『筒井康隆、九十歳のあとさき─老耄美食日記─』現役最強の文豪が車椅子生活の心境を吐露する
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#155
新潮社
総合メールマガジン「
Mikazuki
」2026/05/09
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(単行本など)
現役最強の文豪が車椅子生活の心境を吐露する
『筒井康隆、九十歳のあとさき─老耄美食日記─』
雑誌連載時からあまりに挑発的かつ赤裸々な記述に話題騒然となった「老耄美食日記」に加え、あの『百年の孤独』解説や大江健三郎回想、そして老境の心情告白など、同時期のエッセイ類も併録し、九十歳を迎えた文豪の充実の文業を集成。卒寿を越え、重い怪我や病を得ても、読者を楽しませようとする作家魂が大炸裂する稀有な一冊!
「次の日から不幸が始まった。肩の痛みをなくそうとしてセデスを四錠も服んでしまったのだ。途端に気分が悪くなったものの、その日はなんとかして韓国料理の「モクチャ」に行った。光子はマッコリ、おれは梨のジュース。チヂミ、プルコギ、サムゲタン、スンデ、などで腹がいっぱいになり、もう食べられないと言っていながら冷麺がくると光子は夢中で食べた。帰宅して寝るまではなんともなかったのだ。二十三日土曜日の朝、いつも通り起きて廊下を歩こうとした。からだの自由がまったくきかなくなっていた。小箪笥の上に倒れ、顔面に無惨な傷を負い、廊下で寝たきりになり、救急車で神戸医療センターに運ばれる。
休みの日だったが、当直の医師が面倒を見てくれた。点滴や、いろんな検査を受けた。原因は腎臓だった。薬の服みすぎで悪化していたところに大量のセデスで、からだ全体の自由が失われたのだった。入院を薦められたがおれは拒否した。光子が心配だったからである。(中略)
次の日から寝たきりの生活となる。こうなれば美食どころではない」
(本書「九十歳で見る幻燈」より)
筒井康隆
『筒井康隆、九十歳のあとさき
─老耄美食日記─』
【桜木紫乃さん最新刊】
三菱銀行立て籠もり事件に潜む「親と子」、
人間模様の真実に迫る長編小説
桜木紫乃
『異常に非ず』
[書評]
海原純子
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人々を縛る見えないゴースト
『異常に非ず』は、昭和54年に大阪で起きた銀行立てこもり事件がモデルになっている。当時この事件を担当した記者は、警察が犯人説得のために緊急ヘリで母親を迎えに行ったところ、ヘリに乗り込む前に彼女が美容院に立ち寄り、二時間戻らなかったという事実に、拭いがたい違和感を覚えていた。「なぜなのか」と繰り返されるその言葉を聞いた桜木紫乃は、フィクションの器に移し替えることで掬い上げられるものがあるのではないかと考え本作を生み出した。
『異常に非ず』は二層で成り立っている。ジャズの音楽のように表層にはテンポ良く流れる潮流がある。読者はその流れで事件の推移を追う。しかし深層には強いエネルギーを持つねっとりと絡みつくような渦があり、それが時として上に向かい突き上げて表面の流れを蛇行させる。
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波 2026年5月号 より
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