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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

創刊21年目、新たな始まり

 ヨレのないスーツに襟元の輝く新社会人、誇らしげに、少しはにかんで歩く新入生――通勤途中でそうした光景に出会うと、今さらながら新年度が始まることに思いいたります。「昨年今年貫く棒の如きもの」(高浜虚子)という有名な句は、何も日々の繰り返しや退屈を嘆いたものではなく、それでも自分には一本の棒のごとき信念があるとの含意だそうですが、若者たちがこれから何をわが道としていくのか、楽しみでもあります。
 4月新刊、『俺は100歳まで生きると決めた』(加山雄三・著)は、自身を育んだ茅ヶ崎の海や強い絆で結ばれた仲間のことなど、「永遠の若大将」がセカンドライフを縦横に語ります。2年前にコンサート活動から引退した際の「俺は100歳まで生きる――」という決意、新たな音楽活動に挑み「本当に楽しかった」という70代から、愛した船の火災と病に見舞われる
80代、そして100歳を見据えた未来まで――デビュー以来、常にエンタメ界のトップランナーとして走り続けてきた著者ならでは、七転び八起きの人生論です。

『最適脳―6つの脳内物質で人生を変える―』(デヴィッド・JP・フィリップス・著、久山葉子・訳)は、グーグルやマイクロソフトなどフォーチュン500企業から講演依頼が引きも切らない世界的なコーチング専門家による初の著書。ドーパミン、オキシトシン、セロトニン、コルチゾール、エンドルフィン、テストステロン――これら6つの脳内物質のバランスを調整することでメンタルを整える、理論と実践のセルフ・リーダーシップに注目です。

『苦しくて切ないすべての人たちへ』(南直哉・著)は、『超越と実存』で小林秀雄賞を受賞した恐山菩提寺院代による、生老病死の根源にふれるエッセイ集。永平寺の修行時代や恐山でのエピソードを紹介しながら、やわらかで後ろ向きな独特の人生訓を授けます。「赦す自分」を赦す、「ま、いいか」の精神、忘れる勇気――年齢を忘れよ。過去を忘れよ、自分を忘れよ、死んだ後のことは放っておけ――等など、読めばこころが軽くなる30話です。

『ルポ 海外「臓器売買」の闇』(読売新聞社会部取材班・著)は、昨年度新聞協会賞を受賞した同紙のスクープを書籍化したもの。偽造パスポートに高額の治療費、ブローカーの存在や拙劣な手術など、海外での臓器移植の闇を明らかにするとともに、国内では平均10年もドナーを待たねばならない実状など、事件の実態から背景となる構図まで、ドラマチックかつ克明に解き明かしていきます。調査報道の社会的使命いまだ健在、を示す好著です。

 今月で21年目に入る新潮新書では上記の新刊4点とあわせて、創刊以来一千点を超える中から今こそ読みたい既刊作品をセレクト、全国書店でのフェアを展開します。どうぞよろしくお願いいたします。
2024/04