肉体労働者時代、YMO「散開」秘話、代表作「戦メリ」の誕生――。世界的音楽家の決定的自伝
坂本龍一さんが57歳までの音楽家人生のすべてを語った『音楽は自由にする』の文庫版を刊行しました。編集がすべて終わり、印刷に着手しようかというところで、坂本さんは旅立ってしまいました。
本書の編集担当者は文庫版の準備を始めますというご報告をする際に、はじめてお目にかかることができました。別れ際に「それじゃ、よろしくね」とかけて下さった声の響きがいつまでも耳に残っています。気のおけない仕事仲間に挨拶するようなトーンで、世界的な音楽家を目の前にした緊張がほぐれました。
本書の装幀には楽譜と「音楽は自由にする」を意味するドイツ語がレイアウトされていますが、いずれも坂本さんの自筆によるものです。坂本さんの数多ある作品のひとつに相応しいデザインになっていると思います。
刷り上がった文庫版を坂本さんにお届けすることは叶いませんでしたが、坂本さんの愛した「Ars longa, vita brevis」(芸術は長く、人生は短し)という言葉の通り、開けばいつでも著者の考えに触れることのできる本もまた、長く残るものです。ぜひ手にとっていただければと思います。
57歳からご逝去の直前までが明かされた、本書の続編にあたる『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』は6月21日に刊行されます。あわせてご注目ください。
2023年05月15日 今月の1冊