川上未映子「苺ジャムから苺をひけば」(240枚)
新潮 2015年9月号
(毎月7日発行)
発売日 | 2015/08/07 |
---|---|
JANコード | 4910049010952 |
定価 | 特別定価998円(税込) |
・クローデル、マラルメ、そして日本/渡邊守章
・四人姉妹の三番目/伊藤朱里
・見ることとうつすこと/鈴木理策
「政治家」(全集未収録)/小林秀雄 解説 斎藤理生
大泉黒石と表現主義の見果てぬ夢
――幻の溝口健二『血と霊』の挫折/四方田犬彦
――『失われた時を求めて』を「編訳」して
/芳川泰久 角田光代
第一三二回・クレヨン以前レコード以後
・河野多惠子『考えられないこと』/菅野昭正
・M・ミッチェル 鴻巣友季子・訳『風と共に去りぬ』/小沼純一
・上田岳弘『私の恋人』/杉田俊介
・古井由吉『雨の裾』/浜崎洋介
・椹木野衣・会田誠『戦争画とニッポン』/ミヤギフトシ
・桐野夏生『抱く女』/村田沙耶香
編集長から

◎優れた小説は、限られた時間の出来事を描いたとしても、その作品世界には登場人物の現在のみならず、過去も未来さえも豊かに潜在しているのだと思う◎川上未映子「苺ジャムから苺をひけば」(240枚)の主人公は小学六年生の少女。彼女は自分や親や学校の仲間たちの現在に向け、曇りのない視線をぶつける。その幸福のみならず、過酷さに対しても。そして彼女の視線は、その強度ゆえに、隠されていた過去さえも眼前に招き寄せてしまうのだ。たとえば、父親の血縁の秘密を。ほぼ記憶にない亡き母親の存在を。だが、本作がもっとも飛翔したのは、彼女が直視した現在と過去が、その純度によって沸騰し、十二歳の彼女自身を未来へ、この物語の最終頁から始まる時間へと押し出した一瞬ではないか。少女に訪れたそんな恩寵の時を、私たちは「成長」と呼ぶのだ◎二つの新連載、辻原登「籠の鸚鵡」、松家仁之「光の犬」を開始できることを喜びたい。ここにも小説の特別な時間が充ちているはずだ。

バックナンバー
雑誌バックナンバーの販売は「発売号」と「その前の号」のみとなります。ご了承ください。
雑誌から生まれた本
新潮とは?

文学の最前線はここにある!
人間の想像力を革新し続ける月刊誌。
■「新潮」とはどのような雑誌?
「新潮」は日露戦争の年(1904年)に創刊された、百歳を超える文芸誌です。現役の商業文芸誌としては世界一古いという説があります(ただし第二次大戦中は紙不足のため数号、関東大震災のときは1号だけ休刊)。その歴史の一端は小誌サイト内にある〈表紙と目次で見る「新潮」110年〉でご覧ください。
■革新し続ける文学の遺伝子
もちろん古いことと古臭いことはまったく別です。百余年にわたり、たえず革新を続けてきたことこそが「新潮」の伝統であり、その遺伝子は現編集部にも確実に引き継がれています。ケータイ小説やブログ、あるいは電子配信、電子読書端末まで、いまだかつてない〈環境変動〉がわたしたちの生に及びつつある今、時代精神を繊細に敏感に感じ取った小説家、批評家たちが毎月、原稿用紙にして計1000枚以上(単行本にして数冊分)の最新作を「新潮」を舞台に発信し続けています。
■日本語で表現されたあらゆる言葉=思考のために
デビュー間もない20代の新人からノーベル賞受賞作家までの最新作がひとつの誌面にひしめきあうのが「新潮」の誌面です。また、文芸の同時代の友人である音楽、映画、ダンス、建築、写真、絵画などの領域からも、トップクラスの書き手、アーティストが刺激的な原稿を毎号寄せています。文芸を中心にしっかりと据えながら、日本語で表現されたあらゆる言葉=思考の力を誌面に結集させたい――それが「新潮」という雑誌の願いです。