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AIは、現実をつくれるか──。世界に衝撃を与えた第170回芥川龍之介賞受賞作。


「『東京都同情塔』には、全体の5%ぐらい、生成AIの文章を使っている」
 2024年1月、芥川賞選考会後の記者会見での著者の発言は、日本のみならず、世界でも大きな話題を呼びました。
 ──日本で最も権威ある文学賞のひとつ芥川賞が、AIの使用を認めた。
 そんな、どちらかと言えば否定的な驚きとともに刊行された本作は、しかし、AIへの敗北を認めたものでは決してありません。むしろ生成AI時代の「つくること」のあり方を鋭く問うた小説として、人間の描くあらたな物語の時代の到来を予期させるものでした。
 実際、その後『東京都同情塔』は世界16ヶ国での翻訳が決定。イギリスのFinancial Times 「Best Books of 2025」に選出、アメリカの The Paris Review 「Our Favorite Books of 2025」で紹介されるなど、当初の否定的な声を見事に覆し、絶賛の声を浴びています。"Rie Qudan"は、いま世界でもっとも注目される日本人作家のひとりと言えるでしょう。
 本作には、あり得たかも知れない「もうひとつの東京」が登場します。ザハ・ハディドがデザインした新国立競技場が建設されているifの未来。物語は、主人公の建築家・牧野沙羅が、〈同情されるべき人々〉【ホモ・ミゼラビリス】の暮らす新時代の刑務所・シンパシータワートーキョーのコンペに参加するところから始まります。そして空虚な言葉と正義が支配する東京に沙羅のデザインしたタワーがそびえ立つとき、建築が、言葉が、現実をデザインしていることに私たちは気づくのです。
 今回、文庫化に際し「ユリイカ」(青土社)掲載の短篇「Planet Her あるいは最古のフィメールラッパー」を特別収録いたしました。加えて、ふたりの建築家──永山祐子さんとの対談、青木淳さんによる解説も掲載。現実の建築家と架空の建築家が響き合う、作品をより立体的に楽しめる一冊となっています。
 作家・九段理江の建築した『東京都同情塔』の世界を、ぜひ存分にお楽しみください。

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2026年05月15日   今月の1冊
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