幸雄
長尾米子
吉田茂
渋沢栄一
樺山資紀
能面
能面をたずねて
写真・解説
写真・解説
1翁/2父尉/黒式尉/3延命冠者/4阿古父尉/5小尉/6女/7小面/8孫次郎/9増女/10女/11女/12近江女/13深井/14曲見/15老女/16泥眼/17生成/18般若/19童子/20十六/21中将/22蝉丸/23猩々/24痩男/25蛙/26霊怪士/27鷹/28飛出/29ベシ見/30ベシ見/31ベシ見/32ベシ見/33小ベシ見/34悪尉/35鼓悪尉/36獅子口
世阿弥――花と幽玄の世界
はじめに
初舞台
花伝書
花の発見
初心について
物真似
二曲三体
幽玄について
和合の精神
仮面の芸術
序破急について
言葉と風情
自然居士と東岸居士
自由な境地
晩年の姿
初舞台
花伝書
花の発見
初心について
物真似
二曲三体
幽玄について
和合の精神
仮面の芸術
序破急について
言葉と風情
自然居士と東岸居士
自由な境地
晩年の姿
西国巡礼
西国巡礼について
熊野路
第一番 那智 那智山青岸渡寺
第二番 紀三井寺 紀三井山金剛宝寺
第二番 紀三井寺 紀三井山金剛宝寺
紀州から河内へ
第三番 粉河寺 風猛山粉河寺
第四番 槙尾 槙尾山施福寺
第五番 葛井寺 紫雲山葛井寺
第四番 槙尾 槙尾山施福寺
第五番 葛井寺 紫雲山葛井寺
大和の寺々
第六番 壺坂寺 壺坂山南法華寺
第七番 岡寺 東光山龍蓋寺
第八番 初瀬 豊山長谷寺
第九番 南円堂 興福寺南円堂
第七番 岡寺 東光山龍蓋寺
第八番 初瀬 豊山長谷寺
第九番 南円堂 興福寺南円堂
宇治より滋賀へ
第十番 三室戸寺 明星山三室戸寺
第十一番 上醍醐 深雪山上醍醐寺
第十二番 岩間寺 岩間山正法寺
第十三番 石山寺 石光山石山寺
第十四番 三井寺 長等山三井寺
第十一番 上醍醐 深雪山上醍醐寺
第十二番 岩間寺 岩間山正法寺
第十三番 石山寺 石光山石山寺
第十四番 三井寺 長等山三井寺
洛中洛外
第十五番 今熊野 新那智山観音寺
第十六番 清水寺 音羽山清水寺
第十七番 六波羅 補陀洛山六波羅蜜寺
第十八番 六角堂 紫雲山頂法寺
第十九番 革堂 霊ユウ山行願寺
第二十番 善峰 西山善峰寺
第二十一番 穴太寺 菩提山穴太寺
第十六番 清水寺 音羽山清水寺
第十七番 六波羅 補陀洛山六波羅蜜寺
第十八番 六角堂 紫雲山頂法寺
第十九番 革堂 霊ユウ山行願寺
第二十番 善峰 西山善峰寺
第二十一番 穴太寺 菩提山穴太寺
西国街道にそって
第二十二番 総持寺 補陀洛山総持寺
第二十三番 勝尾寺 応頂山勝尾寺
第二十四番 中山寺 紫雲山中山寺
第二十三番 勝尾寺 応頂山勝尾寺
第二十四番 中山寺 紫雲山中山寺
播磨路
第二十五番 清水寺 御嶽山清水寺
第二十六番 一乗寺 法華山一乗寺
第二十七番 書写山 書写山円教寺
第二十六番 一乗寺 法華山一乗寺
第二十七番 書写山 書写山円教寺
丹後から近江へ
第二十八番 成相寺 成相山成相寺
第二十九番 松尾寺 青葉山松尾寺
第三十番 竹生島 竹生島宝厳寺
第二十九番 松尾寺 青葉山松尾寺
第三十番 竹生島 竹生島宝厳寺
湖東から美濃へ
第三十一番 長命寺 姨綺耶山長命寺
第三十二番 観音正寺 繖山観音正寺
第三十三番 谷汲 谷汲山華厳寺
番外 花山院について 華頂山元慶寺・東光山菩提寺
第三十二番 観音正寺 繖山観音正寺
第三十三番 谷汲 谷汲山華厳寺
番外 花山院について 華頂山元慶寺・東光山菩提寺
みちしるべ
エッセイ 一九六三
能の鑑賞と謡い方
羽衣/二人静/花月/東北/善知鳥/綾鼓/葛城
仕舞稽古の心得
美しいきもの
二十年近く住んでみて
ペルシャを旅して
京の味 ロンドンの味
信玄のひょうたん
スペインの夢
世阿弥の芸
地主さんの絵
手紙
美しいきもの
二十年近く住んでみて
ペルシャを旅して
京の味 ロンドンの味
信玄のひょうたん
スペインの夢
世阿弥の芸
地主さんの絵
手紙
解説・解題
書誌情報
読み仮名 | シラスマサコゼンシュウ03 |
---|---|
シリーズ名 | 全集・著作集 |
全集双書名 | 白洲正子全集 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | A5判 |
頁数 | 596ページ |
ISBN | 978-4-10-646603-8 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 全集・選書 |
定価 | 6,270円 |
書評
波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力 「白洲正子全集」
個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。
▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。
(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)
▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中
著者プロフィール
白洲正子
シラス・マサコ
(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。
関連書籍
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