「野獣」は令和に蘇る
発売直後からかなりの売れ行きとなっています。著者の代表作にして傑作の本書は、66年前に刊行されました。描かれる社会背景もエンタメとしての物語性も、現在とはずいぶん異なる小説ですが、なぜ今、多くの読者を掴んでいるのでしょうか。
ひとつは、名作映画「野獣死すべし」を見た世代が買っていることが考えられます。タイトルから松田優作を思い出した方もいるでしょう。二つ目は未読だったからこの機会に、という人もいるでしょう。そして三つめは、最近とみに少なくなった「本格ハードボイルド」のドライでざらついた世界を読みたいというニーズが、潜在的にあったということではないでしょうか。
ドライでざらついた世界。それは主人公伊達邦彦のキャラクターそのものです。銃だけを愛する彼は、相手がだれであろうと容赦なく撃つ男であり、共感や感動には憎しみしかない男です。端正な風貌に狂気を湛え、鍛え上げた身体と冷徹な知性で大胆な犯罪を実行する。そこには優しさもなければ人間性もありません。
著者は戦前、軍の卑怯さを目撃し、その怒りを原動力に本作を書いたと言います。国家に対する怒りを秘め、社会の圏外に立つ「ローンウルフ」の孤独。徹底的に虚無を生きる「野獣」は、令和の今、鮮烈に蘇ったと言えるのではないでしょうか。
没後30年の今年、装幀と解説を新たに復活した傑作をご堪能ください。
2026年02月15日 今月の1冊

































