これは共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か?
この秋、稲垣吾郎、新垣結衣に加え、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香といった実力派揃いの俳優たちが出演することが決定し、話題沸騰の映画「正欲」。
朝井リョウの原作小説がこのたび文庫化され、こちらも発売して2週間足らずで2度の大規模重版が掛かっている。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。
だがその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。
「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――」
作中のこの言葉にぎくりとさせられた読者は、孤独なひとりひとりがどうやって生きていくのかという根幹問題へと深掘りされていく。
まさに「読む前の自分には戻れない」一冊。
間違いなく朝井リョウの最高傑作である。
映画公開を前に是非手に取ってほしい。
2023年06月15日 今月の1冊