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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

本ならではの気づき

 自分が出版業界に就職した当時、業界全体の売上も書店数も、ほぼピークにありました。それから30数年、ざっくり言うとどちらも半減したようですが、最近、おや? と思ったのが、経済産業省が書店振興プロジェクトに乗りだすというニュースでした。行政の旗振りがどこまで効果的かはわかりませんが、書店の棚から気になる一冊を手に取って読み、そこから得られた様々な心象が、今の仕事の原点にあることはまちがいありません。3月新刊の新潮新書は次の4点、それぞれに書籍ならではの知識や気づきをもたらしてくれます。
ドキュメント 奇跡の子―トリソミーの子を授かった夫婦の決断―』(松永正訓・著)は、小児科医でノンフィクション作家でもある著者による、渾身の医療ドキュメント。わが子が先天性の難病「18トリソミー」という宣告を受けた共働き夫婦の決断、最高レベルの医療チームが挑む数々の難局――「情熱と当事者性をリアルタイムで紡ぐ家族の絆の物語」(落合陽一さん)は、避けられなかった運命と、予想もしなかった未来へと続いていきます。
 いまだに世界で唯一の貴族院が残り、政治経済から文化まで多方面で大きな影響を及ぼしている先進国。『教養としてのイギリス貴族入門』(君塚直隆・著)は、貴族史研究の第一人者が、21世紀の現代まで続くイギリス貴族の伝統とサバイバルの歴史、ノブレス・オブリージュに象徴される独特の精神性についてわかりやすく解説します。栄華もあれば苦難の時もあり、驚きにあふれた華麗なる一族の物語です。
なぜこんな人が上司なのか』(桃野泰徳・著)は、痛快にして学びとユーモアにあふれるリーダー論。責任は取らず手柄は自分のものに、失敗の本質を見抜けず見当違いの対策を部下に無理強い、数字を読めず時代の変化も読めず、無駄な努力を続ける――「あの人のことだ」と頭に浮かんだら、本書を開いていただきたいと思います。彼らの抱える根本的な問題、そうならないための有益なアドバイスが詰まっています。
大人の居酒屋旅』(太田和彦・著)は、30余年に及ぶ居酒屋旅を経た達人による、酒と文化の全国ツアー。およそすべての土地に居酒屋はあり、これほどまで風土、産物、気質、人情を反映している場所はありません。「飲んだ、食った、うまかった」だけの居酒屋めぐりに別れを告げて、歳を重ねたからこそわかる、その土地の文化と歴史を味わう格別の居酒屋旅へとご案内。地元への理解が地酒も地料理もいっそううまくすることを実証します。
2024/03