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白洲正子全集 第四巻

白洲正子/著

6,270円(税込)

発売日:2001/10/10

  • 書籍

日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。 

一人の稀有な人物の一生を、渾身の気迫と限りない憧憬とで綴った代表作の一つ「明恵上人」、在原業平や小野小町などの人物像を鮮やかに蘇らせた「古典の細道」など、力強く歩み始めた六〇年代後半の諸作。

目次
明恵上人
樹上座禅
薬師丸
仏眼仏母
紀州遺跡
高雄から栂尾へ
あるべきやうわ
栂尾の上人
華厳縁起
夢の記
古典の細道
白鳥の歌 倭建命
昔男ありけり 在原業平
夢に生きる女 小野小町
大原御幸 建礼門院
補陀落渡海 平維盛
西国巡礼の祖 花山院
旅の芸術家 世阿弥
琵琶の名手 蝉丸
花がたみ 継体天皇
うわなりうち 磐之媛皇后
木地屋の祖神 惟喬親王
忍 東福門院
エッセイ 一九六四―一九七〇
魯山人のこと
遠見
金平糖の味
海山人
思うこと ふたたび
能面の表情
實先生の映像
神仏混淆
名人が語る芸の境地
再び蒼風さん
志摩のはて
織物は語る
日本のオランダ陶器
きものをつくる人達
お能の誕生
日本のもの・日本のかたち
古代ガラス
天上の音楽
さくらの流れ
美術に見るさくら
雪月花
ほくろのユキババ
つらつら椿
椿の意匠
ブルガリアの旅
形なき形
読書日記
美の遍歴
飛鳥散歩
明恵上人のこと
古都残影
冬のおとずれ
月謝は高かった
木目に聞く
西国巡礼の旅
無言の言葉
「井筒」のふる里
解説・解題

書誌情報

読み仮名 シラスマサコゼンシュウ04
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 白洲正子全集
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 596ページ
ISBN 978-4-10-646604-5
C-CODE 0395
ジャンル 全集・選書
定価 6,270円

書評

波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力  「白洲正子全集」

青柳恵介

個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。

(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)

▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中

著者プロフィール

白洲正子

シラス・マサコ

(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。

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