白洲正子全集 第十四巻
6,270円(税込)
発売日:2002/08/09
- 書籍
日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。
「元来私は過去を振り返ることが嫌いなのである……」自らをあからさまに語ることをよしとしなかった著者が、初めて幼い頃からの人生を綴った「白洲正子自伝」。生来のテーマであった、“両性具有”というやまと文化の一つの美学に真正面から挑んだ「両性具有の美」など、最晩年の圧倒的迫力。年譜、著作一覧、題名索引を付す。
目次
白洲正子自伝
一 祖父・樺山資紀
二 ふたりの祖父
三 隼人の国
四 富士の裾野にて
五 母なる富士
六 故里は遠くにありて
七 麹町区永田町一丁目十七番地
八 わが一族
九 縁ふかき女性たち
十 あいのて
十一 芝居見物
十二 アンナ・パヴロヴァ「瀕死の白鳥」
十三 能に取憑かれて
十四 アメリカへ留学する
十五 アメリカのキャムプ生活
十六 再び歌舞伎について
十七 アメリカ留学から帰って
十八 “韋駄天お正”の結婚
十九 「コトオワッタ」
二十 ヨーロッパの旅
二十一 病は性格に似る
二十二 鶴川村へ移る
二十三 私の日記
二十四 「白洲正子泣く」
二十五 銀座「こうげい」にて
二十六 旅は道草
二十七 スペインの旅
二十八 ハンガリアン・ラプソディ
二十九 イングリッシュ・ジェントルマン
三十 西国三十三ヵ所観音巡礼
二 ふたりの祖父
三 隼人の国
四 富士の裾野にて
五 母なる富士
六 故里は遠くにありて
七 麹町区永田町一丁目十七番地
八 わが一族
九 縁ふかき女性たち
十 あいのて
十一 芝居見物
十二 アンナ・パヴロヴァ「瀕死の白鳥」
十三 能に取憑かれて
十四 アメリカへ留学する
十五 アメリカのキャムプ生活
十六 再び歌舞伎について
十七 アメリカ留学から帰って
十八 “韋駄天お正”の結婚
十九 「コトオワッタ」
二十 ヨーロッパの旅
二十一 病は性格に似る
二十二 鶴川村へ移る
二十三 私の日記
二十四 「白洲正子泣く」
二十五 銀座「こうげい」にて
二十六 旅は道草
二十七 スペインの旅
二十八 ハンガリアン・ラプソディ
二十九 イングリッシュ・ジェントルマン
三十 西国三十三ヵ所観音巡礼
両性具有の美
オルランドー
菊花の契り
賤のをだまき
新羅花郎
女にて見ばや
稚児之草子
稚児のものがたり
天狗と稚児
夢現つの境
浄の男道
粘菌について
中世の花
鬼夜叉という名前
児姿は幽玄の本風也
天女の舞
竜女成仏
菊花の契り
賤のをだまき
新羅花郎
女にて見ばや
稚児之草子
稚児のものがたり
天狗と稚児
夢現つの境
浄の男道
粘菌について
中世の花
鬼夜叉という名前
児姿は幽玄の本風也
天女の舞
竜女成仏
エッセイ 一九九六―一九九八
ごめんなさい
よしあしびきの山姥が……
骨董との付き合い
ささやかな発見
私の中のあれ
一冊の本
手を合わせる
石ものぐるい
六郎さんの芸
心に聴く
観月能を見る
柳さんご夫妻の花
道草の人生
信楽
夢の出来事と私の小さな秘密と。
多田富雄先生のこと
よしあしびきの山姥が……
骨董との付き合い
ささやかな発見
私の中のあれ
一冊の本
手を合わせる
石ものぐるい
六郎さんの芸
心に聴く
観月能を見る
柳さんご夫妻の花
道草の人生
信楽
夢の出来事と私の小さな秘密と。
多田富雄先生のこと
補遺
講和を迎えて
私の文芸時評
事件
女性開眼のあらわれ
生活館
女の見た男色の世界
感想
橋岡久太郎翁喜寿祝賀記念能
青山二郎と犬養道子
お花見
きものと洋服
壺と私
藤原行成をめぐって
李朝の水滴
ふだん着のお正月
藍の魅力。
鴨
ソアラの縁
埴輪モード
大平のつむぎ
女面にただよう妖
能面(小面)
道成寺物語の起因
無題
私の文芸時評
事件
女性開眼のあらわれ
生活館
女の見た男色の世界
感想
橋岡久太郎翁喜寿祝賀記念能
青山二郎と犬養道子
お花見
きものと洋服
壺と私
藤原行成をめぐって
李朝の水滴
ふだん着のお正月
藍の魅力。
鴨
ソアラの縁
埴輪モード
大平のつむぎ
女面にただよう妖
能面(小面)
道成寺物語の起因
無題
解説・解題
年譜・著作一覧
題名索引
年譜・著作一覧
題名索引
書誌情報
読み仮名 | シラスマサコゼンシュウ14 |
---|---|
シリーズ名 | 全集・著作集 |
全集双書名 | 白洲正子全集 |
雑誌から生まれた本 | 芸術新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | A5判 |
頁数 | 618ページ |
ISBN | 978-4-10-646614-4 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 全集・選書 |
定価 | 6,270円 |
書評
波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力 「白洲正子全集」
個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。
▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。
(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)
▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中
著者プロフィール
白洲正子
シラス・マサコ
(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。
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