ホーム > 書籍詳細:白洲正子全集 第十三巻

白洲正子全集 第十三巻

白洲正子/著

6,270円(税込)

発売日:2002/07/10

  • 書籍

日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。

軽妙な毒舌で自在に世間を語って面目躍如の「夕顔」、自然や人が見せるさりげない一瞬に人生のきらめきをとらえる「名人は危うきに遊ぶ」。老年に至って軽やかに飛翔する、晩年のエッセイ集の代表作。

目次
雪月花
わかな
桜と西行
木の信仰について
秋の七草
矢橋家の牡丹園
夕顔
観ること・聴くこと
新年/おしゃれ/名前/芸/文章の味/木の芽時/末永雅雄先生を偲ぶ/雲になった成田三樹夫/チンチン電車/もうひとつの土俵/おかみさん/クラブ/空/能の醍醐味/どろ亀先生/君が代/笠智衆だいすき/老いのたのしみ/知ってるつもり/隣りの人/巨星墜つ/通過儀礼/葦毛の駒/拍手
私の自然観
夕顔
緑に想う
鮎だより
初秋の花
十三夜によせる
永井さんの「くるるの音」
今は昔 文士気質
松田正平さんのこと
京の宿
「あそび」の文化

心よりいでくる能
石押分之子の神語り
前さんの風景
吉野山のもみじ
富良野の樹海にて
蜘蛛と金盥
吉田健一のこと
民芸に望む
十一面観音 磚仏
李朝 染付辰砂水滴
法隆寺 鍍金鈴
織部 菊花文角皿
旅枕
明恵上人の犬
私の墓巡礼
西行の軽みについて
西行の歌枕

ツキヨミの思想
昭和と私
人は鏡
名人は危うきに遊ぶ
東大寺の講堂跡
東大寺の観音浄土
十一面観音について
極楽いぶかしくは
神の国 高千穂
わが青春の愛読書
西行と私
名人は危うきに遊ぶ
能の型について
伝統芸能の難しさと面白さ
葛城の神
花筐をめぐって
薪能礼讃
壬生狂言
ユーモアについて
薪能 今昔
MOA美術館を見て
「源氏物語絵巻」について
熊谷守一の「日輪」
李朝の白壺
陶芸のふるさと
荒川さんを憶う
はさみのあそび
楽しかった九十日の船旅
同行三人
草木は語る
さくら
花とともに
日本の伝統
茘子
新緑
『ある回想』を読んで
大人の文章
人生すべてバランス
永遠の旅びと
孔雀
息をひきとる
不思議なご縁
エッセイ 一九九〇―一九九五
最初の記憶
橋岡一路氏の作品
老木に花の咲かんがごとし
余白の人生 青山二郎
春夏秋冬 加藤静允
湖東三山
入江さんと歩く大和路
相生の松
ほととぎすのひと声
日本の伝統文化に想う
式年遷宮に思う
伊万里と私
心に残る観音像
王者の夢
よびつぎの文化
「ととや」の話
進歩? それがどうした
私の骨董
骨董ものがたり
解説・解題

書誌情報

読み仮名 シラスマサコゼンシュウ13
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 白洲正子全集
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 546ページ
ISBN 978-4-10-646613-7
C-CODE 0395
ジャンル 全集・選書
定価 6,270円

書評

波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力  「白洲正子全集」

青柳恵介

個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。

(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)

▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中

著者プロフィール

白洲正子

シラス・マサコ

(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。

関連書籍

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

白洲正子
登録
全集・選書
登録

書籍の分類